- 民事執行法ー6.債務名義と執行文
- 2.債務名義の種類
- 債務名義の種類
- Sec.1
1債務名義の種類
■債務名義の種類
法は、債務名義を限定列挙する(民執法22条)。
(1) 確定した給付判決(1号)
給付義務を宣言した給付判決である。給付義務の性質上強制執行に適するものであることを必要とする。したがって、給付義務の性質上強制執行の不可能なものは債務名義とならない(ex 夫婦の同居義務、大工の家を建てる債務等)。また確認判決や形成判決、中間判決は債務名義とはならない。
(2) 仮執行宣言付判決(2号)
確定前の給付判決でも、仮執行宣言が付されたものは債務名義となる。判決主文において「この判決は仮に執行することができる」などのように表示される。
(3) 抗告によらなければ不服申立てのできない裁判(決定・命令)(3号)
不服申立てが抗告による裁判とは、決定・命令のことであり、決定や命令でその内容が給付を命ずるものは債務名義となる。給付を命ずる決定・命令は原則として告知と同時に効力を生ずるため、(民訴119条)、確定を待たずに債務名義となる。ただし、例外的に確定しなければ効力を生じないものもあり、その場合は確定により債務名義となる(ex 不動産の引渡し命令)。
(4) 仮執行宣言付損害賠償命令(3号の2)
殺人、傷害などの犯罪被害者やその遺族は、刑事事件の弁論終結までに刑事事件の係属している裁判所に対して、不法行為に基づく損害賠償命令を申し立てることができ、刑事事件について有罪判決が言い渡されると、損害賠償について審理が行われ、申立てを認めるときは、損害賠償命令が発令され、仮執行宣言を付すこともできる。この仮執行宣言が付された損害賠償命令が債務名義となる。
(5) 仮執行宣言付支払督促(4号)
金銭その他の代替物又は有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求については、簡易裁判所に所属する裁判所書記官は、債権者の申立てにより、債務者を審尋しないで支払督促を発することができる。この送付された支払督促に対して債務者がその送達の日から2週間内に督促異議の申立てをしないと、支払督促につき仮執行宣言が付される(民訴391条1項)。この仮執行宣言の付された支払督促が、債務名義となる。
(6) 訴訟費用・執行費用等の額を定める裁判所書記官の処分(4号の2)
裁判所書記官が訴訟費用額確定手続(民訴法71条)及び和解の費用額確定手続(民訴法72条)により、訴訟費用額等の負担の額を定めたときは、その裁判所書記官の処分は債務名義となる。また、裁判所書記官が執行費用額確定手続(民執法42条4項)により執行費用額等の負担の額を定めたときは、その処分が確定したときに債務名義となる。
(7) 執行証書(5号)
① 意義
公証人がその権限に基づいて作成した公正証書で、次の要件を備えたものを特に執行証書といい、債務名義となる。裁判所の関与なくして認められる債務名義である。
② 執行証書の要件
(イ)公証人がその権限に基づいて作成した公正証書であること (ロ)一定額の金銭の支払いその他代替物、有価証券の一定数量の給付を目的とする請求であること したがって特定物の引渡し、明渡しを内容とする公正証書は債務名義とならない。請求権は、金額・数額が一定であることが必要で、そのことが執行証書の記載により明らかにされていなければならない。 (ハ)債務者が強制執行に服する旨の陳述が記載されていること |
公正証書が執行証書としての上記の要件を欠く場合は執行力を生ぜず、債務名義とならない。
執行証書
金銭消費貸借公正証書
公証人甲野一郎は、当事者の嘱託により下記の法律行為に関する陳述の趣旨を録取し、この証書を作成する。
第1条~○条 [金銭消費貸借の内容] 第○条 債務者は、本契約上の債務を履行しないときは、直ちに強制執行を受けてもよいと異議なき承諾をした。
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(8) 確定した執行判決のある外国判決(6号)
外国裁判所の判決は、さらに日本の裁判所の執行判決が付けられてはじめて債務名義となる(民執法24条)。執行判決とは、外国の裁判所での判決による強制執行を許す旨を宣言する判決である。この執行判決が確定すると債務名義となる。
(9) 確定した執行決定のある仲裁判断(6号の2)
仲裁判断は、確定判決と同一の効力を有するが、仲裁判断に基づく民事執行をするには執行決定がなければならない(仲裁法45条1項)。執行決定も確定により債務名義となる。
(10) 確定判決と同一の効力を有するもの
民事訴訟法その他の法律が確定判決と同一の効力を有すると認めたもので、給付請求権を表示しているものは債務名義となる。金銭の支払等の給付義務を内容とする裁判上の和解調書や認諾調書、その他、民事調停における調停調書、家事調停における調停調書などがその例である。
また、仮執行宣言付支払督促についても債務者に送達されてから2週間以内に異議の申立てがないと確定判決と同一の効力をもつため、以後は確定判決と同一の効力を有するものとして債務名義となる。