• 民事訴訟法ー11.証拠方法
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1書証

堀川 寿和2022/02/03 09:40

書証の意義

(1) 文書と書証

 書証とは、文書に記載された意味内容を証拠資料とするための証拠調べをいう。なお、文書とは、文字その他これに代わる符号により、人の思想内容が記載されている有体物をいう。

 文書以外の、図面、写真、録音テープ、ビデオテープその他情報を表すために作成された物件も、準文書として文書に準じて証拠調べの対象とする。

 

(2) 書証能力

 書証能力とは、書証として取調べの対象となりうる一般的な資格をいう。どのような文書であっても原則として証拠能力が認められる。

文書の証拠力(証明力)

 文書の証拠力は、「形式的証拠力」が認められてはじめて、次に「実質的証拠力」が問題となる。

 

(1) 形式的証拠力

 文書は第一に、それが挙証者の主張する特定人の意思に基づいて作成されたものであることを確定しなければならない(文書の成立の真正)。別人や、誰が作成したかわからない文書はその内容を取り調べる価値がないからである。

 当該文書が挙証者の主張する者の作成によるものであることが確定されると、真正な文書、真正に成立した文書ということになり、その文書には形式的証拠力が認められ、次に実質的証拠力としてのその内容の取調べということになる。

 

(2) 実質的証拠力

 文書の記載内容が、要証事実の証明にどれだけ役に立つかの判断である実質的証拠力の問題となる。

 

(3) 文書の成立の真否

原則

 文書はその成立が真正であることを証明しなければならない(民訴法228条1項)ため、文書の形式的証拠力が争われると、挙証者はその文書が自己の主張する者により作成された真正なものであることを証明しなければならない。

文書の真正の推定

 「文書の真正」とは、文書が作成者の意思に基づいて作成されたことをいう。

(イ)公文書

 その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められる公文書については、真正に成立した公文書と推定されるため、証明を要しないことになる(同条2項)。

(ロ)私文書

 私文書についても、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定される(同条4項)。

文書成立の自白の拘束力

 相手方が文書の成立を認めたときは、裁判所は証拠によることなくその真正を認めることができる。ただし、この自白は補助事実に関するものであるから拘束力はない。つまり相手方が文書の成立の真正を認めた場合でも、裁判所は当該文書が真正なものでないと認定することも可能である。

 例えば、消費貸借契約書の成立の真否は補助事実であるため、原告・被告間で交わされた消費貸借契約書を書証として提出したところ、被告はその契約書について真正に成立したものと認める旨の陳述をしても、裁判所はこれに拘束されない。また、書証の成立に関しては、いったんその成立を認めても、その後その成立を否認することも許される。

 

(4) 文書の成立の証明

 文書の成立の真否は、人証のほか、筆跡、印影の対照によっても証明することができる(民訴法229条1項)。そのため裁判所は対照用の文書の提出を命ずることができ(同条2項)、それがないときは裁判所は相手方に対照のための文字の筆記を命ずることができる(同条3項)。

 相手方が正当な理由なくそれに従わないときは、裁判所は文書の成立の真否に関する挙証者の主張を真実と認めることができる。書体を変えて筆記したときも同様とする(同条4項)。

 

(5) 文書の成立の真正を争った者に対する過料

 当事者又はその代理人が故意又は重大な過失により真実に反して文書の成立の真正を争ったときは、裁判所は、決定で、10万円以下の過料に処することができる(民訴法230条1項)。

 ただし、文書の真正を争った当事者又はその代理人が訴訟の係属中その文書の成立が真正であることを認めたときは、裁判所は、事情により過料の決定を取り消すことができる(同条3項)。

 

書証の手続

(1) 書証の申出

 書証についても当事者の申出に基づいて行われる。弁論主義によるためである。

 書証の申出の方法は次の3つに分類される。

① 文書の提出(民訴法219条前段)

 書証の申出をした当事者自らが有する文書を提出する方法である。

② 文書提出命令の申立(民訴法219条後段)

 相手方又は第三者が所持する文書について、文書の提出命令を申し立てる方法である。相手方又は第三者が文書提出義務を負う場合に限られる。

③ 文書送付嘱託の申立

 文書の所持者に提出義務がなくても、所持者の協力を得る見込みがあれば、所持者に対する文書送付嘱託をすることを求める申立てをする方法である(民訴法226条)。文書送付嘱託の例としては、例えば所有権移転登記の抹消請求訴訟において、所有権移転登記の無効を立証するために、登記申請書及びその添付書類一式の送付を法務局に求める場合である。ただし当事者が法令により文書の正本又は勝本の交付を求めることができる場合、文書送付嘱託の申立てをすることはできない(同条ただし書)。文書送付の嘱託は、文書所持者の文書提出義務の有無にかかわらず申し立てることができる。

 

(2) 文書提出義務

 文書提出義務は、当事者の実質的平等を図るため一般的義務とされており、文書の所持者は、次の場合には文書の提出を拒むことができない(民訴法220条)。

① 引用文書

 当事者が訴訟において引用した文書を自ら所持するとき、裁判所が提出を命ずることができる(1号)。

② 引渡し・閲覧請求権のある文書

 挙証者が文書の所持者に対しその引渡し又は閲覧を求めることができる場合である。例えば、株主として会社に株主名簿の閲覧・謄写請求権を有するような場合である。

③ 利益文書

 文書が挙証者の利益のために作成され、又は挙証者と文書の所持者との間の法律関係について作成された場合に提出義務を負う(3号前段)。例えば、契約書、領収書、委任状等挙証者の法的地位、権利、権限を証明するため、または挙証者の権利義務を発生させるために作成された文書をいう。

