- 会社法ー4.組織再編
- 5.事業譲渡等
- 事業譲渡等
- Sec.1
1事業譲渡等
■事業譲渡の意義
次に掲げる行為を総称して事業譲渡という。事業譲渡は、事業を営むのに必要な権利義務の譲渡である会社分割に類似するが、後述するとおり、個々の債権者に対する対応の仕方に違いがある。
1. 事業の全部の譲渡 2. 事業の重要な一部の譲渡 3. その子会社の株式または持分の全部または一部の譲渡 4. 他の会社の事業の全部の譲受け 5. 事業の全部の賃貸、事業の全部の経営の委任、他人と事業上の損益の全部を共通にする契約その他これらに準ずる契約の締結、変更または解約 |
■事業譲渡等の手続
① 原則(株主総会の特別決議)
株式会社が次に掲げる行為をする場合には、原則として当該行為がその効力を生ずる日の前日までに、株主総会の特別決議によって、当該行為に係る契約の承認を受けなければならない(会社法467条1項)。
1. 事業の全部の譲渡(1号) 2. 事業の重要な一部の譲渡(2号) 事業の重要な一部の譲渡とは、譲り渡す資産の帳簿価額が総資産額の5分の1を超える場合である。逆に5分の1を超えない場合には、重要でない一部の譲渡となり、事業譲渡等に含まれず、株主総会特別決議による承認は不要である。なお、この5分の1の要件については、定款で厳しくすること(ex. 10分の1)は可能である。 3. 次のいずれにも該当する場合におけるその子会社の株式または持分の全部または一部の譲渡(2号の2) (イ)当該譲渡により譲り渡す株式または持分の帳簿価額が当該株式会社の総資産額として法務省令で定める方法により算定される額の5分の1(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)を超えるとき。 (ロ)当該株式会社が、効力発生日において当該子会社の議決権の総数の過半数の議決権を有しないとき。 つまり、子会社の株式または持分の全部または一部の譲渡からは、譲り渡す株式または持分の帳簿価額が総資産額の5分の1を超えないものは事業譲渡等から除かれる。この5分の1の要件についても、定款で厳しくすることが可能である。なおこの場合、譲渡の効力発生日において子会社の議決権の過半数を有しない必要がある。 4. 他の会社(外国会社その他の法人を含む。)の事業の全部の譲受け(3号) 他の会社の事業の一部の譲受けは、事業譲渡等に当たらない。 5. 事業の全部の賃貸、事業の全部の経営の委任、他人と事業上の損益の全部を共通にする契約、その他これらに準ずる契約の締結、変更または解約(4号) 6. 当該株式会社(会社法25条第1項各号に掲げる方法により設立したものに限る。)の成立後2年以内におけるその成立前から存在する財産であってその事業のために継続して使用するものの取得。ただし、当該財産の対価として交付する財産の帳簿価額の合計額が当該株式会社の純資産額として法務省令(会施規135条)で定める方法により算定される額の5分の1(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)を超えない場合を除く(5号)。(事後設立) 会社の成立前からこのような契約をすることを予定しながら、契約の時期を会社成立後にずらすことによって現物出資や財産引受に関する規定が潜脱されるのを防ぐ趣旨である。会社法25条第1項各号に掲げる方法により設立したものに限るため、発起設立または募集設立の方法によって設立された株式会社のみが上記の事後設立に関する規制の適用を受ける。つまり、新設合併、新設分割または株式移転により設立された会社については、事後設立に関する規制が適用されないことになる。 |
なお、譲渡会社が株主総会の決讓によって事業譲渡に係る契約の承認を受けなければならないにもかかわらず、株主総会による承認の手続をしていない場合、当該事業譲渡に係る契約は、無効である(最判昭61.9.11)。
② 例外(株主総会の特別決議を要しない場合)
上記2.の場合で、事業の譲渡により譲り渡す資産の帳簿価額が当該株式会社の総資産額として法務省令(会施規134条)で定める方法により算定される額の5分の1(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)を超えない場合は事業の重要な一部の譲渡に該当しないため、特別決議は不要である(会社法467条1項2号)。また、上記3.の場合において、当該譲渡により譲り渡す株式または持分の帳簿価額が当該株式会社の総資産額として法務省令で定める方法により算定される額の5分の1(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)を超えないとき、または、当該株式会社が効力発生日において当該子会社の議決権の総数の過半数の議決権を有するときも特別決議は不要である(会社法467条1項2号の2)。
