- 不動産登記法ー8.仮登記
- 4.仮登記に基づく本登記
- 仮登記に基づく本登記
- Sec.1
1仮登記に基づく本登記
■意義
仮登記後に、本登記ができる状況が調えば、本登記をすることができる。
ex 1号仮登記の場合
登記識別情報や第三者の許可書を紛失したので所有権の移転の仮登記をした後、登記識別情報やそれらが見つかった場合には、所有権の移転の仮登記に基づく本登記を申請することができる。
2号(請求権)仮登記の場合
A・B間で売買予約がされたので、AからBへの所有権の移転請求権仮登記をした後、A・B間で売買の本契約(売買予約の完結権の行使)がされて所有権が移転した場合、所有権の移転請求権の仮登記に基づく本登記を申請することができる。
2号(条件付)仮登記の場合
甲・乙間で農地法の許可を条件とする停止条件付所有権移転仮登記をした後に、農地法の許可が得られてその許可書が到達した場合
■所有権の仮登記に基づく本登記手続
(1) 申請人
仮登記権利者を登記権利者、仮登記義務者を登記義務者とする共同申請による。仮登記後に第三者に
所有権移転がなされている場合も同様である。この場合、第三者は利害関係人となる。
仮登記後に第三者に所有権移転がなされている場合(相続・合併以外の場合)
所有権の仮登記の本登記 申請書 記載例
(*1)「所有権移転(2番仮登記の本登記)」でも可
(*2)仮登記の際に1000分の10を納付しているため、本登記の際にその差額である1000
分の10を納付する取扱いである。減税の根拠条項である「登録免許税法第17条第1項」と記載する。
cf 仮登記後に第三者に所有権移転がなされている場合(相続又は合併の場合)
*甲区3番の所有権移転原因が相続又は合併の場合、甲区2番の仮登記の本登記義務を負うのは丙である。
先例 | (S35.5.10民三328号) |
所有権移転請求権の仮登記後、所有権移転請求権の一部が第三者に移転している場合、その仮登記の本登記は、所有権移転請求権の共有者全員が同時に申請する必要がある。 |
⇒ 所有権移転請求権の一部移転は付記登記でなされ、仮登記の本登記のための余白は一つしかないため、1回で本登記を記入する必要があるからである。
仮登記義務者に相続がある場合
先例 | (S38.9.28民甲2660号) |
仮登記義務者が死亡し、その相続人を登記義務者として本登記を申請するときは、必ずしも相続による所有権移転登記をすることを要せず、相続を証する情報を提供して本登記の申請をすることができる。 |
(2) 登記上の利害関係人
所有権に関する仮登記に基づく本登記の場合は、本登記によって登記上不利益を受ける第三者(登記上の利害関係を有する第三者)が存在するときは、申請情報と併せてその者が作成した承諾を証する情報又はその者に対抗することができる裁判があったことを証する情報を提供することを要する。(不登法109条1項)
仮登記に基づく本登記がされたときはその第三者の登記は登記官の職権によって抹消されることになるためである。登記官は、利害関係人の承諾を証する情報を提供してする申請に基づいて登記をするときは、職権で、第三者の権利に関する登記を抹消しなければならない。(不登法109条2項)
先例 | (S37.7.30民甲2177号) |
所有権に関する仮登記がされた後、数次にわたって所有権の移転の登記がされている場合、仮登記に基づく本登記を申請するときは、現在の所有権の登記名義人のみが登記上の利害関係を有する第三者に該当する。 |
先例 | (S46.12.11民三532号) |
所有権移転請求権の仮登記後、仮登記名義人が同一物件につき根抵当権をも得ている場合、仮登
記の本登記に際し、根抵当権者としての承諾証明情報を提供する必要はない。 |
(3) 登録免許税
① 所有権仮登記の本登記
