- 不動産登記法ー5.根抵当権に関する登記
- 2.共同根抵当権の登記
- 共同根抵当権の登記
- Sec.1
1共同根抵当権の登記
■共同根抵当権の意義
共同根抵当権といっても、①「純粋共同根抵当権」と、②「累積式共同根抵当権」の2つの種類がある。同じ共同根抵当権でも、その性質は大きく異なっている。一般的に共同根抵当権というと、①の「純粋共同根抵当権」のことをさす。
(1) 純粋共同根抵当権
① 意義
「同一の債権の担保」として数個の不動産の上に根抵当権を設定する場合に、これを「共同抵当」の場合と同じく扱われるものとすることができる。これを「純粋共同根抵当」という。
② 要件
次の2つの要件を具備した場合に限り純粋共同根抵当となり、民法392条及び393条が適用される。この要件を満たさなければ、次の「累積式共同根抵当権」と扱われる。
(イ)同一の債権の担保として数個の不動産上に根抵当権が設定されたこと
すべての不動産上の根抵当権について、「債権の範囲」「債務者」「極度額」が同じでなければならない。
cf 抵当権の追加設定 なお、確定期日については不動産ごとに異なっていても問題ない。
(ロ)設定と同時に共同担保である旨の登記がされること
仮にすべての不動産の「債権の範囲」「債務者」「極度額」であっても、共同担保である旨の登記がなされなければ、純粋共同根抵当権とはならず、次の累積式共同根抵当権とされてしまう。「共同根抵当権」として、甲土地乙土地に根抵当権設定登記を申請する必要がある。
設定と同時に共同担保である旨の登記をしなければならないが、一旦単独の根抵当権を設定した後にそれと同一の債権を担保するために他の不動産に根抵当権を追加的に設定し、共同
担保の関係にすることもできる。その場合、追加設定の際に共同担保である旨の登記をする。
③ 登記
登記は、純粋共同根抵当権を成立させるための要件であり、対抗要件ではない。
④ 共同根抵当権が成立した場合の効果
複数の不動産を目的として共同根抵当権が成立したら、普通抵当の場合と同じく、すべての不動産を合わせて極度額を限度として優先弁済が受けられる。
前頁の事例でいうと、根抵当権者Aは、甲土地乙土地の競売代金から極度額1000万円を限度として優先弁済が受けられる。甲土地乙土地からそれぞれ1000万円の優先弁済を受けられるわけではない点に注意!
⑤ 共同根抵当権の変更
純粋共同根抵当権の担保すべき「債権の範囲」、「債務者」、「極度額」の変更又はその「全部譲渡」、「一部譲渡」は、その設定されているすべての不動産について登記をしなければ、その効力を生じない。(民法398条の17 1項)
(2) 累積式共同根抵当権
① 意義
複数の不動産に根抵当権を設定しても、「債権の範囲」「債務者」「極度額」の一部が異なっていたり、同一でも設定と同時に共同担保である旨の登記がなされなかった場合には、「純粋共同根抵当権」とはならず、「累積式共同根抵当権」となる。(民法398条の18)累積式根抵当権には抵当権に関する民法392条と393条は適用されないため、同時配当の際に割付けはなされず、異時配当がなされても後順位抵当権者は次順位の代位をすることもできない。累積式共同根抵当権は、「共同」といってもそれぞれの不動産に別個独立の複数の根抵当権が設定されただけで、実際のところ共同根抵当権ではない。よって、同一の登記所の管轄区域内に存在する数個の不動産を目的として累積式根抵当権が設定されても1つの申請情報で設定登記を申請することはできない。各別に根抵当権設定登記をすべきである。
② 共同根抵当権が成立した場合の効果
前貢の事例でいうと、根抵当権者Aは、甲土地乙土地の競売代金からそれぞれから極度額1000万円ずつ優先弁済を受けることができる。すなわち、「各不動産の代価について、各極度額に至るまで」優先権を行使することができる。
(3) 純粋共同根抵当権と累積式共同根抵当権間の種類の変更
登研 | (質疑登研315号) |
純粋共同根抵当権を累積式共同根抵当権に変更することはできない。 |
先例 | (S46.10.4民甲3230号) |
累積式共同根抵当権を変更契約によりに純粋共同根抵当権に変更することもできない。 |
■共同根抵当権の設定(純粋共同根抵当権)
(1) 同時設定
根抵当権につき共同担保の旨の登記をしようとするときは、その旨の特別の約定が必要である。普通抵当の場合と同様に、数個の不動産の一部につき共同根抵当権の設定登記をすることもできる。
①所有者を異にする数個の不動産を目的とする共同根抵当権の設定を同一申請情報で一括して申請することができるし、
②登記原因の日付を異にする場合も同一申請情報で一括申請することが認められる。本来ならば、登記原因が異なっているため、一括申請の要件を満たしていないが、共同担保権に関する登記については、登記の目的さえ一致していれば登記原因を異にしていても、便宜上1つの申請情報で申請することが認められている。
① 所有者を異にする場合
所有者を異にする数個の不動産に対する共同根抵当権設定登記 申請書 記載例