③ 反対株主の株式買取請求権
(a) 株式買取請求権者
株式会社が事業譲渡等をする場合において、反対株主は、事業譲渡等をする株式会社に対し、自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求することができる(会社法469条1項)。
ここにいう反対株主とは、次の者をいう(同条2項)。
1. 事業譲渡等をするために株主総会(種類株主総会を含む。)の決議を要する場合 (イ)当該株主総会において議決権を行使することができる株主であって、当該株主総会に先立って当該事業譲渡等に反対する旨を当該株式会社に対し通知し、かつ、当該株主総会において当該事業譲渡等に反対した株主 (ロ)当該株主総会において議決権を行使することができない株主 2. 事業譲渡等をするために株主総会の決議を要しない場合は、すべての株主(会社法468条第1項に規定する場合における当該特別支配会社を除く。) |
なお、事業の全部を譲渡する旨の株主総会決議と同時に会社の解散決議がされたときは、残余財産の分配によって投下資本の回収をすべきであるため、株主は自己の有する株式の買取りを請求できない(会社法469条1項1号)
また、後述するが、他の会社の事業の全部の譲受けをする場合において、当該他の会社の事業の全部の対価として交付する財産の帳簿価額の合計額が、当該株式会社の純資産額として法務省令で定める方法により算定される額に対する割合が5分の1を超えない場合(法務省令で定める数の株式を有する株主の反対する旨の通知があり、株主総会決議を行った場合を除く。)も株主は自己の有する株式の買取を請求できない(会社法469条1項2号、468条2項3項)。
(b) 株主への通知
事業譲渡等をしようとする株式会社は、効力発生日の20日前までに、その株主(会社法468条1項に規定する場合における当該特別支配会社を除く。)に対し、事業譲渡等をする旨(他の会社の事業の全部の譲受けをする場合において、譲り受ける資産に当該株式会社の株式が含まれるときは、その株式に関する事項)を通知しなければならない(会社法469条3項)。
なお、次に掲げる場合、この通知は公告をもってこれに代えることができる(同条4項)。
(イ)事業譲渡等をする株式会社が公開会社である場合 (ロ)事業譲渡等をする株式会社が会社法467条1項の株主総会の決議によって事業譲渡等に係る契約の承認を受けた場合 |
(c) 株主からの買取請求の方法
株式買取請求は、事業譲渡等の効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日までの間に、その株式買取請求に係る株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類および種類ごとの数)を明らかにしてしなければならない(会社法469条5項)。
(d) 株券の提出
株券が発行されている株式について株式買取請求をしようとするときは、当該株式の株主は、事業譲渡等をする株式会社に対し、当該株式に係る株券を提出しなければならない。ただし、当該株券について株券喪失登録の請求をした者については、株券の提出は不要である(会社法469条6項)。
(e) 株式の買取価格の決定
株式買取請求があった場合において、株式の価格の決定について、会社と株主との間に協議が調ったときは、当該株式会社は、事業譲渡等の効力発生日から60日以内に、その支払いをしなければならない(会社法470条1項)。
また、株式の価格の決定について、事業譲渡等の効力発生日から30日以内に協議が調わないときは、株主または株式会社は、その期間の満了の日後30日以内に、裁判所に対し、価格の決定の申立てをすることができる(会社法470条2項)。
(f) 株式買取の効力発生
株式買取請求に係る株式の買取りは、効力発生日に、その効力を生ずる(会社法470条6項)。なお、株券が発行されている株式について株式買取請求があった場合、株券発行会社は株券と引換えに、その株式買取請求に係る株式の代金を支払わなければならない(同条7項)。
(g) 株式買取請求の撤回
株式買取請求をした株主は、事業譲渡等をする株式会社の承諾を得た場合に限り、その株式買取請求を撤回することができる(会社法469条7項)。
ただし、上記(e)の価格の決定について協議が調わず、事業譲渡等の効力発生の日から60日以内に株主または株式会社から裁判所に対する価格の決定の申立てがない場合は、その期間の満了後は、株主はいつでも株式買取請求を撤回することができる(会社法470条3項)。
なお、事業譲渡等をする会社が当該事業譲渡等を中止したときは、株式買取請求は、その効力を失う(会社法469条8項)。
