• 民事訴訟法ー25.簡易裁判所の手続の特則
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1簡易裁判所の手続の特則

堀川 寿和2022/02/03 14:26

1.簡易裁判所の手続の特則

(1) 事物管轄

 簡易裁判所は、訴訟の目的の価額(訴額)が140万円を超えない請求(行政事件訴訟に係る請求を除く)について、第1審の裁判権を有する。ただ、不動産に関する訴訟については、140万円を超えない請求であっても、簡易裁判所と地方裁判所が競合的に管轄権をもつ。つまり、訴額140万円以下の不動産に関する訴訟は簡易裁判所と地方裁判所の競合管轄となる。不動産に関する訴訟には複雑で困難なものがあるからである。

 

(2) 手続の簡易化

手続の特色

 簡易裁判所においては、簡易な手続により迅速に紛争を解決できるものとされている(民訴法270条)。

口頭による訴えの提起

 簡易裁判所における訴えは、口頭で提起することができる(民訴法271条)。その際、請求の原因に代えて、紛争の要点を明らかにすれば足りる(民訴法272条)。

 なお、簡易裁判所においても、反訴の提起が可能であり、その際、反訴請求が地方裁判所の事物管轄に属するとき、簡易裁判所は反訴請求についても管轄権を有するが、原告(反訴被告)の申立てがあるとき、簡易裁判所は決定で本訴及び反訴を地方裁判所に移送しなければならない(民訴法274条)。本訴と反訴の併合審理を実現するためである。

 移送の決定または移送申立てを却下した決定に対しては、即時抗告ができる(民訴法21条)のが原則であるが、簡易裁判所での反訴提起に基づく地方裁判所への移送の決定に対して、不服申立ては認められていない(民訴法274条2項)。

任意出頭による訴えの提起

 当事者双方は、任意に裁判所に出頭し、訴訟について口頭弁論をすることができる。この場合においては、訴えの提起は、口頭の陳述によってするとされている(民訴法273条)。つまり、訴状の提出→送達→呼出しといった通常の手続が省略できる。

準備書面の省略

 簡易裁判所では、書面で口頭弁論の準備をすることを要しない(民訴法276条1項)。当事者は口頭弁論に出頭して主張すれば足りる。ただし、相手方が準備しなければ答弁できないような事項(ex相手方が予想できない新たな攻撃防御方法)については、当事者は準備書面で準備するか、又は準備書面の提出に代えて口頭弁論前に、相手方に通知しなければならず、この準備書面又は通知がない事項は、相手方が期日に欠席したときは、主張することができない(同条3項)。

続行期日における陳述の擬制

 当事者の一方が期日に欠席した場合、第1回期日に限らず、続行期日においても提出した準備書面の陳述擬制が認められる(民訴法277条)。

証拠調べの簡略化

 裁判所は、相当と認めるときは、証人、当事者本人の尋問、又は鑑定人の意見の陳述に代え、書面(証人の供述書、本人の供述書、鑑定書)の提出をさせることができる(民訴法278条)。

 

(3) 判決書の簡易化

 簡易裁判所においては、判決書の記載も簡略化が認められ、請求の趣旨及び原因の要旨、その原因の有無並びに請求を排斥する理由たる抗弁の要旨を表示すれば足りる(民訴法280条)。

cf 判決の言渡しについは、地裁以上と同様に判決書の原本に基づいて行われる。

 さらに、簡易裁判所における口頭弁論の調書については、裁判官の許可を得て証人の陳述又は検証の結果を省略することができる(民訴規170条1項前段)。当事者は裁判所が許可する際に意見を述べることができるが、異議を述べることはできない。

 

(4) 和解に代わる決定

和解に代わる決定の意義

 金銭の支払請求訴訟については、被告が口頭弁論において原告の主張した事実を争わず、その他何らの防御方法も提出しない場合には、裁判所は、被告の資力その他の事情を考慮して相当であると認めるときは、原告の意見を聴いて、期限の猶予又は分割払いを命ずる決定をすることができる(民訴法275条の2)。これを、和解に代わる決定という。分割払いの決定をするときは、被告が支払を怠った場合における期限の利益の喪失につき定めなければならないとされている(同条2項)。

趣旨

 金銭の支払いの請求を目的とする訴えについて、被告が原告の主張した事実を争わず、しかも遠隔地その他の事情により期日に出頭しないときは、いわゆる欠席判決で事件を終局することになるのが通常であるが、中には被告が和解的解決を希望する場合に、原告も強制執行の負担を回避するため分割払いによる和解を希望する場合がある。そこでそのような要請に応えるため、この規定が設けられた。

決定に対する異議

 当事者は決定の告知から2週間の不変期間内に、その決定をした裁判所に異議を申し立てることができ、この異議申立てがあれば決定は効力を失う(同条3項4項)。その期間内に異議申立てがなければ、決定は裁判上の和解と同一の効力を有する(同条5項)。

 

(5) 司法委員の立会

意義

 裁判所は、必要があると認めるときは、民間人である司法委員に和解を補助させ、又は審理に立会わせて、その意見を聴くことができる(民訴法279条1項)。裁判所は、司法委員の意見に拘束されない。

趣旨

 これは、簡易裁判所が国民の生活に密着した簡易・迅速な事件を取り扱う裁判所であることから、その裁判事務に国民の健全な良識と感覚を反映させることを目的とするものである。