- 民事訴訟法ー10.事実認定
- 2.証拠と証明
- 証拠と証明
- Sec.1
1証拠と証明
■証拠の意義
事実認定の資料を証拠といい、事実認定の手続が証拠調べという。
① 証拠方法
証拠方法とは、裁判官の取調べの対象となる有体物をいう。取り調べの対象が人である場合を人証といい、証人、鑑定人、当事者本人がこれにあたる。物である場合が物証であり、文書、検証物がある。
② 証拠資料
証拠資料とは、裁判官が証拠を取り調べた結果得られた内容をいう。証言、鑑定意見、当事者本人の供述、文書の内容、検証の結果がこれにあたる。
③ 証拠原因
証拠原因とは、栽判官の心証形成の原因となった証拠資料をいう。これには証拠調べの結果と弁論の全趣旨が含まれる。つまり、証拠方法から得た証拠資料のうちで裁判官が確信を得る原因となったものが証拠原因である。
④ 証拠能力
証拠として取調べをすることのできる資格をいう。民事訴訟では、原則として証拠能力に制限はない。
⑤ 証拠力
証拠資料が、事実の認定にどの程度役立つかの度合いをいう。証拠資料が証明に役立つ程度の高い場合を証拠価値が高く、証明力があるといい、逆の場合を証拠価値が低く、証明力がないという。証拠力については法定されず、前述の自由心証主義による。
⑥ 直接証拠
直接証拠とは、主要事実を直接証明するための証拠をいう。
⑦ 間接証拠
間接証拠とは、主要事実を間接的に証明する証拠、すなわち間接事実、補助事実を証明するための証拠をいう。
■証明
(1) 証明と疎明
① 証明
証明とは、裁判の基礎として明らかにすべき事項について裁判官が確信を抱いてよい状況又はこの状況に達するように証拠を提出する当事者の努力をいう。確信とは、ある事実の存在について合理的に疑いの余地のない十中八九という程度の心証に達した状態をいう。請求の当否を理由づける事実の認定には、この証明が要求される。裁判官が確信を抱いてよい状態とは、通常人が日常の決定や行動の基礎とすることをためらわない程度に真実であることの蓋然性が認められる状態をさす。
② 疎明
疎明とは、裁判官が当該事項の存在につき一応確からしいとの認識をもった状態又はそのような状態に達するように証拠を提出する当事者の努力をいう。法は、明文で定めた場合に限り、疎明で裁判をなしうるとしている。疎明は、証拠調べを簡易・迅速に行うことを目的とするため、その証拠方法は、在廷証人、持参文書などの即時に取り調べることのできるものでなければならないとされている(民訴法188条)。
(2) 本証と反証
① 本証
自己に証明責任がある事実を証明するために提出する証拠をいう。本証は、裁判官に証明すべき事実につき確信を抱かせることができなければその目的を達せず、証明責任の効果として要証事実が認定されない不利益を受けることになる。
② 反証
相手方が証明責任を負う事実の不存在を証明するために提出する証拠をいう。反証は、裁判官が本証によって確信を抱くのを妨げることができればその目的を達する。裁判官が確信を抱いていない以上、証明責任の効果により事実の不存在が確定するためである。
例えば、貸金返還請求訴訟では、金銭交付の事実が争われると、証明責任を負う原告が証拠を提出してその事実につき裁判官に確信を得させなければならない。真偽不明では敗訴となるからである。反面被告は、反証を提出して本証を妨げ、その事実を真偽不明の状態にすれば足りる。不存在につき裁判官に確信を抱かせなくても真偽不明で原告は敗訴するからである。