② 不動産ごとに設定日が異なる場合(原因日付が不動産ごとにことなる場合)
原因日付を異にする数個の不動産に対する共同根抵当権設定登記 申請書 記載例
(2) 追加設定
① 意義
共同根抵当権の設定は、数個の不動産について必ずしも同時に契約をする必要はない。ある不動産に根抵当権の設定の登記がされた後に、それと同一の債権を担保するために他の不動産に根抵当権を追加的に設定し、共同担保の関係とすることもできる。なお、追加設定の場合も純粋共同根抵当権として登記する以上、既登記物件と追加物件の「極度額」「債権の範囲」「債務者」は同一でなければならない。
共同根抵当権の追加設定登記 申請書 記載例
(*1)既登記物件と追加物件の管轄登記所が異なる場合には、前登記証明書として既登記物件の登記事項証明書を提供する必要がある。「極度額」「債権の範囲」「債務者」が一致しているか登記官が確認するためである。なお、既登記物件と追加物件の管轄登記所が同一の場合は省略することができる。なお、この前登記証明書は(*2)の減税証明を兼ねることになる。これに対して、抵当権の追加設定の場合には必ず登記証明情報として既に他の管轄に設定した登記事項証明書を添付しなければならないわけではない。提供すれば登録免許税13条2項の減税措置が受けられるだけであることと比較。
(*2)追加物件1個につき金1500円である。減税措置の根拠条文を記載する。
(*3)共同根抵当権として追加設定をする場合には、前の登記に係る不動産の所在、地番もしくは家屋番号、及び順位番号を記載し、申請を受ける登記所に共同担保目録がある場合には、その目録の記号及び目録番号を記載する。
② 管轄の異なる複数の不動産に同時に根抵当権を設定する場合
例えば、甲登記所管内のA物件と乙登記所管内のB物件を目的とする共同根抵当権の設定契約が締結された場合、まず甲登記所でA物件につき「根抵当権設定登記」をし、次いで乙登記所にB物件に申請するときに初めて「共同根抵当権設定(追加)」とする設定登記をすることになる。cf 抵当権の場合
これに対して甲登記所管内のA物件と乙登記所管内のB物件を目的とする共同抵当権の設定契約がされた場合、最初に甲登記所のA物件に抵当権設定登記をする段階で共同抵当権として登記をすることになるため、共同担保となる乙登記所のB物件の内容を申請情報として提供する必要がある。
③ 追加設定の態様
(イ)甲、乙不動産を目的として共同根抵当権の設定の登記がされている場合において、それと同一の債権を担保するために、甲不動産のみ(又は乙不動産のみ)についての追加担保として(片面的共同担保)、丙不動産を目的として共同根抵当権の追加設定をすることはできない。(S46.10.4民甲3230号)
(ロ)逆に同一の債権を担保するため、甲・乙不動産を目的として根抵当権の設定の登記がされているが、共同担保の旨の登記がされていない場合(累積根抵当)に、それと同一の債権を担保するため、甲・乙・丙不動産を共同担保とする丙不動産についての共同根抵当権の追加設定をすることはできない。(S46.10.4民甲3230号)甲・乙不動産を目的とした根抵当権は累積式根抵当権として設定されているため、それを後から純粋共同根抵当(共同根抵当権)とすることはできないからである。
④ 共同根抵当権の追加設定の登記の可否
前述のとおり、純粋共同根抵当権の追加設定の場合、既登記物件と追加物件の「極度額」「債権の範囲」「債務者」は同一でなければならない。よって、根抵当権の追加設定に際して、既存の根抵当権の極度額、債権の範囲、債務者に変更がある場合には、まずそれらの変更登記をした後でなければ、共同根抵当権の追加設定はできない。cf 抵当権の場合、
これに対して、抵当権の場合には、既存の抵当権の「債権額」「利息」「損害金」「債務者」等の登記事項に変更がある場合であっても、当該変更登記を後回しにして、変更後の内容で共同抵当権の追加設定ができる点と比較。
登研 | (質疑登研325号) |
根抵当権の追加設定を申請する場合において、前に登記された根抵当権の債務者の氏名、住所が変更(更正)されている場合には、その前提として債務者の氏名、住所の変更(更正)登記をする必要がある。 |
先例 | (H22.11.1民二2759号) |
ただし、地番変更を伴わない区制変更により根抵当権の債務者の住所が変更した場合は、その変更登記を省略して共同根抵当権の追加設定を申請することができる。 |
登研 | (質疑登研422号) |
根抵当権の追加設定において、根抵当権者の氏名、住所(会社の場合、商号、本店)に変更が生じている場合、変更を証する情報を提供して追加設定登記をすることはできず、前提として根柢当権登記名義人氏名又は住所(会社の場合には商号又は本店)の変更登記をする必要がある。 |
(3) 共同担保目録
共同根抵当権の設定登記がされたときは、登記官は下記のような共同担保目録を作成し、根抵当権設定登記の登記記録の末尾にこの共同担保目録の記号と目録番号を記録する。(不登規166条1項)