• 民事訴訟法ー26.略式訴訟手続
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1少額訴訟

堀川 寿和2022/02/03 14:29

 略式訴訟とは、通常訴訟より、迅速な事件の処理を目的とする特別訴訟をいう。「少額訴訟」、「支払督促」、「手形・小切手訴訟」がある。

少額訴訟

(1) 少額訴訟の意義

意義

 少額訴訟とは、訴額が60万円以下の金銭支払請求のための簡易迅速な略式訴訟をいう。

 簡易裁判所の管轄に専属する。

趣旨

 日常の社会生活から生ずる少額の金銭トラブルについて、通常よりも簡易迅速な手続で解決できるようにして、一般市民に利用し易いものとするところにある。

 

(2) 少額訴訟の要件

① 訴訟の目的の価額が60万円以下の、金銭の支払の請求を目的とする訴えであること(民訴法368条1項)

 したがって金銭債務の不存在確認請求、物の引渡請求、作為・不作為請求等を少額訴訟によることはできない。

② 同一の簡易裁判所において、少額訴訟の提起が同一の年に10回を超えていないこと

 金融業者の独占的利用を防止するためである。したがって、訴え提起の際、その年にその裁判所で少額訴訟を利用した回数を届け出なければならない(民訴法368条2項3項)。

 原告が同一の簡易裁判所において同一の年に少額訴訟による審理及び判決を求めることができる回数の制限を越えてこれを求めた場合には、裁判所は職権で訴訟を通常の手続により審理及び裁判をする旨の決定をしなければならない(民訴373条3項1号)。

 

(3) 通常の訴訟との関係

少額訴訟による審理・裁判を求める申述

 少額訴訟によるか通常訴訟によるかは原告の任意である。したがって、原告は訴え提起の際、少額訴訟による審理・裁判を求める旨を申述しなければならない(民訴法368条2項)。この申述がなければ、通常訴訟の手続によることになる。

通常訴訟への移行

a) 被告の申述による移行

 原告が少額訴訟による訴えを提起した場合、被告は訴訟を通常手続へ移行させる旨の申述ができる(民訴法373条1項)。この申述があった時点で、訴訟は通常手続へ移行する(同条2項)。裁判所の決定や、相手方原告の同意等は不要であり、当然に通常訴訟に移行することになる。 

b) 裁判所による移行決定

 次に掲げる場合には、裁判所は、訴訟を通常の手続により審理及び裁判する旨の決定をしなければならない(民訴法373条3項)

1. 少額訴訟の要件を欠くとき

2. 裁判所が相当の期間を定めて利用回数の届出を命じたのに届出がないとき

3. 被告に対する最初の口頭弁論期日の呼出しが、公示送達によらなければできないとき

4. 少額訴訟により審理及び裁判をするのを相当でないと認めるとき

 この移行決定に対しては不服申立てができない(民訴法373条4項)。

 

(4) 少額訴訟手続の特則

 少額訴訟では、特別の事情がある場合を除き、最初にすべき口頭弁論の期日において、審理を完了しなければならず、その後直ちに判決の言渡しをする(民訴法374条1項)。さらに次の特則が定められている。

① 攻撃防御方法の提出

 当事者は、その期日前又はその期日中にすべての攻撃防御方法を提出しなければならない(民訴法370条2項)。

② 証拠調べの制限

 証拠調べは、即時に取り調べうる証拠に限られる(民訴法371条)。証人の尋問は、宣誓をさせないですることができる(民訴法372条1項)。証人尋問や当事者尋問も一般の交互尋問の方法(民訴法202条1項、210条)による必要がなく、裁判官が相当と認める順序ですることができる(民訴法372条2項)。また、裁判所が相当と認めるときは、証人の出頭を要せず、電話会議システムを利用して裁判所外にいる証人を尋問することもできる(同条3項)。

③ 反訴の禁止

 少額訴訟においては、反訴を提起することができない(民訴法369条)。審理が複雑化するおそれがあり、一期日審理に向かないからである。

 

(5) 期日の続行

 少額訴訟においても「特別の事情がある場合」には期日を続行することができる(民訴法370条1項)こ。の場合には、当事者は攻撃防御方法を続行期日において提出することができる(同条2項)。

 なお、裁判所が期日を続行して少額訴訟による審理及び裁判を行うために、当事者の同意が必要であるといった規定は存在しない。

 

(6) 少額訴訟の判決

判決の言渡し

 少額訴訟における判決は、相当でないと認める場合を除き、口頭弁論の終結後ただちにする(民訴法374条1項)。

調書判決

 判決の言渡しは、判決書の原本に基づかないですることができる(民訴法374条2項)。口頭弁論終結後ただちに判決言渡しがなされるため、判決書作成の暇がないからである。この場合は、判決書に代えて、主文、請求・理由の要旨を記載した判決書に代わる調書を書記官に作成させる。

判決の表示

 少額訴訟の判決書は、判決に代わる調書の場合、「少額訴訟判決」と表示しなければならない(民訴規229条1項)。

 

(7) 少額執行

仮執行宣言

 少額訴訟の請求認容判決については、職権で、担保を立て又は立てさせないで仮執行をすることができることを宣言しなければならない(民訴法376条1項)。

単純執行文の不要

 少額訴訟における確定判決、又は仮執行宣言付少額訴訟の判決による強制執行については、執行文は不要である(民執法25条ただし書)。

 cf 債権者の証明すべき事実の到来についての執行文や承継執行文は原則どおり必要である。

判決による支払猶予

 請求認容判決につき、裁判所は、被告の資力その他の事情を考慮して特に必要があると認めるときは、判決言渡しから3年を超えない範囲内で弁済の猶予又は分割払いを命ずることができる。被告がそれに従って支払い又は分割払いを完納したときは、訴え提起後の遅延損害金の支払義務を免除する旨の定めをすることができる(民訴法375条1項)。

 また、分割払いの定めをするときは、被告が支払を怠った場合の期限の利益の喪失についても定めなければならない(同条2項)。上記の定めに関する裁判に対しては、不服を申し立てることができない(同条3項)。

 

(8) 少額訴訟判決に対する不服申立ての制限

① 控訴禁止による異議申立て

 少額訴訟の終局判決に対しては、控訴することができない(民訴法377条)。

 代わりに、その判決をした裁判所に異議を申し立てることができる(民訴法378条1項)。

② 異議申立の手続

a) 異議申立期間等

 異議申立は、判決書又はそれに代わる調書の送達があった日から2週間以内の不変期間内に書面でしなければならない(民訴法378条1項)。

 異議申立権の放棄、異議の取下げもすることができるが、これらについては後述する手形訴訟判決に対する異議の規定が準用される(同条2項)。

b) 異議後の手続

 適法な異議があったときは、少額判決の確定は遮断され、訴訟は口頭弁論終結前の程度に復し、その後は通常手続による審判に移行する(民訴法379条1項)。異議後の審理及び裁判は、通常の手続によることになるが、反訴の禁止、証人尋問及び当事者尋問における尋問順序、判決による支払猶予については、少額訴訟手続の特則がそのまま準用される(同条2項)。

③ 異議についての判決

a) 通常手続による判決

 少額事件判決と結論が符合する場合には少額判決を認可する旨の判決をする(民訴法379条2項、362条)。

 結論が符合しない場合は少額判決を取り消して、原告の請求の当否につき新たな判決をする。

b) 異議後の判決に対する不服申立

 異議審の終局判決に対しては控訴できない(民訴法380条1項)。つまり、少額訴訟は一審限りということである。ただし、この判決に憲法解釈の誤りその他憲法違反があるときは最高裁判所への特別上告は認められる。