- 民事訴訟法ー14.訴訟の終了
- 2.訴えの取下げ
- 訴えの取下げ
- Sec.1
1訴えの取下げ
■訴えの取下げ
(1) 訴えの取下げの意義
訴えの取下げとは、原告がその提起した訴えの全部又は一部を撤回する訴訟行為をいう(民訴法261条1項)。これによって訴訟は、はじめから係属しなかったものとみなされ、消滅する。処分権主義による帰結である。cf 上訴の取下げ
(2) 訴えの取下げの要件
① 時期
訴えに対する終局判決が確定するまで可能である(民訴法261条1項)。事件が上級審(控訴審・上告審)に係属後であっても取下げは可能である。また、判決言渡後でも確定前なら取下げが可能である。
② 相手方の同意
被告が本案について準備書面を提出し又は弁論準備手続もしくは口頭弁論で陳述した後は、その同意がなければ取下げの効力は生じない(民訴法261条2項)。原告の一方的な行為によって被告の利益が奪われるのを防ぐ趣旨である。したがって、訴状の送達前又は訴状の送達された時に訴えを取り下げる場合は、被告の同意を要しない。また、被告が第1回口頭弁論期日に出席しても、答弁書その他の準備書面を提出せず、弁論もせずに退廷したときは、被告の同意なくして訴えの取下げは可能である。まだ何らの応訴もなされていないからである。
③ 能力・権限
訴訟能力又は代理権が存在することを要する。訴えの取下げは、訴訟行為であるため、原告本人が行うには訴訟能力が必要である。代理人がなす場合には、取下げは訴えの提起を委任した本人の意思に反するおそれがあるため、取下げの授権が訴え提起の委任とは別に必要である。したがって、被保佐人、法定代理人、訴訟代理人が訴えの取り下げをなすには、特別の授権があることが必要である(民訴法32条2項、55条2項2号)。
④ 条件
取下げに条件を付すことはできない。手続の安定を害する結果となるからである。
(3) 訴えの取下げの方式
① 取下書の提出
訴えの取下げは、書面でしなければならない(民訴法261条3項)。具体的には、取下書を裁判所に提出する方法による。ただし、口頭弁論、弁論準備手続、和解期日においては、口頭でなすこともできる(同項ただし書)。この場合は取り下げた旨が調書に記載される。また、取下げに対する相手方の同意も、裁判所に対して書面又は期日における口頭でなされることを要する。
② 書面の送達
訴状送達後、書面による取下げがあれば取下書を相手方に送達し、相手方欠席のとき口頭による取下げがあれば調書の謄本を相手方に送達しなければならない(民訴法261条4項)。
③ 同意の擬制
訴えの取下げの書面の送達を受けた日から2週間以内に相手方が異議を述べないときは、訴えの取下げに同意したものとみなされる(民訴法261条5項)。
(4) 訴えの取下げの効果
① 訴訟係属の遡及的消滅
訴訟は、訴えの取下げによって初めから係属していなかったものとみなされる(民訴法262条1項)。したがって、すでになされた証拠調べの結果も失効することになるが、その調書を他の訴訟の書証として利用することは可能である。
② 再訴の禁止
訴えを取り下げた後であっても、再度同一の訴えを提起することは可能である。
しかし、本案について終局判決があった後に訴えを取り下げた場合には、同一の訴えを提起することはできなくなる(民訴法262条2項)。本案判決は原告の勝訴、敗訴を問わない。
しかし、本案の終局判決に限るため、訴訟判決(訴え却下判決)後の再訴は許される。また、この再訴禁止は訴えを取り下げた原告についてのみ生ずる効果であることから、被告の側から同一の訴え(消極的確認の訴え)を起こすことは可能である。
(5) 訴えの取下げの擬制
当事者双方が口頭弁論期日又は弁論準備手続期日に欠席し、又はその手続における申述をしないで退廷もしくは退席した場合において、1か月以内に期日指定の申立てをしないときは、訴えの取下げがあったものとみなされる(民訴法263条)。
また、当事者双方が、連続して2回口頭弁論もしくは弁論準備手続の期日に出頭せず、又は弁論もしくは弁論準備手続における申述をしないで退廷や退席したときも同様に訴えの取下げが擬制される(同条後段)。当事者双方が口頭弁論期日への欠席と期日指定の申立てを繰り返す弊害に対する対策である。
(6) 訴え取下げの無効
当事者が訴えの取下げの不成立や無効を主張して期日指定を申し立てた場合、裁判所は口頭弁論を開いてこれを審査しなければならない。詐欺・脅迫等刑事上罰すべき他人の行為によって訴えが取り下げられた場合、その取下げは無効となる(最S46. 6.25)。この場合、訴訟はまだ係属していることになり、期日指定の申立てをすることによって審理が続行されることになる。