- 民事訴訟法ー26.略式訴訟手続
- 2.督促手続(支払督促)
- 督促手続(支払督促)
- Sec.1
1督促手続(支払督促)
■督促手続(支払督促)
(1) 督促手続の意義
① 意義
督促手続とは、金銭その他の代替物又は有価証券の一定数量の給付を目的とする請求権について、債権者に簡易迅速に債務名義を得させるための略式手続をいう。
② 趣旨
債務者の不履行には、債務自体を争う場合と、債務は争わないが履行しない場合とがある。
債務者が債務の存在を争わない場合にまで通常の訴訟手続によって訴えを提起させると時間と費用がかかって無駄が多い。そこで審理を迅速・簡略化した特別手続が認められた。これが督促手続である。しかし、債務者が債務を争う場合は通常訴訟によって審判を受ける機会が与えられなければならないため、そのときは、督促手続は通常訴訟へ移行し、その後は通常の手続による審理が開始されることになっている。つまり、督促手続は、債務者が債務の存在を争わない場合に、債権者に簡易な債務名義を与えて、迅速に強制執行できるようにするための手続である。
(2) 支払督促の要件
① 請求が金銭その他の代替物又は有価証券の一定数量の給付を目的とするものであること
督促手続が認められるのは給付請求だけであり、給付請求でも特定物の給付、建物収去、建物明渡し、意思表示等、作為・不作為の請求等は許されない。原状回復が容易な給付に限定する趣旨である。
また、条件付、不確定期限付請求についても支払督促を発することはできない。
これに対し、反対給付と引換えに履行を求める支払督促は可能である。
② 債務者に対し、日本国内で公示送達によらないで送達することができること
(3) 支払督促申立て
① 管轄
a) 原則
支払督促の申立ては、請求の価格を問わず、債務者の普通裁判籍所在地の簡易裁判所の裁判所書記官にするのが原則である(民訴法383条1項)。専属管轄である。簡易裁判所の書記官の権限とされている点に注意。また、支払督促は請求の目的の価格に制限なく、140万円を超える場合であっても、その申立てをすることができる。
b) 例外
次の場合は、その地の簡易裁判所の書記官に対して申し立てることもできる(民訴法383条2項)。
(イ)事務所・営業所を有する者に対する請求で、その業務に関するものは、当該事務所又は営業所の所在地
(ロ)手形・小切手による金銭の支払請求及びこれに附帯する請求については、手形・小切手の支払地
c) 管轄違いの申立て
管轄違いの支払督促の申立ては、管轄簡易裁判所に移送せずに却下する(民訴法385条1項)。
② 申立ての方式
支払督促の申立てには、その性質に反しない限り、訴えに関する規定が準用される(民訴法384条)。したがって、支払督促の申立ては、債権者が書面又は口頭で当事者、その法定代理人及び請求の趣旨・原因を表示してする(民訴法133条)。
なお、簡易裁判所の手続における訴えの提起においては、請求の原因に代えて紛争の要点を明らかにすれば足りる(民訴272条)とされているが、同条の規定は支払督促の申立てには準用されていないため、支払督促の申立書には、常に請求の趣旨及び原因を記載しなければならない。
③ 申立ての取下げ
a) 債権者による取下げ
債権者は、債務者の同意なくして支払督促の申立てを取り下げることができる。
b) 取下げ擬制
支払督促は公示送達ができないため、債務者の所在不明で送達できない事件がたまっていくおそれがある。そこで債権者の申し出た場所に債務者の住所・居所・就業場所等がないため送達ができないときは、裁判所書記官はその旨債権者へ通知し、それを受けた日から2月の不変期間内に債権者が他の送達場所の申出をしないときは支払督促の申立ての取下げがあったものとみなされる(民訴法388条3項)。この場合、支払督促の申立ての取下げがあったものとみなされるのであって、却下されるのではない。
(4) 支払督促申立に対する処分
① 支払督促申立却下
a) 申立却下
申立てが民訴法382条反して不適法である場合(請求適格を欠く場合)、又は請求に理由がないことが明らかであるときは申立てを却下する(民訴法385条1項)。この却下処分は、相当と認める方法で告知することによって、その効力を生ずる(同条2項)。
b) 申立却下に対する異議
この却下処分に対しては、その告知を受けた日から1週間の不変期間内に、その裁判所書記官所属の裁判所に異議の申立てができる(民訴法385条3項)。この異議に対する簡易裁判所の裁判に対しては、不服申立てができない(同条4項)。
