- 民事執行法ー6.債務名義と執行文
- 3.執行文
- 執行文
- Sec.1
1執行文
■執行文の意義
(1) 意義
執行文とは、債務名義の執行力の現存及び内容を公証する文言で、債務名義の末尾に付記する文言をいう(民執法26条2項)。強制執行は、原則として執行文の付された債務名義の正本に基づいて実施する(民執法25条)。
(2) 機能
強制執行に債務名義は不可欠だが、債務名義があるからといって常に執行力が現存しているとは限らない。それが仮執行宣言付給付判決の場合であれば上級審で取り消されている場合もあるし、確定した給付判決でも口頭弁論終結後に債務者の弁済等により債権が消滅したとして請求異議の訴えによって執行力が排除されていたりすることもあるためである。しかし、執行機関が執行を開始する段階で当該債務名義の執行力の有無について調査することにすると、迅速な執行ができないことになる。そこで、執行力が現存して執行できる旨の証明を債務名義の成立に関与した栽判所書記官や公証人に行わせ、執行機関としてはそれに基づき、ただちに強制執行が実拖できることとしたものである。
■執行文の種類
(1) 種類
執行文には、次の3種類がある。
・単純執行文 ・条件成就執行文 ・承継執行文 |
(2) 単純執行文
① 意義
債権者の執行文付与の申立てに対し、事件記録や執行証書の原本を保存する裁判所書記官や公証人が執行力が現存しているかを調査し、これを認めるときはその旨を債務名義の末尾に付記する通常の執行文である。
② 単純執行文が必要な債務名義
(イ)原則
執行文はすべての債務名義に必要なのが原則である(民執法25条)。
(ロ)例外(執行文が不要な債務名義)
・少額訴訟における確定判決 ・仮執行宣言付少額訴訟判決 ・仮執行宣言付支払督促 ・仮差押命令・仮処分命令 |
ただし、下記の債務名義であっても、それに表示された当事者以外の者を執行当事者とする場
合には、後述する承継執行文は必要となる。
単純執行文
債務名義の事件番号 平成○○年(ワ)第○○○号
執 行 文
債権者甲野太郎は、債務者乙野次郎に対し、この債務名義により強制執行することができる。
平成○○年○月○○日
○○地方裁判所民事記録係 裁判所書記官 記録 四郎 印
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(3) 条件成就執行文
請求が、債権者の証明しなければならない事実の到来にかかる条件付債権である場合は、債権者が条件成就を証する書面を提出したときに限り執行文が付与される(民執法27条1項)。
これを、条件成就執行文という。ここでいう債権者の証明すべき事実とは、停止条件の成就、不確定期限の到来、先履行の関係にある反対給付の履行などを指す。債務名義上の給付が確定期限付であるなどの場合は、執行機関が容易に調査できることから、単なる執行開始の要件とされ、執行文付与の要件とはされていない(民執法30条1項、31条1項)。
ex)先履行の関係にある反対給付の履行
「債権者が債務者に1000万円支払った後、債務者は債権者に甲土地を引渡せ」
↓
債権者が債務者に1000万円支払って、その領収書を提出した場合
↓
債権者が証明すべき事実の到来
↓
執行文付与
ex)不確定期限
「乙はAが死亡したときには、甲に対し、ただちに本件建物を明け渡せ」
↓
Aが死亡
↓
Aの死亡の事実を証する除斥謄本や死亡診断書を提出
↓
執行文付与
執行文付与の要件 |
停止条件の成就 |
不確定期限の到来 |
|
先履行の関係にある反対給付の履行 |
cf
執行開始の要件 |
確定期限の到来 |
担保提供の有無 |
|
同時履行の関係にある反対給付の履行 |
(4) 承継執行文
強制執行は、執行力が及ぶ者に対して行われるが、相続等の一般承継や債務名義に表示された権利・義務の第三者への移転等の特定承継があった場合など、債務名義に記載された当事者以外の者に執行力が及ぶ場合がある。この場合に承継した者が又はその者に対して執行するために、新たな債務名義を作り出すことなく、従前の債務名義で執行当事者の変更を明らかにすれば足りることにした。これが承継執行文である。例えば、AがBに対して建物明渡請求訴訟で勝訴したが、強制執行する前に被告Bが当該係争物をCに譲渡してしまった場合、Aは口頭弁論終結後の承継人Cに対する承継執行文の付与を受けることによって強制執行することができる。
承継執行文
債務名義の事件番号 平成○○年(ワ)第○○○号
執 行 文
債権者甲野太郎は、債務者乙野次郎の承継人丙野三郎に対し、この債務名義により強制執行することができる。
平成○○年○月○○日
○○地方裁判所民事記録係 裁判所書記官 記録 四郎 印
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■執行文付与手続
(1) 執行文付与機関(民執法26条1項)
① 執行証書以外の債務名義
事件の記録の存する裁判所の裁判所書記官が付与する。
② 執行証書の場合
その原本を保存する公証人が付与する。
(2) 執行文付与の要件
① 一般の付与要件
すべての債務名義に必要な要件である。
(イ)債務名義が有効に存在していること
(ロ)債務名義の執行力が発生し、それが現存していること
② 特別の付与要件
(イ)条件成就執行文の特別の付与要件
債務名義上の請求権が条件付、不確定期限付、先履行の給付にかかっているときは、それらの事実を債権者が文書で証明したときに限り、執行文が付与される。なお、これら事実の到来(条件の成就)は文書によって証明しなければならず、証人尋問や当事者尋問によることはできない。
事実の到来が文書で証明できないとき、債権者は後述する執行文付与の訴えを提起し、その訴訟で条件の成就を証明していく必要がある。
(ロ)承継執行文の特別の付与要件
債務名義に表示された当事者以外の者を債権者又は債務者とする執行文は、その者(債務者)に対し、又はその者(債権者)のために強制執行ができることが付与機関(裁判所書記官又は公証人)に明白であるとき又は債権者がそのことを証する文書を提出したときに付与される(民執法27条2項)。
強制執行ができることが付与機関に明白であるときとは、例えば、有名人の死亡や大企業の合併の事実などの場合である。
なお、強制執行開始後、儀務者が死亡したときは、その相続人を執行債務者とする執行文を得ることなく、執行を続行することができる(民執法41条1項)。
③ 執行文の再度付与
執行文は、次の場合に限り数通付与し又は再度付与することができる(民執法28条1項)。
(イ)債権の完全な弁済を得るため執行文の付された債務名義の正本が数通必要であるとき(数通付与)
(ロ)執行文の付された債務名義の正本が滅失したとき(再度付与)
(3) 執行文の付与
執行文付与機関は、上記の要件を調査し、それが認められると、債権者が依務者に対しその債務名義により強制執行ができる旨を、債務名義の末尾に付記する方法によって行う(民執法26条2項)。