- 不動産登記法ー5.根抵当権に関する登記
- 5.元本確定前に根抵当権者又は債務者に相続が開始した場合の登記
- 元本確定前に根抵当権者又は債務者に相続が開始した場合の登記
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1元本確定前に根抵当権者又は債務者に相続が開始した場合の登記
根抵当権者又は債務者が死亡しその後6か月経過すると、根抵当権は相続開始の時に遡って確定したものとみなされてしまう。(民法398条の8 4項)そこで、元本を確定させず、引き続き相続人が根抵当取引を継続していくためには、相続開始後6か月以内に一定の合意をして、その旨の登記をする必要がある。
■元本確定前に根抵当権者が死亡した場合
(1) 合意の必要性
通常は根抵当権者Aが死亡すれば、A・B間の取引は終了することになる。よって根抵当権者Aの死亡は元本確定事由とされている。しかし場合によってはAの子供が亡くなった親の家業を継いで引き続きBと取引することも考えられる。そこで根抵当権者Aの死亡後6か月以内に指定根抵当権者の合意の登記をすることによって元本確定させないことができる。
(2) 合意の時期
根抵当権者の相続人全員と設定者の間で、根抵当権者死亡後6か月以内に、根抵当権者の相続人のうちの誰かを指定根抵当権者とする合意をして、その旨の登記をしなければならない。
(3) 登記申請手続
この指定根抵当権者の合意の登記をする前提として、まず相続による根抵当権の移転登記をしなければならない。相続人による単独申請である。
相続による根抵当権の移転登記 (極度額1000万円) (1件目)
(*1)相続人が2名以上であっても持分の記載を要しない。
(*2)根抵当権の極度額を課税価格として、その1000分の1である。
(登録免許税法別表一、一、(六)イ)
指定根抵当権者の合意の登記 申請書 記載例 (2件目)
(*1)相続による根抵当権の移転の登記を受けた名義人全員が申請人となる。
(*2)変更登記として、不動産1個につき1000円である。(登録免許税法別表一、一、(十四))
(完了後の登記記録)
(4) 合意の効果
相続開始後6か月以内に指定根抵当権者の合意をして、その旨の登記をすることによって、相続開始の時に存する被相続人の被担保債権の範囲に属する債権のほか、指定根抵当権者が相続の開始後に取得する被担保債権の範囲に属する債権も当該根抵当権で担保され、引き続き未確定のまま存続することになる。
(5) 共有根抵当権の場合
根抵当権の共有者の1人につき相続が開始した場合、当該根抵当権自体の確定は生じず、6か月以内に指定根抵当権者の合意とその旨の登記をしなくても、根抵当権全体の元本が確定することはない。共有者全員につき確定事由が生じたときにはじめて、根抵当権全体が確定する。しかし、この場合も、一部の根抵当権者に相続が発生すれば、6か月以内に指定根抵当権者の合意をすることができる。
■元本確定前に債務者が死亡した場合
(1) 債務者の相続の場合
上記の理は根抵当権の債務者にも当てはまる。よって元本確定前の根抵当権の債務者が死亡すると原則として根抵当権の元本は確定することになるが、6か月以内に指定債務者の合意の登記をすれば根抵当権の元本は確定せず、引き続き根抵当権者と債務者の相続人のうち家業を継いだ者との取引を引き続き担保することになる。
(2) 合意の時期
根抵当権者と設定者の間で、債務者死亡後6か月以内に、債務者の相続人のうちの誰かを指定債務者とする合意をして、その旨の登記をしなければならない。
(3) 登記申請手続
この指定債務者の合意の登記をする前提として、まず相続による根抵当権の債務者の変更登記をしなければならない。
相続による根抵当権の債務者の変更登記 (1件目)
(*1)変更登記として、不動産1個につき1000円である。(登録免許税法別表一、一、(十四))
指定債務者の合意の登記 申請書 記載例 (2件目)
(*2)変更登記として、不動産1個につき1000円である。(登録免許税法別表一、一、(十四))
(完了後の登記記録)
■合意の登記後の共同根抵当権の追加設定
元本確定前に根抵当権者(又は債務者)に相続が開始し、相続開始後6か月以内に指定根抵当権者(指定債務者)の合意の登記がされたときは、その根抵当権は元本は未確定のまま存続する。そのため、当該根抵当権と同一の債権を担保するために他の不動産に根抵当権を追加的に設定し、共同根抵当権の追加設定の登記を申請することができる。(S62.3.10民三1083号)
(1) 指定根抵当権者の合意の登記のある根抵当権の追加設定
指定根抵当権者の合意の登記のある根抵当権追加設定登記 申請書 記載例
(2) 指定債務者の合意の登記のある根抵当権の追加設定
指定債務者の合意の登記のある根抵当権と追加設定の登記 申請書 記載例