② 支払督促の発令
申立てが適法でかつ請求に理由があると認めるとき、簡易裁判所書記官は債務者を審尋することなく支払督促を発する。
③ 支払督促の送達
支払督促は債務者に送達される(民訴法388条1項)。債務者のみに正本を送達し、債権者には支払督促を発したことを通知すれば足りる(民訴規234条)。申立人である債権者は内容を了知しているからである。支払督促の効力は、債務者に送達された時に生ずる。民訴法388条2項)
(5) 仮執行宣言前の督促異議
① 督促異議の申立て
支払督促は債務者を審尋しないで発せられる。その送達を受けた債務者はそれに対し異議の申立てができ、これが督促異議である。督促異議は、支払督促の対象となった請求について、通常の訴訟手続による審理及び判決を求める旨の申立てをいう。支払督促に対する唯一の不服申立方法である。
② 異議に対する裁判所の対応
a) 異議が不適法な場合
簡易裁判所は、督促異議を不適法と認めるときは、請求が地方裁判所の管轄に属する場合でも、決定でその異議を却下しなければならない(民訴法394条1項)。この決定に対しては即時抗告ができる(同条2項)。
b) 異議が適法な場合
(イ)支払督促の失効
適法な督促異議の申立てがあったときは、支払督促は異議の限度で効力を失う(民訴法390条)。
(ロ)訴訟手続への移行
適法な督促異議の申立てがあったときは、督促手続は当然に通常訴訟へ移行し、請求額に応じて、支払督促申立ての時にそれを発した裁判所書記官所属の簡易裁判所又はその所在地を管轄する地方裁判所に訴えの提起があったものとみなされる。具体的には、訴額が140万円以下であれば支払督促の申立ての時(督促異議の申立ての時ではない!)に、その支払督促を発した裁判所書記官の属する簡易裁判所に、訴額が140万円を超える場合にはその所在地の管轄地方裁判所に訴えの提起があったものとみなされる。支払督促申立の際に、手形訴訟による審理及び裁判を求める旨の申述があれば手形訴訟の提起があったものとみなされる。この場合においては、督促手続の費用は、訴訟費用の一部とする(民訴法395条)。
(6) 仮執行宣言付支払督促
① 仮執行宣言申立て
債務者が支払督促送達後2週間内に督促異議の申立てをしないときは、その後30日以内に債権者は裁判所書記官に対して書面又は口頭で仮執行宣言の申立てをすることができる(民訴法391条1項)。債権者がこの仮執行申立期間内に申立てをしなかったときは、支払督促はその効力を失う(民訴法392条)。
② 仮執行宣言
a) 申立却下
仮執行宣言の申立てが不適法なときは却下する(民訴法392条3項)。
仮執行宣言の申立却下処分に対しては、債権者は1週間の不変期間内に、その裁判所書記官所属の裁判所に対し異議を申し立てることができ、この異議の申立てについての裁判に対しては即時抗告をすることができる(民訴法391条4項)。
b) 仮執行宣言付支払督促発付
適法であるときは、支払督促に仮執行宣言を付す。
仮執行宣言付支払督促の正本は、当事者双方に送達する(民訴法392条2項)。この仮執行宣言付支払督促は確定を待たずに債務名義となり、執行力をもつ。これに基づく強制執行には原則として執行文を要しない。
(7) 仮執行宣言後の督促異議
① 仮執行宣言後の異議
仮執行宣言が付された後も2週間の不変期間を経過するまで、債務者はなお督促異議の申立てができる(民訴法393条)。この期間を徒過した督促異議は、不適法として却下される。この却下決定に対しては即時抗告ができる(民訴法394条)。
② 異議の効果
宣言後の場合も、適法な異議の申立てがあれば、仮執行宣言前の異議の場合と同様、手続は通常訴訟へ移行する(民訴法395条)。しかし、仮執行宣言後の異議は、支払督促の確定を遮断させるが、支払督促自体は失効させない。したがって執行力は停止しないから執行を避けるには執行停止の裁判を得なければならないことになる。
(8) 支払督促の確定
仮執行宣言付支払督促に対して異議期間内(送達後2週間以内)に、債務者の異議申立てがないとき、又は督促異議の申立てを却下する決定が確定したときは、支払督促は確定判決と同一の効力を有する(民訴法396条)。ただし、支払督促は裁判所書記官の処分であるため、確定判決と同一の効力といっても、執行力だけで、既判力は認められない。