④ 法律関係文書

 文書が挙証者と文書の所持者との間の法律関係について作られたものである場合である(3号後段)。

 例えば、契約書、注文書、受領証、公正証書、示談書等挙証者と文書の所持者間の法律関係について作成されたものをさす。

⑤ 一般義務文書

 上記①②③④に掲げる場合のほか、文書が次に掲げるもののいずれにも該当しないとき(民訴法220条4号)、文書が次に掲げる場合を除いて、文書一般について提出義務を認める。

(イ)文書所持者等につき証言拒絶権が認められる事項(民訴法196条)の記載された文書(同号イ)

(ロ)公務員の職務上の秘密に関する文書でその提出により公共の利益を害し、又は公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがあるもの(公務秘密文書、同号ロ)

(ハ)職務上の秘密等が記載された文書(同号ハ)

 例えば、弁護士、司法書士が職務上知り得た事実で黙秘すべきものが記載されている文書や、技術・職業の秘密に関する事項が記載されている文書などがこれにあたる。

(ニ)専ら文書の所持者の利用に供するための文書(内部文書・自己使用文書、同号ニ)

 例えば、専ら自己又は内部の者の利用に供するために作成され、外部の者に開示することを予定していない文書である。銀行や信用金庫の稟議書等がこれにあたる。

 

判例

(最H12.12.14)

 

信用金庫の貸出稟議書は、特段の事情がない限り、民訴法220条4号ニ所定の専ら文書の所持者の利用に供するための文書に当たると解すべきであり、右にいう特段の事情とは、文書提出命令の申立人がその対象である貸出稟議書の利用関係において所持者である信用金庫と同一視することができる立場に立つ場合をいうものと解される。

(ホ)刑事事件に係る訴訟に関する書類もしくは少年保護事件の記録又はこれらの事件において押収されている文書(刑事事件関係書類、同号ホ)

 

(3) 文書提出命令申立

 文書提出命令の申立ては、「文書の表示」、「文書の趣旨」、「文書の所持者」、「証明すべき事実」、「文書提出義務の原因」の5つを明らかにしてしなければならない(民訴法221条1項)。

 文書提出命令の申立てにおいて、「文書の表示」「文書の趣旨」を明らかにすることが著しく困難であるときは、それらの事項に代えて「文書の所持者がその申立に係る文書を識別することができる事項」を明らかにすれば足りる(民訴法222条1項)。

 文書の一般的提出義務(民訴法220条4号)を原因とする文書の提出命令の申立ては、書証の申出を提出命令の申立てによってする必要がある場合でなければすることができない(民訴法221条2項)。他の方法により文書が入手できる場合にこの申立ては認められない。

 

(4) 文書提出命令

 裁判所は、文書提出命令の申立てを理由があると認めるときは、決定で文書の所持者に対し、文書の提出を命ずる(民訴法223条1項)理由がないときは申立てを却下する。

① 一部提出命令

 この際、文書に取り調べる必要がないと認める部分又は提出の義務があると認めることができない部分があるときは、その部分を除いて提出を命ずることができる。

② 第三者の審尋

 第三者に対して文書の提出を命ずる場合には、裁判所はその第三者を審尋しなければならない(民訴法223条2項)。

③ 除外事由の判断

 裁判所は、文書が一般的な提出義務の例外にあたるものかどうかを判断するために、必要があると認めるときは、文書の所持者にその提示をさせることができる。この場合は何人も提示された文書の開示を求めることはできない(民訴法223条6項)。

 つまり、裁判官のみが裁判官室で閲読して、民訴法220条4号イ〜ニまでの除外事由にあたるか否かを判断する仕組みである。

④ 不服申立て

 文書提出命令又は提出命令の申立ての却下決定に対しては、即時抗告をすることができる(民訴法223条7項)。

 

                   ↓ しかし

判例

(最決H12.3.10)

 

文書提出命令の申立てについて証拠調べの必要がないことを理由として申立てを却下する決定に対しては、その必要があることを理由として即時抗告をすることができない。

 

(5) 文書不提出の効果

 文書提出命令に従わない場合の制裁は、当事者の不提出と第三者の不提出とで異なる。

① 当事者の不提出等

 相手方当事者が提出命令に従わないときは、裁判所は当該文書の記載に関する相手方の主張を真実と認めることができる(民訴法224条1項)。当事者が相手方の使用を妨げる目的で、提出義務のある文書を滅失させ、その他これを使用できないようにした場合も同様である(同条2項)。

 さらに、この場合において、相手方がその文書にどのような記載があるかに関して具体的な主張をすることが著しく困難で、かつ、その文書により証明すべき事実(立証事実)を他の証拠により証明することが著しく困難であるときは、裁判所は、その事実に関する相手方の主張を真実と認めることができる(同条3項)。例えば、貸金授受の事実を証明するために発せられた受取証書の提出命令に相手方が従わないときは、その記載内容のみでなく、その授受の事実に関する原告の主張を真実と認めることができる。「認めることができる」のであって「認めなければならない」わけではない。

② 第三者の不提出

 裁判所は、決定で、20万円以下の過料に処する。第三者が文書提出命令に従わないときに裁判所はその文書の記載に関する相手方の主張を真実と認めることはできない。

 

(6) 文書に準ずる物件への準用

 書証に関する規定は、図面、写真、録音テープ、ビデオテープその他の情報を表すために作成された物件で文書でないものについて準用する(民訴法231条)。録音テープ等は文書とはいえないが、それらが一定の思想を表現しているときは、文書に準じる性質を有するため、文書と同様の取扱いをするものである。