• 民事執行法ー7.強制執行の開始と停止・取消し
  • 2.強制執行の停止と取消し
  • 強制執行の停止と取消し
  • Sec.1

1強制執行の停止と取消し

堀川 寿和2022/02/03 16:05

執行の停止・取消しがなされる場合

原則

 執行の停止・取消しは、債務者又は第三者が執行の停止又は取消し文書を提出した場合になされる(民執法39条、40条)。

例外

 債務者の破産手続が開始された場合など、執行機関が職権で停止する場合がある。

 

強制執行の停止

(1) 意義

 強制執行の停止とは、執行機関が法律上の事由により強制執行を開始又は続行できないことをいう。

 

    一定の要件を具備して強制執行が開始されると、

執行機関はそのまま執行手続を続行するのが原則。

               ↓

    執行機関は執行を停止すべき旨の法定文書が提出されたとき、

強制執行を停止もしくは取消さなければならない。

 

(2) 執行停止文書

 執行機関は、執行正本を提出すれば執行を開始し、民執法39条で規定されている執行停止文書を提出すれば執行を停止する。強制執行の迅速性と効率性のためである。

 民執法39条は限定列挙である。このうち、1号から6号文書については、執行停止にとどまらず、執行の取消しにまでいたる執行取消文書でもある(民執法40条)。

債務名義(執行証書を除く)もしくは仮執行の宣言を取り消す旨又は強制執行を許さない旨を記載した執行力のある裁判の正本(1号)

(イ)債務名義を取り消す裁判とは、債務名義となる裁判が上訴や再審により、また仮執行宣言付支払督促が異議により取り消された場合である。

(ロ)仮執行宣言を取り消す裁判とは、上訴により仮執行宣言のみを取り消す裁利のことをさす(民執法260条3項)。

(ハ)強制執行不許の裁判とは、請求異議の訴え、執行文付与に対する異議の訴え、第三者異議の訴えなどに基づいてなされた執行不許の裁判をさす。

債務名義に係る和解、認諾、調停又は労働審判の効力がないことを宣言する確定判決の正本(2号)

 例えば、確定した和解無効確認判決の正本は、和解調書に基づく強制執行に対する執行停止文書となる。

仮執行宣言付判決、給付を命ずる決定・命令、仮執行宣言付損害賠償命令、仮執行宣言付支払督促、執行費用等の負担額を定める裁判所書記官の処分が、取下げその他の事由によりそれらが効力を失ったことを証する調書の正本その他の裁判所書記官の作成文書(3号)

強制執行をしない旨又は強制執行の申立てを取り下げる旨を記載した裁判上の和解もしくは調停の調書の正本又は労働審判法21条4項の規定により裁判上の和解と同一の効力を有する労働審判の審判書もしくは同法20条7項の調書の正本(4号)

 不執行の合意や執行申立ての取下げの合意が裁判上の和解や調停において成立している場合には、それに基づく請求異議訴訟の判決の確定や債権者による執行申立ての取下げを待たずに、それら調書の提出により執行を停止することができるとしたものである。

 この文書は裁判上の和解又は調停調書の正本でなければならず債権者•債務者間における強制執行をしない旨のいわゆる不執行の合意や執行取下げの合意等の私文書では足りない。

強制執行を免れるための担保を立てたことを証する文書(5号)

 仮執行宣言付判決において、担保を供して仮執行を免れることができる旨の宣言(仮執行免脱宣言)が付されている場合の、債務者の立担保を証する文書をさす。

強制執行の停止及び執行処分の取消しを命ずる旨を記載した裁判の正本(6号)

 執行停止と共に、既になされた執行処分の取消しをも命ずる裁判の正本のことをさす。

強制執行の一時停止を命ずる旨を記載した裁判の正本(7号)

 強制執行の一時停止を命ずるが、執行処分の取消しは命じていない裁判(一時的執行停止命令)の正本をさす。この文書が提出された場合は、執行は停止されるが、既になされた執行処分は取消されない。

債権者が債務名義の成立後に弁済を受け、又は弁済の猶予を承諾した旨を記載した文書(8号)

 弁済受領文書を提出すれば、4週間に限り執行停止が認められる(民執法39条2項)。債権者が弁済を受けたのに執行を継続するということは、弁済の有無につき争いがあると考えられ、最終的に請求異議の訴えにより解決をする必要がある。債務者にその提訴の余裕を与えるため4週間に限り執行停止を認めたものである。期間内に請求異議の訴えを提起して、その他の執行停止文書を提出しないと、手続は続行されることになる。弁済猶予文書の提出による執行停止は2回に限り、かつ通算して6月を超えることができない(民執法39条3項)。債務者も6か月を超えて執行停止を求める場合、請求異議の訴えにより執行自体の排除を求めなければならない。なお、ここでいう弁済受領文書は、必ずしも弁済に限らず、免除、相殺などにより執行債権が消滅した場合も含まれる。

 

強制執行の取消し

(1) 意義

 執行処分の取消しとは執行機関がすでに行った執行処分の全部又は一部を除去することをいう。

 

(2) 強制執行が取り消される場合

 次の場合がある。

執行取消文書が提出された場合

 前述の民執法39条1号から6号に掲げる文書が提出されたときは、執行機関は執行手続を停止し、さらに既に行った執行処分を取り消さなければならない(民執法40条1項)。この取消処分は即時に効力を生ずる。この執行処分の取消しについては、執行抗告はできない(民執法40条2項)。

債権者が強制執行の申立てを取り下げた場合

 ③ その他の場合(執行費用の不予納(民執法14条)、目的不動産の滅失(民執法53条)など)