• 民事訴訟法ー5.訴訟要件
  • 2.訴えの利益
  • 訴えの利益
  • Sec.1

1訴えの利益

堀川 寿和2022/02/02 15:00

 訴えの利益とは、訴えの内容である訴訟上の請求たる訴訟物が本案判決の必要性を備えていることをいう。次のとおり各種の訴えに共通する訴えの利益と、個々の訴えの類型ごとの訴えの利益に分類できる。

各種の訴えに共通する訴えの利益

(1) 法律上の争訟であること

 原告の請求が、法律を適用して判断すべき具体的な権利・法律関係の存否の主張でなければならない。つまり、法律上の争訟であることを要する。

① 単なる事実の存否をめぐる争いは、証書真否確認の訴え(民訴法134条)を除いて許されない(最S39.3.24)。

② 具体的事件と関係なく抽象的に法令の解釈を論ずる紛争も対象にならない(警察予備隊違憲訴訟、大判S27.10.8)。

③ 極めて政治性の高い国家統治の基本に関する行為(いわゆる統治行為)は、三権分立の建前から法律上の争訟でないとされる(苫米地事件、最S35.6.8)。

④ 宗教上の教義についての判断を不可欠の前提とする訴えも、実質的に法規の適用によって解決することができないから、法律上の争訟に当らない(板まんだら事件、最S56.4.7)。

 

(2) 訴え提起が禁止されていないこと

 起訴自体が禁止されている場合には、裁判所がその請求につき判決を下すべきではない。

二重起訴の禁止(民訴法142条)

訴え取下げ後の再訴禁止(民訴法262条2項)

 

(3) 訴訟による解決を抑制する事由がないこと

 当事者が訴訟による紛争の解決を望まないのであれば、裁判所は請求に対して判決をすべきではない。

 例えば、仲裁契約や不起訴契約の存在がある場合、自主的な紛争解決がなされており、もはや訴訟による紛争解決の必要性は失われているからである。原告が仮に訴えを提起したとしても、被告がそれを主張立証すれば、訴えの利益なしとして訴え却下判決がなされることになる。

 

(4) その他、訴訟を不必要とする事情がないこと

 例えば、同一の請求について勝訴判決を得ている者が、重ねて訴えを提起してきた場合、訴えの利益はない。その他、訴権の乱用と評価される場合も同様である。

 ただ、判例によると、判決原本が滅失して執行正本が得られない場合(大T14.4.6)や、時効中断〔注:現在の「時効の完成猶予」〕のためにあらためて訴え提起するほか適当な手段がない場合(大S6.11.24)には重ねて訴えを提起することができる場合がある。

 

判例

(大S18.7.6)

 

執行証書には給付請求権の存在について既判力がないことから、当該給付請求権の存在について別訴で争われる可能性があるため、既に執行証書を有していても給付の訴えの利益が認められる。

 

給付の訴えの利益

(1) 現在の給付の訴え

 弁済期が到来している給付請求権を主張するのが「現在の給付の訴え」である。

 現在の給付の訴えは、請求権が存在し、履行期が到来していれば、訴えの利益が認められる。

 

(2) 将来の給付の訴え

 「将来の給付の訴えの訴え」とは、弁済期未到来の給付請求権を主張する訴えで、将来の給付を命じる判決を現在求めることになる。したがって、将来の給付の訴えの訴えは、原則として訴えの利益がない。履行期到来後に現在の給付の訴えを提起すればよいからである。しかし、「あらかじめその請求をする必要がある次のような場合には、例外的に、訴えの利益が認められる(民訴法135条)。

定期に履行がなければ意味がない定期行為の場合

遅滞による損害が重大な扶養料請求の場合

義務者が現在すでに給付義務の存在や内容を争っており、履行期が到来しても履行の可能性が低い場合

継続的・反復的給付義務につき、すでに履行期の到来した部分につき不履行があるような場合

本来の給付請求に加え、その執行不能に備えて代償請求を併合して提起する場合

 

確認の訴えの利益

(1) 意義

 確認という行為の性質上、その対象は無限に広がるため、何でも確認を求めることができることになる。そこで、確認の利益という概念を設けて、確認の訴えの対象を限定している。

一般的に、確認の訴えの利益は次の観点から判断される。

確認訴訟の選択の適否

確認対象の適否

即時確定の利益の存否

 

(2) 確認訴訟の選択の適否

 確認の訴えの利益は、確認訴訟という手段を選ぶことが適切な場合に認められる。確認訴訟よりも、より直接的な紛争解決手段があれば確認の訴えの利益はない。

給付の訴えが提起できる場合

 原則として給付の訴えが提起できる場合には給付請求権についての確認は訴えの利益がない。

 確認判決には執行力がなく、確認判決で勝訴しても相手方が任意に履行しなければ改めて給付訴訟を提起しなければならず迂遠だからである。

形成訴訟が提起できる場合

 また、形成訴訟が認められる場合も、形成要件の存在確認を求める確認の利益はないことになる。

 例えば、民法770条の離婚原因の存在確認を求める訴えを提起するよりも、離婚を求める形成の訴えを提起した方が問題の解決の早道だからである。

積極的確認の訴えが可能な場合の消極的確認の訴えの可否

 所有権の帰属につき争いがある場合、相手方の所有権の不存在ではなく、自己の所有権の存在確認を求めなければならない(最S54.11.1)。相手方の所有権不存在を確認してみても自己に所有権が帰属することにはならず、紛争解決にとり迂遠だからである。ただし、消極的確認の訴えの方が紛争解決のためより適切である場合には、例外的に訴えの利益が認められる。

