• 民事訴訟法ー4.訴訟の開始
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1訴えの意義と種類

堀川 寿和2022/01/31 16:41

訴えの意義

 訴えとは、原告が裁判所に対して、原告の主張する請求の当否につき被告との関係で権利主張を示して、審理・判決(審判)を要求する申立てをいう。

 

訴えの種類

 原告の主張する請求の内容によって、「給付の訴え」「確認の訴え」「形成の訴え」の3種類がある。

 

(1) 給付の訴え

意義

 給付の訴えとは、原告の被告に対する給付請求権の主張をして、その審判を求める訴えをいう。この訴訟が給付訴訟である。給付の内容としては、金銭の支払や土地・建物の明渡しのほか、一定の作為の請求(建物収去請求、謝罪広告請求等)や不作為の請求(差止請求等)も含まれる。さらに、一定の登記手続を求めることや、すでになされている登記の抹消手続を求める場合も給付の訴えである(ex 支払え!返せ!よこせ!~しろ!~するな!)。

判決の効果

(イ)原告の勝訴(請求認容判決)

 被告に原告への給付を命じることから給付判決という。この給付判決には、給付請求権が存在するという判断について既判力が生じる。また、被告が判決通りに債務を履行しないときは、原告はこの判決を債務名義として強制執行を求めることができる(民執22条)。

(ロ)原告の敗訴(請求棄却判決)

 給付請求権の不存在を確認する確認判決である。そして給付請求権が存在しないという判断について既判力が生じる。

 

(2) 確認の訴え

意義

 確認の訴えとは、原告が被告に対する権利又は法律関係の存在もしくは不存在を主張し、被告に対してそれを確認する判決を裁判所に対して求める訴えをいう。その存在を主張する場合を積極的確認の訴えといい、その不存在を主張する場合を消極的確認の訴えという。

 積極的確認の訴えの例としては、所有権確認の訴えが、消極的確認の訴えの例としては、債務不存在確認の訴えがある。

判決の効力

 請求認容判決・請求棄却判決いずれも、原告の主張する権利又は法律関係の存否を確認する確認判決であり、確定すると原告・被告間の権利関係の存否の判断について既判力が生じることになる。

 

(3) 形成の訴え

意義

 形成の訴えとは、法律関係の形成を主張してその審判を求める訴えをいう。この訴訟を形成訴訟という。

趣旨

 婚姻、養子縁組等の身分関係や、会社その他の法人等の団体関係については、利害関係人が多いことから、その変動は当事者のみならず第三者との関係でも一律・画一的に生ずることが望ましい。そこでこれら権利関係の変動は裁判所の判決によって初めて生ずることにした。これが形成判決である。

形成判決がなされる場合

 この訴えは、訴えにより裁判所に権利関係の変更を求めることができる旨が法律に規定されている場合に限って認められる。

(イ)人事訴訟

ex 婚姻取消し(民法743条)、離婚(民法770条)、嫡出否認(民法775条)、認知(787条)等

(ロ)会社関係訴訟

ex 会社の設立無効(会社法828条1項1号)、株主総会決議の取消し(会社法831条)など

形成判決の効力

(イ)原告の勝訴(請求認容判決)

 形成の訴えに対する請求認容判決は、権利関係の変動を生じさせる形成判決であり、その確定によって形成力が生じ、形成要件の存在に既判力が生ずる。

(ロ)原告の敗訴(請求棄却判決)

 請求棄却の判決は、形成要件の不存在を確定する確認判決である。

 

(4) その他(形式的形成訴訟)

 訴えの類型は、確認・形成・給付の3つに分類されるが、いわゆる形式的形成訴訟は、この3類型のいずれにも属さない特殊の訴えと解されている。

意義

 一般の形成訴訟と異なり形成要件が具体的に法定されていない形成訴訟を「形式的形成訴訟」という。

 形式的形成訴訟とは、判決の確定によってはじめて権利関係の変動が生じるが、形成の基準となる実体法規が定められていないため、裁判官は要件事実を認定してこれに当該法規を適用するという本来の審理ができない場合をいう。したがって、裁判所の裁量に任され、判決にあたって裁判所は請求を棄却することは許されず合目的的な判決をなす義務を負い、上訴審において、不利益変更禁止(民訴法304条)は適用されないものと解されている。

 形式的形成訴訟の例としては、形式的形成訴訟としては、共有物分割の訴え(民法258条)、父を定める訴え(民法773条)、境界確定の訴えなどが挙げられる。以下、境界確定の訴えを例に説明する。

境界確定の訴え

(イ)意義

 境界確定の訴えとは、隣接地相互の境界が争われる場合に判決による境界線の確定を求める訴えをいう。

(ロ)特徴

 判例によると、境界確定の訴えは、隣接する土地の境界が事実上不明なため争いがある場合に、裁判によって新たにその境界を確定することを求める訴えであって、土地所有権の範囲の確認を目的とするものではないとしている(最S43.2.22)。

(ハ)訴訟手続の特殊性

 境界は、所有権の範囲を画するものであるが、一方で地番と地番との境でもあり、課税上の単位にもなる公法上の単位でもある。したがって、通常の財産権のように私人の自由な処分は許されない。そのため訴訟上も私人の自由な処分は許されない。また通常の訴訟のように裁判所は当事者の申立てに拘束されず、又は境界が証明できないときは証明責任によって請求を棄却すると境界線が不明なままとなり、公共の利益にも影響する。そのため、この訴訟は以下のような特殊性を有する。

a) 処分権主義の適用除外

 当事者が一定の境界線を主張しても、裁判所はこれに拘束されない(民訴法246条の例外)。

 また、当事者は境界の確定について和解や請求の認諾もできない(民訴法267条の不適用)。

b) 弁論主義の適用除外

 当事者間で、土地の境界について合意しても裁判所はこの合意に拘束されない。つまり、境界線についての自白は裁判所を拘束しない(最S42.12.26)。

c) 証明責任

 裁判所は、証拠等により特定の境界線が認定できないときでも証明責任に基づいて請求を棄却することはできず、具体的事案に応じ常識上最も妥当な境界線を合目的的判断によって確定しなければならない(大S11.3.10)。

d) 不利益変更禁止の不適用

 当事者が第1審判決を不服として控訴した場合でも、控訴審の審判について、不利益変更の禁止(民訴法304条)は適用されない(最S38.10.15)。

e) 境界確定訴訟の当事者適格

 判例・通説は境界確定訴訟の法的性格につき形式的形成訴訟説の立場に立っており、当事者適格については、相隣接する土地の各所有者に認められると解している。