• 民事訴訟法ー26.略式訴訟手続
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1手形・小切手訴訟

堀川 寿和2022/02/03 14:36

手形・小切手訴訟

(1) 手形訴訟の意義

意義

 手形訴訟とは、手形金債権の支払を受けるため、簡易迅速に債務名義を獲得することを目的とする略式訴訟手続をいう。

趣旨

 手形・小切手の紛争は、債務者・金額とも明確だが、履行がないだけというものが多い。この場合、通常手続によったのでは時間がかかりすぎるところから、簡易迅速に決済が求められる手形・小切手についての争いについて、簡易迅速な特別訴訟手続が認められた。

 

(2) 手形訴訟の要件

 手形訴訟によることができるのは、手形による金銭の支払請求及びこれに附帯する法定利率による損害賠償の請求を目的とする訴えだけである(民訴法350条1項)。

 「手形による金銭の支払の請求」とは、例えば引受人や振出人に対する手形金請求権等の手形行為によって生じた金銭支払請求権をいい、原因関係上の請求は含まない。よって手形振出の原因となった売買代金の請求権について手形訴訟の提起はできないことになる。

 また、手形訴訟において確認判決や形成判決を求めることはできない。

 

(3) 手形訴訟の方式等

管轄裁判所

 通常訴訟手続の場合と同じである。したがって、土地管轄の場合、被告の普通裁判籍所在地の裁判所(民訴法4条)又は手形・小切手の支払地の裁判所(民訴法5条2号)が管轄する。

 また、事物管轄として、訴額に応じて地方裁判所又は簡易裁判所が管轄する。

訴え提起の方式

 訴状に、手形訴訟による審理及び裁判を求める旨を記載しなければならない(民訴法350条2項)。

 簡易裁判所での口頭提起の場合は起訴と同時に手形訴訟による旨申述すればよい。

 つまり、手形訴訟によるか、通常訴訟によるかの選択は原告に委ねられていることになる。

反訴の禁止

 手形訴訟において、反訴を提起することはできない(民訴法351条)。審理が複雑化して簡易迅速な審判ができなくなるからである。仮に相手方が反訴に対して異議なく応訴したとしても、反訴は無効である。

 

(4) 手形訴訟の審理

一期日審理の原則

 訴状を受理したときは、裁判長はただちに口頭弁論の期日を定め当事者を呼出すことになる。

呼出状には、期日前にあらかじめ主張・証拠の申出及び証拠調べに必要な準備をなすべき旨を記載しなければならない(民訴規213条1項2項)。迅速な審理を行うためである。弁論はできるだけ最初の期日で終結するようにしなければならない(民訴規214条)。やむをえず弁論を続行する場合には、次回期日は原則として、前の期日から15日以内に指定しなければならない(民訴規215条)。

cf 少額訴訟のように判決言渡しを口頭弁論終結後ただちにする旨の規定は存在しない。また、判決の言渡しも少額訴訟のように判決書原本に基づかないこともできない点に注意。

証拠の制限

a) 証拠調べの制限

 証拠調べは書証に限りすることができる(民訴法352条1項)。証人尋問、当事者尋問(例外あり)、鑑定、検証等の証拠調べは原則として行わない。しかも文書は挙証者が所持するものに限られ、相手方、第三者、官庁等が所持する文書に対する提出命令の申立て、送付嘱託の申立てをすることは認められない(民訴法352条2項)。対照の用に供すべき筆跡又は印影を備える物件の提出の命令や送付嘱託も同様にできない。また、文書の取調べも受訴裁判所が自ら行わなければならず、他の裁判所に嘱託することはできない(同条4項)。

③補充的当事者尋問

 文書の真否、手形の呈示の有無が争われた場合は、文書の真否又は手形呈示に関する事実については補充的に当事者、又はその法定代理人(法人の代表者)の尋問が許される(民訴法352条3項)。

 ただ、当事者の申立てに限られ、職権ですることはできない。

 

