• 民事訴訟法ー5.訴訟要件
  • 1.訴訟要件
  • 訴訟要件
  • Sec.1

1訴訟要件

堀川 寿和2022/02/02 14:58

(1) 意義

 訴訟要件とは、訴えが手続法上の要件を備えた適法なものであるための要件をいう。訴えが提起されると、裁判所はまず訴えが手続法上の要件を備えた適法なものであるかどうかを判断する。これが「訴訟要件」であって、この訴訟要件を欠く場合、本案(原告の主張する権利関係の存否)の審理に入ることなく訴え却下の判決で審理を打ち切る。これを、訴訟判決という。

 訴えが訴訟要件を具備する適法なものであれば、裁判所は事件を取り上げて原告の主張する請求が実体法上理由があるか否か(請求の当否)について判断する。これを、本案判決という。

 

(2) 趣旨

 を相手に、いかなる内容の訴えを提起するかは原告の自由に委ねられる(処分権主義)。

 しかし、それを取り上げて本案判決を下す値打ちのない当事者や請求についての訴えを排斥する必要がある。そこで法は訴訟要件というフィルターを設けて、これを通過した事件のみを取り上げて、審理判決をすればよいことにした。訴訟要件の一つでも欠けば不適法な訴えとして却下し、本案請求につき審理する必要がないことになる。

訴訟要件事項

 どのような事項が訴訟要件となるかにつき、民事訴訟法には統一的な規定は存在しないが、主要な訴訟要件は次のとおりである。

 

(1) 裁判所に関するもの

請求と当事者が日本の裁判権に服すること

裁判所が当該事件につき管轄権を有すること

 

(2) 当事者に関するもの

① 原告・被告両当事者の実在

② 当事者能力者であること

③ 当事者適格者であること

④ 訴え提起・訴状送達が有効なこと

⑤ 原告が訴訟費用の担保を提供する必要がないか、又はその担保を提供したこと

 

(3) 訴訟物に関するもの

① 二重起訴の禁止に触れないこと

② 再訴の禁止や別訴の禁止に触れないこと

③ 訴えの利益があること

④ 請求の併合や訴訟中の新訴提起の場合にはその要件を具備すること

⑤ 仲裁合意・不起訴の合意がないこと

訴訟要件の調査

(1) 職権調査事項

原則

 訴訟要件の多くは公益的要求に基づくものであることから、裁判所は当事者の主張がなくても職権で訴訟要件の存否を確かめなければならない(職権調査事項)。

例外(抗弁事項)

 しかし、訴訟要件の中には被告からの申立て(抗弁)を待って、初めてその存在の調査が開始されるものもある。これらは、判決の正当性確保あるいは訴訟機能維持といった公共的役割とは関係の少ない私的な利益に関する訴訟要件であるため、職権で調査を開始する必要がない。これを抗弁事項といい、次の3つがある。

(イ)仲裁合意の不存在

(ロ)不起訴の合意の不存在

(ハ)原告の訴訟費用の担保の提供(民訴法75条)

 

(2) 訴訟要件の存否の判断時期

原則

 訴訟要件の存否の判断時期は、原則として事実審の口頭弁論の終結時である。訴訟要件は、本案判決のための要件だからである。なお、訴え提起時に訴訟要件が具備していても、その後に欠缺すれば本案判決はできない。逆に、訴え提起時に欠缺していても、口頭弁論終結時までに具備すれば、本案判決は可能となる。

例外

 管轄の有無については、起訴の時を基準として判断される(民訴法15条)。

 

(3) 調査の結果

訴訟要件を具備する場合

 本案についての審理を進め、本案判決がなされることになる。

訴訟要件を具備しない場合

(イ)原則

 補正が可能であれば補正を命じ、補正がなされなければ訴え却下の終局判決をする。

(ロ)例外

a) 管轄違いの場合には却下しないで管轄裁判所に移送する(民訴法16条)。

b) 当初から明らかに補正の見込みがないときは、口頭弁論を経ずに訴え却下の判決をすることができる(民訴法140条)。

 

(4) 訴訟要件の欠缺を看過してなされた本案判決

判決確定前

 本案判決は違法であるため、請求棄却の場合は原告が、請求認容の場合は被告が上訴して争える。つまり、控訴・上告理由となる。ただし、任意管轄違反の場合は、上訴審では主張できない(民訴法299条1項)。

判決確定後

 再審事由(民訴法338条)に該当する場合以外は争えない。代理権の欠缺の場合のみ再審事由とされているため、それ以外の場合には確定後は訴訟要件欠缺を理由に判決を取り消すことはできないことになる。