 

判例

(最H16.3.25)

 

債務者が債権者に対して提起した債務不存在確認請求訴訟の継続中に、債権者がその債務の履行を求める反訴を提起したときは、本訴である債務不存在確認訴訟は確認の利益を失い却下される。

債務者の債務不存在確認の訴えに対して、債権者が給付請求の反訴を提起したことにより、債務者の本訴の目的は反訴請求の棄却判決を得ることによって達成できることになり、本訴は確認の利益が失われるからである。

 

判例

(大S8.11.7)

 

1番抵当権者が2番抵当権の実行を阻止するために、2番抵当権不存在確認の訴えを提起することは、例外的に確認の利益が認められる。

この場合、1番抵当権の存在確認を求めても、2番抵当権の実行を阻止するという目的を達成できないからである。

 

(3) 確認対象の適否

原則

 確認の対象請求が、現在における権利又は法律問題の存否を対象とするものでなければ、原則として確認の利益はない。したがって、単なる事実の確認(ex私が独身であることを確認してほしい。私が30歳であることを確認してほしい等)は確認の利益がないことになる。民事訴訟は法律上の紛争の解決が目的だから、確認の対象となる訴訟物も権利関係に限られるとするのである。

例外

(イ)証書真否確認の訴え

 法律関係を証する書面が真正に作成されたものであるか否かについての確認の訴えは、事実の確認ではあるが認められる(民訴法134条)。法律関係を証する書面の例としては、遺言書、定款、手形、契約書などその記載内容によって直接権利関係の存否を証明できるものである。成立の真否を確定するために提起できるのであって、記載内容が真実か否かを確定するものではない(最S27.11.20)。

 これら書面の真否が確定しさえすれば通常紛争が解決されるため、特に確認の対象として認めたものである。

(ロ)過去・将来の権利関係の確認

 確認の訴えの対象は、原則として現在の権利や法律関係でなければならない。過去の法律関係を確認してみても、権利関係はその後に変動する可能性があり、また将来の権利関係を現在確認してみても同様にその後に変動すれば意味がなくなるからである。

 しかし、過去の権利や法律関係の確認が、現在の紛争解決にとってかえって抜本的な解決になる場合には、確認の利益が認められる。

株主総会決議不存在確認の訴え(最S38.8.8

遺言者死亡後の遺言無効確認の訴え(最S47.2.15

 

その他、

判例

(大S61.3.13)

 

ある財産が被相続人の遺産に属するかにつき争いがあり、遺産分割手続が進展しないような場合において、特定の財産が遺産に含まれることの確認を求める訴えにつき、判例は訴えの利益を認めて

いる。

 

↓ これに対して

判例

(最H7.3.7)

 

特定の財産につき特別受益財産であることを確認する訴えは訴えの利益を欠く。

それにより相続分又は遺留分をめぐる紛争を直接かつ抜本的に解決することになるものではなく、また特別受益財産に当たるか否かについてのみ遺産分割審判事件や遺留分減殺請求訴訟等の事件を離れて別個独立に判決をもって確認する必要はないからである。

 

判例

(最H22.10.8)

 

定額郵便貯金債権が遺産に属することの確認を求める訴えについては、その帰属に争いがある限り、確認の利益がある。

当該定額郵便貯金債権の最終的な帰属は遺産分割の手続にて決せられるべきこととなるが、遺産分割の前提問題として、同債権が遺産に属するか否かを民事訴訟の手続によって決する必要性も認められるからである。

 

判例

(最S62.7.17)

 

戸籍上離縁の記載がある養子縁組の当事者の一方が提起した離縁無効確認の訴えにおいては、被告が当該離縁の無効を争っていない場合であっても、確認の利益が認められる。

確定判決を得て、戸籍を訂正する利益があるからである。

 

判例

(最S47.2.15)

 

(遺言者死亡後の)遺言無効確認の訴えは、その遺言が有効であるとすればそれから生ずべき現在の特定の法律関係が存在しないことの確認を求めるものと解される場合で、原告がかかる確認を求める法律上の利益を有するときは、適法と解すべきである。

 

↓ これに対して

判例

(最H11.6.11)

 

遺言者の生存中に受贈者に対して遺言無効確認の訴えを提起することは、即時に確定する利益がなく、訴えの利益はない。

 

(4) 即時確定の利益の存否

 原告の権利ないし法的地位につき危険ないし不安が現存しており、その除去のため確認判決によって即時に権利ないし法的地位を確定する必要がある場合でなければならない。