④ 簡易手続による事業全部譲受け
他の会社の事業の全部の譲受けをする場合において、当該他の会社の事業の全部の対価として交付する財産の帳簿価額の合計額の、当該株式会社の純資産額として法務省令(会施規137条)で定める方法により算定される額の割合が、5分の1(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)を超えない場合には、譲受会社の株主に与える影響が小さいことから、手続の簡素化を図るため、譲受会社においては、株主総会の特別決議を要しない(会社法468条2項)。
ただし、法務省令(会施規138条)で定める数の株式(会社法467条1項の株主総会において議決権を行使することができるものに限る。)を有する株主が、株式買取請求の機会を与えるための通知または公告の日(会社法469条3項4項)から2週間以内に、簡易手続による事業の全部の譲受けに反対する旨を、当該行為をする株式会社に対し通知したときは、当該株式会社は、効力発生日の前日までに、株主総会の特別決議によって、当該行為に係る契約の承認を受けなければならない(会社法468条3項)。
⑤ 略式手続による事業譲渡等
事業譲渡等の契約の相手方が当該事業譲渡等をする株式会社の特別支配会社である場合は、株主総会の特別決議は不要となる(会社法468条1項)。
特別支配会社とは、ある株式会社の総株主の議決権の10分の9(これを上回る割合を当該株式会社の定款に定めた場合にあっては、その割合)以上を他の会社および当該他の会社が発行済株式の全部を有する株式会社その他これに準ずるものとして法務省令(会施規136条)で定める法人が有している場合における当該他の会社のことである。このような関係にある会社間で事業譲渡等を行う場合には、事業譲渡等を行う株式会社の、株主総会の承認決議の成立が確実視されるからである。
なお、略式組織再編行為について、当該組織再編行為が法令または定款に違反する場合において、株主が不利益を受けるおそれがあるときは、会社法784条の2、796条の2において、株主に特別の差止請求権が認められているが、略式事業譲渡においては、このような株主による差止請求権は認められていない点に注意!
■事業譲渡をした際の競業禁止規定
① 譲渡会社の競業の禁止
事業を譲渡した会社は、当事者の別段の意思表示のない限り、同一市町村の区域内およびこれに隣接する市町村の区域内においては、その事業を譲渡した日から20年間は、同一の事業を行ってはならない(会社法21条1項)。さらに、譲渡会社が同一の事業を行わない旨の特約をした場合には、その特約は、その事業を譲渡した日から30年の期間内に限り、その効力を有する(同条2項)。
② 譲渡会社の商号を使用した譲受会社の責任等
(a) 原則
事業を譲り受けた会社が、譲渡会社の商号を引き続き使用する場合には、その譲受会社も、譲渡会社の事業によって生じた債務を弁済する責任を負う(会社法22条1項)。
たとえば、B社がA社にホテル事業を譲り受けて、引き続きA社の名前でホテル事業を営んでいる場合、B社はA社のホテル事業によって生じた債務を弁済しなければならないことになる。
譲受会社が譲渡会社の商号を引き続き使用しない場合には、譲受会社は責任を負う必要はないが、譲受会社が譲渡会社の商号を引き続き使用しない場合においても、譲渡会社の事業によって生じた債務を引き受ける旨の広告をしたときは、譲渡会社の債権者は、譲受会社に対し、弁済の請求をすることができる(会社法23条1項)。
(b) 例外
ただし、事業を譲り受けた後、遅滞なく、譲受会社がその本店の所在地において譲渡会社の債務を弁済する責任を負わない旨を登記した場合は弁済する責任を負わない(同条2項前段)。
また、事業を譲り受けた後、遅滞なく、譲渡会社および譲受会社から第三者に対しその旨を通知した場合において、その通知を受けた第三者に対しても、譲受会社は弁済する責任を負わない(同後段)。
(c) 責任の消滅
譲受会社が譲渡会社の商号を引き続き使用することにより譲渡会社の債務の弁済責任を負うときは、譲渡会社の責任は、事業を譲渡した日後2年以内に請求または請求の予告をしない債権者に対しては、その期間を経過したときに消滅する(会社法22条3項)。
会社法23条1項の規定により、譲受会社が譲渡会社の債権者に対して債務を弁済する責任を負う場合も、譲渡会社の責任は、その広告後2年以内に請求または請求の予告をしない債権者に対しては、その期間を経過した時に消滅する(会社法23条2項)。
③ 譲受会社に弁済した債務者の保護
譲受会社が譲渡会社の商号を引き続き使用する場合において、譲渡会社の事業によって生じた債権について、譲受会社にされた弁済は、弁済者が善意でかつ重大な過失がないときは、その効力を有する(会社法22条4項)。