- 不動産登記法ー9.信託の登記
- 2.信託の登記
- 信託の登記
- Sec.1
1信託の登記
■なすべき登記
(1) 不動産が信託された場合
① 信託財産が不動産の場合
不動産を信託財産として信託がされた場合、当該不動産の所有権は委託者から受託者に移転するので、所有権の移転を第三者に対抗するために委託者から受託者への所有権の移転の登記を申請する。
さらに、当該不動産が信託財産であることを第三者に対抗するために、信託の登記をする。形式上、委託者から受託者名義に変わるが、この不動産は登記名義人(受託者)の固有財産ではなく、信託の目的に従って管理・処分されるべきものであるということを公示するためである。信託の登記と、信託による権利の保存、設定、移転又は変更の登記は、1つの申請情報で申請することを要する。
② 登記事項
信託登記の登記事項は、不登法59条各号に掲げるもののほか、次のとおりとする。(不登法97条1項)
(イ)委託者・受託者・受益者の氏名又は名称及び住所
(ロ)受益者の指定に関する条件又は受益者を定める方法の定めがあるときは、その定め
(ハ)信託管理人があるときは、その氏名又は名称及び住所
受益者が現に存しない場合のみ指定することができる。受益者の定めがない信託の場合のほか、まだ生まれていない子を受益者としたような場合である。
(ニ)受益者代理人があるときは、その氏名又は名称及び住所
受益者が現に存する場合に、受益者の全部又は一部の代理人を指定することができる。
(ホ)受益証券発行信託であるときは、その旨
受益権の有価証券化が許容されており、その場合、その旨が登記事項となる。
(ヘ)受益者の定めのない信託(目的信託)であるときは、その旨
受益者の定めのない信託も可能であり、その場合、その旨が登記事項となる。
受益者の存在を予定しない信託で、受益者のためではなく、信託行為で定められた信託目的達成のために管理処分等がなされることになる。
(ト)公益信託であるときは、その旨
(チ)信託の目的
(リ)信託財産の管理方法
(ヌ)信託終了の事由
(ヲ)その他の信託の条項
信託による所有権移転登記 申請書 記載例
(*1)受託者が複数の場合には、「所有権移転(合有)及び信託」と記載する。
(*2)信託による所有権移転登記は、委託者と受託者の共同申請によるが、信託の登記は受託者が単独で申請できる。なお、受託者が数名いる場合でも、各受託者の持分を記載することを要しない。合有名義となるからである。
(*3)信託の登記を申請する場合、申請情報とあわせて、信託目録に記録すべき情報を提供することを要する。具体的には、委託者、受託者、受益者、信託の目的、信託財産の管理方法、信託の終了事由等を記録する。
(*4)不動産を信託したことによる所有権の移転の登記及び信託の登記の登録免許税は、所有権の移転の登記の分については非課税であり(登税法7条1項1号)、信託の登記の分として不動産価額に1000分の4を乗じた額を納付する。(登税別表第一、一、(十)イ)不動産が信託されると、形式上は所有権が受託者に移転するが、実際には預けるようなものであり、実質的な所有者は変わらないと考えることができるので、所有権移転登記は非課税とされた。
(完了後の登記記録)
② 自己信託の場合
不動産を信託財産として自己信託がされた場合は、その不動産について「所有権変更登記」と「信託の登記」を申請する。自己信託がされた場合、委託者と受託者が同一人であるので、信託財産が委託者から受託者に移転するわけではなく所有者は変わらない。ただ、自己信託がされると、当該不動産は委託者固有の財産から信託財産となるので、所有権の性質に変更が生じることになるためである。
不動産について自己信託がされたことによる所有権の変更の登記は、主登記でされる。(H19.9.28民二2048号)自己信託がなされた場合、委託者と受託者が同一人であるため、その者の単独申請による。
自己信託による場合
(*1)自己信託は公正証書又は公証人の認証を受けた書面もしくは電磁的記録を作成することにより効力を生じる。詐害行為類似の方法として制度が悪用されることを防ぐためである。よって登記原因証明情報としてこれらの書面を添付する。ただし公正証書等以外で作成された場合であっても受益者となるべき者として指定された第三者に対する確定日付ある証書による当該信託がなされた旨およびその内容の通知により自己信託の効力が生じるため、その場合にはそのことを証する書面等および通知をしたことを証する情報を提供する。
(完了後の登記記録)
(2) 信託財産が処分、原状回復された場合
① 信託財産の処分による登記
受託者が信託財産であるお金で不動産を購入したような場合、当該不動産も信託財産となるため、所有権移転(所有権保存登記)及び信託財産の処分による信託の登記を申請することになる。
信託財産処分による信託 申請書 記載例 (信託財産たる金銭でXから土地を購入した場合)
信託財産処分による信託 申請書 記載例 (信託財産たる金銭で建物を建築した場合)
② 信託財産の原状回復による登記の場合
受託者がその任務を怠ったことによって信託財産に変更が生じたときは、受益者は、一定の例外を除き、その原状の回復を請求することができる。(信託40条1項2号)
信託財産復旧による信託 申請書 記載例 (信託財産たる土地をXから取り戻した場合)
(3) 委託者又は受益者の代位申請
不動産が信託財産となった場合、その不動産が信託財産であることを対抗するために信託の登記をすることを要するが、受託者がその不動産について所有権の移転の登記のみを申請し、信託の登記を申請しないということも考えられる。そうなると、当該不動産が信託財産であることを第三者に対抗することができなくなり、受託者が信託財産たる不動産を勝手に処分してしまうことも考えられる。
そこで、委託者又は受益者は受託者に代位して、単独で信託の登記を申請することができる。(不登法99条)
■信託目録
信託の登記がされたときは、登記官が職権で、委託者、受託者、受益者、信託の目的、信託財産の管理方法、信託終了の事由等を明らかにした信託目録を作成することができる。(不登校法97条3項)
信託の内容をすべて登記記録に記録するものとすると、登記記録が見にくくなってしまうため、信託の内容については信託目録に記録するものとされている。