(5) 手形判決

 判決書には、手形判決と表示しなければならない。

一般の訴訟要件を欠く場合

 訴え却下の訴訟判決をする。これに対しては、通常訴訟と同様に控訴することができる。

請求の全部又は一部が手形訴訟の適格を有しない場合

 請求が手形金及びこれに附帯する法定利率による損害賠償請求でないときは、訴えを却下する(民訴法355条1項)。この判決に対しては控訴できない(民訴法356条)。却下されても、通常訴訟によることができるからである。原告がこの却下判決書の送達を受けた日から2週間内に、通常手続による訴えを提起したときは、手形訴訟の提起に基づく時効完成猶予の効力が維持される(民訴法355条2項)。

請求の全部又は一部が手形訴訟の適格を有する場合

a) 請求認容又は請求棄却判決

 訴訟要件を具備するときは、請求の認容、棄却いずれかの本案判決をすることになる。それらに対する不服申立方法は控訴ではなく、判決した裁判所に対する異議申立てによる(民訴法357条)。

 この異議の申立てにより、第1審の通常訴訟手続へ移行する(民訴法361条)。

原告の請求を認容する場合であっても、少額訴訟のように判決言渡しの日から3年を超えない範囲内において、認容する請求に係る金銭の支払いについて、分割払いの定めをすることはできない点に注意。

b) 仮執行宣言

 請求認容の判決には常に職権で仮執行宣言が付される(民訴法259条2項)。手形・小切手訴訟は迅速性が要求されるからである。

 

(6) 通常訴訟への移行

原告の申立てによる移行(手形判決前の移行)

 原告は手形訴訟提起後、口頭弁論終結前まではいつでも被告の同意なしに通常訴訟への移行の申述をなすことができる(民訴法353条1項)。これにより訴訟は通常訴訟へ移行し、すでに指定された期日は、通常手続のための期日とみなされる(同条2項4項)。

 被告には通常訴訟への移行の申述は認められない。少額訴訟の場合は被告が訴訟を通常の手続に移行させる旨の申述をする点と比較。

異議申立てによる移行(手形判決後の移行)

a) 異議申立て

 手形訴訟の本案判決に対しては不服のある当事者は異議申立てをすることができる(民訴法357条)。

b) 期間・方式

 異議申立ては、手形判決書又はこれに代わる調書判決の調書の送達を受けた日から2週間以内に、その判決をした裁判所に書面でしなければならない(民訴法357条)。

 不適法な異議については、補正を命じるが、異議が不適法でその不備を補正することができないときは、裁判所は、口頭弁論を経ないで、判決で、異議を却下することができる(民訴法359条)。

c) 異議の取下げ

 異議は、通常手続による第1審終局判決の言渡しがあるまで取り下げることができる(民訴法360条1項)。異議の取下げは相手方の同意を要する(同条2項)。相手方の通常訴訟による審判の利益を奪うからである。

d) 異議申立権の放棄

 また、異議申立権は異議申立前に限り放棄することができる(民訴法358条)。

異議申立ての効力

a) 確定遮断効

 適法な異議申立てによって、手形判決の確定は遮断される。

b) 通常訴訟への移行

 異議の申立てにより訴訟は口頭弁論終結前に復し、今度は証拠制限のない通常の訴訟手続により審理される(民訴法361条)。通常訴訟手続により審理されることになるため、反訴提起も可能となる。

cf 少額訴訟の異議審手形訴訟での訴訟行為の効力はそのまま維持される点と比較。

 

(7) 通常訴訟の終局判決

手形訴訟判決と符合するとき

 審理の結果、手形判決の結論と一致する場合は、裁判所は手形判決を認可する判決をする(民訴法362条1項)。

手形判決の手続が法律に違反したものであるとき

 手形判決の手続に違法がある場合には、手形判決を取り消して新たな判決をする(同条2項)。

不服申立て

 これらの判決には、控訴することができる。

 

(8) 小切手判決

 手形訴訟の手続は、小切手訴訟にも準用されているため、基本的に同様である。