- 不動産登記法ー9.信託の登記
- 1.信託の設定
- 信託の設定
- Sec.1
1信託の設定
■信託の設定
(1) 信託の意義
信託とは、信託法3条で定める方法により、特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の目的達成のために行為をすべきものとすることをいう。(信託法2条1項)
例えば、ある人が自分の財産を第三者に預けて運用してもらうような場合である。
(2) 信託の構造
① 委託者
自己の財産を託す者である。
② 受託者
託された財産を管理、処分する者である。受託者は、数人でも一人でもよいが、受託者が2名以上いる信託においては、信託財産は、その合有となる。
③ 受益者
信託によって得られた収益を享受するものである。受益者は委託者と同一人であってもよい。
なお、権利能力なき社団を受益者とする信託の登記はすることができない。(S59.3.2民三1131号)
(3) 信託の方法
信託は、次に掲げる方法のいずれかによってする。
① 契約による信託
② 遺言による信託
③ 自己信託
委託者が自ら受託者となる信託を自己信託という。自分が自分に財産を信託して、それを管理、処分等して、そこから得た利益を第三者に享受させるというのもおかしな話であるが、このような信託も認められている。例えば、Aが障害のある自分の子供に財産を贈与したいと思っているが、その子はもらった財産を自ら管理できないため、A自身を受託者として信託し、自ら管理・処分し、子に収益を享受させるということような場合に利用される。自己信託をしておけば、仮にその後Aが破産するなどしたとしても、Aの個人財産とは区別され引き続き子に受益させることができるメリットがある。
(4) 信託の効力の発生
① 契約による方法の場合
信託契約の方法によってなされる信託は、委託者となるべき者と受託者となるべき者との間の信託契約の締結によってその効力を生ずる。
② 遺言による信託の場合
遺言による方法によってなされる信託は、当該遺言の効力の発生によってその効力を生ずる。
③ 自己信託の場合
自己信託によってなされる信託は、法定の事項を記載した公正証書又は公証人の認証を受けた書面もしくは電磁的記録によってされる場合にはその作成により効力を生じるが、公正証書等以外の書面又は電磁的記録によってされる場合にはその効力は確定日付のある証書により当該信託がされた旨及びその内容が受益者となるべき者として指定された第三者に通知がされることによってはじめて効力が生じる。
(5) 信託財産の種類
信託財産とは、受託者に属する財産であって、信託により管理又は処分すべき一切の財産をいう。金銭、有価証券、不動産、動産等、信託法上特に制限は設けられていない。信託法3条1号2号により抵当権等の担保権設定行為も信託財産となる。(セキュリティトラスト)
セキュリティトラスト(抵当権の設定による信託)とは、抵当権と被担保債権を切り離して、抵当権を信託財産とする信託である。
具体的には,委託者が自己の不動産に受託者のために抵当権を設定し、その被担保債権の債権者を受益者に指定するものである。つまり、抵当権者と被担保債権の債権者が異なることになる。この方法を使えば、第三者(受託者)に抵当権者となってもらって、抵当権の管理,実行等を任せることができる。
(6) 信託目的
受託者が信託財産を他人のために管理又は処分をするには、一定の目的に従わなければならない。これを「信託目的」という。受託者が第三者の債務の担保として信託財産に抵当権を設定し、その登記の申請があった場合、委託者及び受益者の承認があるときでも受理すべきではない。(S 41.5.16民甲1179号)