所有権移転仮登記及び所有権移転請求権の仮登記を本登記にする場合の登録免許税率は、別表所定の税率から1000分の10を控除した割合となる。(登免法17条1項)よって売買等を原因とする所有権移転仮登記の本登記の場合の税率は、1000分の10となる。
② 用益権設定仮登記の本登記
地上権設定仮登記及び地上権設定請求権の仮登記を本登記にする場合の登録免許税率も本来の税率1000分の10から1000分の5を控除した割合である、1000分の5となる。
③ 担保権設定仮登記の本登記
担保権設定仮登記の登録免許税は、1000円であるため本登記の際は本来の税率1000分の4となる。
④ 用益権登記名義人が用益物件の所有権を取得した場合
地上権、永小作権、賃借権、採石権の設定登記のある不動産について、これらの登記名義人が当該不動産の所有権を取得して所有権の移転登記をする場合の税率は本来の税率の100の50を乗じた割合となる。用益権設定の際に既に1000分の10を納付しているからである。そこで、これらの用益権者が所有権移転仮登記を本登記に直す場合、登録免許税法17条1項及び4項の適用を受けることになる。例えば、地上権者が売買を原因とする所有権移転仮登記を本登記に直す場合の税率は1000分の20の半額から仮登記の際に納めた1000分の10を控除し、0となる。しかし登録免許税法第19条で算出額が1000円未満の場合は1000円となると規定されているため、この場合1000円を納付することになる。(登録免許税法第17条第4項)
(4) 本登記の可否
① 仮登記原因と本登記原因の同一性、関連性
仮登記に基づく本登記の登記原因は、仮登記原因と同一か関連性があるものでなければならない。
例えば、1号仮登記原因が「売買」であれば、本登記原因は同一の「売買」でなければならない。
2号仮登記の原因が「代物弁済予約」であれば、本登記原因は関連性がある「代物弁済」でなければならない。
② 仮登記名義人の同一性
仮登記に基づく本登記の登記権利者は、登記記録上の仮登記の登記名義人と同一人(氏名、住所が同一)であることを要する。したがって、仮登記の後、登記記録に記載されている住所や氏名に変更があれば、本登記の前提として、仮登記名義人住所変更登記や氏名変更登記をしなければならない。
(5) その他
先例 | (S36.3.31民甲773号) |
所有権の移転の仮登記の本登記を申請すべきところ、誤って別個の順位番号をもって所有権の移転の登記がされた場合、これを仮登記に基づく本登記と更正することはできない。 |
■所有権以外の権利の仮登記に基づく本登記手続
(1) 申請人
① 原則
所有権以外の権利に関する仮登記を本登記にする場合も、原則として仮登記権利者が登記権利者、仮登記義務者が登記義務者となる。
② 例外(仮登記後第三者に所有権移転がされた場合)
所有権以外の権利に関する仮登記(抵当権の設定の仮登記)がされた後、第三者に所有権の移転の登記がされた場合、仮登記に基づく本登記の登記義務者は、仮登記の登記義務者たる従前の所有権の登記名義人(甲)でも、現在の所有権の登記名義人(乙)でもどちらでも差し支えない。(S37.2.13民三75号)
(2) 登記上の利害関係人
所有権以外の権利に関する仮登記の本登記の場合、不登法109条1項の適用はない。同条は所有権に関する仮登記に基づく本登記を申請する場合の規定だからである。したがって、所有権以外の権利に関する仮登記に基づく本登記を申請するときは、申請情報と併せて登記上の利害関係を有する第三者の承諾等を証する情報を提供することを要しない。
先例 | (S37.10.11民甲2810号) |
抵当権の放棄による抹消の仮登記後、債権譲渡による抵当権移転の登記がなされている場合、抹消後登記の本登記義務者は仮登記義務者たる抵当権の譲渡人でも、抵当権譲受人でもどちらでもよい。 |
⇒ ただし、譲渡人を登記義務者として申請するときは、譲受人の承諾を証する情報の提供を要する。抹消についての登記上の利害関係人にあたるからである。