- 民事訴訟法ー10.事実認定
- 3.証明の対象
- 証明の対象
- Sec.1
1証明の対象
■証明の対象
(1) 請求の当否の判断
権利の存否を判断するためには、事実を認定し、それに法規をあてはめて判断する。事実の認定には経験則が働く。つまり権利の存否は「事実」「法規」「経験則」により判断される。したがってこの3つが証明の対象となる。
(2) 事実
① 主要事実
当事者間で争いのある主要事実が証明の主な対象となる。
② 間接事実・補助事実
主要事実の存否を証拠により直接証明することができないときは、間接事実から直接事実を推認していかざるを得ない。したがって間接事実も主要事実の認定に必要な限度で証明の対象となる。
例えば、A・B間の売買代金請求訴訟で買主Bが売買契約の締結を否認し、Aが売買契約書など売買契約の締結を直接証明することができる証拠を提出できなかった場合、Aは当該売買契約の存在を推認させるため、Bにはどうしても当該売買の目的物を購入する必要性があったことを主張し、Bがこれを争えば間接事実としてAは当該必要性の存在を証明しなければならないことになる。
(3) 法規
法規を知ることは裁判官の職責であるため、特に法規の存在及び内容を証明する必要はない。
しかし、外国法や地方の条例、慣習法等は裁判官が知らないこともあり、この適用を望む当事者は、法規の存在及び内容を明らかにする必要がある。
(4) 経験則
経験則とは、経験から得られた事物についての知識や法則のことをいう。
① 一般常識に属する経験則
裁判官も、常識的な経験則ならば社会人として知っているはずであるから、これを証明する必要はなく、これをそのまま使用して事実認定することができる。したがって、一般常識に属する経験則については、証拠による認定は不要である。
② 専門的知識に属する経験則
特殊の専門的知識に属する経験則については、裁判官が偶然その特殊な知識を持っていたとしても、裁判に対する信頼確保の見地から、証拠による認定が必要となる。例えば、医療過誤訴訟における医学上の経験法則が問題となっている場合鑑定等により証明したうえで事実認定に用いる必要がある。
■証明を要しない事実(不要証事実)
(1) 意義
事実は通常証明の対象となるが、弁論主義の適用を受ける事項において、当事者の弁論にあらわれない事実は、そもそも判決の基礎にすることができず、証明の対象とならない。また、弁論にあらわれた事実のうち、当事者間に争いのない事実(裁判上自白された事実)及び裁判所に顕著な事実についても証拠による認定が不要とされている(民訴法179条)。
また、当事者が自白した事実又は自白したとみなされる事実(民訴法159条)は、当事者間に争いのない事実であるため、特に証拠による認定を経ることなくこれを判決の基礎としなければならない。
(2) 当事者が主張していない事実
弁論主義の下では、当事者の主張がない限り主要事実を判決の基礎にできないから証明する必要もない。
(3) 当事者間に争いのない事実
また、弁論主義の下では、当事者間に争いのない事実(自白された事実、自白したとみなされる事実〉はそのまま判決の基礎にしなければならないことから、これも証明の必要がない(民訴法179条)。
(4) 裁判所に顕著な事実
顕著な事実(民訴法179条)は、公知の事実と職務上顕著な事実に分類されるが、これらはいずれも証拠によって認定するまでもない客観的に明らかな事実であり、証明が不要とされる。
① 公知の事実
歴史的大事件や、大災害等、一般の人々に広く知れ渡っている事実を公知の事実という。
② 職務上顕著な事実
職務上顕著な事実とは、担当裁判官がその職務上知り得た事実をいう。必ずしも一般に了知されていることを要しない(最S28.9.11)。例えば、自らが関与した他の事件の判決、他の裁判官がした破産宣告などがこれにあたる。合議体の場合は、構成員の過半数に顕著な事実である必要がある(最S31.7.20)。裁判官が職務外で偶然知った事実は原則どおり証拠により認定しなければならないとされている。
■裁判上の自白
(1) 自白の意義
自白とは、相手方の主張と一致する自己に不利益な事実の陳述をさす。
口頭弁論期日又は弁論準備手続においてなされる裁判上の自白と、それ以外でなされる裁判外の自白がある。裁判上の自白が成立すると、自白の拘束力が生ずるが、裁判外の自白は、自白事実が真実であることを推認させる間接事実にすぎないため、自白の拘束力は生じない。
(2) 自白の効力
① 裁判所に対する拘束力
裁判所は自白された事実はそのまま裁判の基礎として採用しなければならず、自白事実と異なる認定はすることができない(最S30. 9.27)とされている。当事者間に争いのない事実については、裁判所が介入すべきではないという弁論主義の要請によるものである。
② 当事者に対する拘束力
立証責任を負っている者は立証を免れ、自白した当事者も以降それと矛盾する主張ができなくなる。
(3) 自白の撤回
① 原則
自白した当事者は、これを任意に撤回できない。
② 例外
しかし、次の3つの例外の場合には自白の撤回が許される。
(イ)相手方の同意がある場合
(ロ)自白が真実に反しかつ錯誤に基づく場合
(ハ)詐欺・脅迫等刑事上罰すべき行為に基づく場合
判例 |
(最S25.7.11) |
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真実に反することの証明があれば、その自白は錯誤に出たものと推定されるとして、錯誤についての立証を緩和する。 |
⇒ 錯誤の存在という内心の立証は困難だからである。
(4) 自白の対象
① 主要事実
自白の対象となる。したがって、例えば貸金返還請求訴訟において、被告が金銭の授受を認める陳述をした場合、主要事実に対する自白であるため、裁判所は審理の結果、金銭の授受自体がなかったとの心証を得たとしても、これと異なる判断をすることはできない。
② 間接事実・補助事実
自白の対象とはならない(最S31.5.25)。したがって、例えば被告は原告に対し、以前から事業に失敗したので借入先として原告を紹介してほしいと依頼していたとの原告の主張に対し、被告はこれを認める旨陳述した場合でも、間接事実に関する自白であるため裁判所は拘束されない。
③ 法規、経験則
法規や経験則(大S8.1.31)、法律の解釈(最S30.7.5)などについて自白は成立せず、裁判所も当事者も拘束しない。いずれも裁判所の職責に属する事柄だからである。
④ 公知の事実に反する自白、不能な事実
自白の対象とはならない(大S8.1.31)。これを認めるとかえって裁判の客観性を害する結果となるからである。