- 商業登記法ー13.募集株式の発行に関する登記
- 5.募集株式の発行と発行可能株式総数の変更
- 募集株式の発行と発行可能株式総数の変更
- Sec.1
1募集株式の発行と発行可能株式総数の変更
■意義
募集株式の発行に際して、発行可能株式総数が不足するときは、募集株式の発行の前提として発行可能株式総数を増加する変更をしなければならない。なお、公開会社においては、発行済株式総数の4倍までの範囲で発行可能株式総数を増加させる株主総会決議をしてから、取締役会で、その範囲内で新株発行を行う。(会社法113条3項)もっとも、非公開会社については、4倍という制約がない。(同項ただし書)
発行可能株式総数≧発行済株式総数+今回発行する株式数
新株予約権を発行している株式会社が、新株予約権の行使期間中に募集株式を発行する場合、権利行使していない新株予約権者が新株予約権の行使をした際に発行することになる株式の数を発行可能株式総数から控除した範囲内でなければならない。これに対して、新株予約権の行使期間の初日が到来していない新株予約権については制限されないため、発行可能株式総数枠いっぱいまで募集株式の発行をすることができる。
■条件付決議の可否
発行可能株式総数の拡大を条件に募集株式の発行決議をすることも可能である。
発行可能株式総数 1000株
発行済株式の総数 1000株
新たに発行する株式数 1000株
決議の条件 発行可能株式総数を現在の発行済株式の総数の4倍にあたる4000株に増加すること。
cf 条件付決議が違法な場合(公開会社の場合)
発行可能株式総数 1000株
発行済株式の総数 1000株
新たに発行する株式数 1000株
決議の条件 発行可能株式総数を株式発行後の発行済株式総数(2000株)の4倍にあたる8000株に増加すること。
公開会社において、発行可能株式総数を増加する場合は、定款変更の効力が生じた時における発行済株式の4倍をこえることができない(会社法113条4項)ため、条件となる決議は違法であり、発行可能株式総数の増加の効力は発生しないことになる。したがって、それに係る決議である募集株式の発行決議は、違法となる。
cf 発行可能株式総数を超える発行の瑕疵の治癒
取締役会において枠外発行の決議をしたが、新株発行の効力発生前に株主総会で決議時の発行済株式総数を基準に、その4倍の範囲内で発行可能株式総数の変更をした場合には、新株発行後の会社の発行可能株式総数の変更及び新株発行の登記申請を受理してよい。(S32. 6.27民甲1248号)会社の発行可能株式総数の変更が決議時の発行済株式総数の4倍以内で行われるのであれば、結局は適法と考えられるからである。
発行可能株式総数 800株
発行済株式総数 600株
① 4/15 募集株式の発行決議(+400株)
② 4/20 発行可能株式総数の増加 600株×4=2400株
③ 5/1 払込期日 発行済株式総数 1000株
募集株式の発行決議と募集株式発行の効力発生日(払込期日もしくは期間を定めた場合には各募集株式の引受人が払い込みをした日)との間には通常2週間以上の期間が存するため、新株発行の効力が発生するまでの間に発行可能株式総数を従前の発行済み株式総数の4倍の範囲内で増加させた場合には、発行可能株式総数の変更及び新株発行による登記はいずれも受理される。
cf 株主全員の承認による瑕疵の治癒
現に枠を超過する募集株式の発行をした後、株主全員の賛成により発行可能株式総数を増加する定款変更決議をした場合、当該新株発行による変更登記、会社の発行可能洙式総数の変更登記の申請はともに受理して差し支えない。(S57.11.12民四6853号)。枠外発行は違法だが、新株発行後株主全員の賛成により発行可能株式総数の拡大の決議がなされた以上、もはや募集株式発行無効の訴えが提起されることもないと考えられ、違法な新株発行の瑕疵は治癒されたと解されるからである。
発行可能株式総数 4000株
発行済株式総数 3000株
① 4/15 募集株式の発行決議(+1万2000株)
② 5/1 払込期日 発行済株式総数 1万5000株
③ 5/10 発行可能株式総数の増加 1万5000株×4=6万株