• 不動産登記法ー5.根抵当権に関する登記
  • 3.根抵当権の変更・更正の登記
  • 根抵当権の変更・更正の登記
  • Sec.1

1根抵当権の変更・更正の登記

堀川 寿和2022/01/13 16:46

根抵当権の変更・更正登記の意義

 根抵当権の設定登記後に、登記事項(極度額、債権の範囲、債務者、確定期日等)が変更されたり、錯誤又は遺漏があった場合には、原則として変更登記や更正登記をしなければ、変更・更正を第三者に対抗することができない。

極度額の変更、更正

(1) 意義

 根抵当権者と設定者は、元本確定の前後を問わず、利害関係人の承諾を得て極度額を変更することができる。(民法398条の5)


(2) 共同根抵当権の極度額の変更の場合

 共同担保の旨の登記のある共同根抵当権については、全部の根抵当権につき極度額の変更登記がなされたときに変更の効力が生ずる。つまり、1つの根抵当権につきその登記が未了であれば、変更登記のされた根抵当権についても変更の効力が生じないことになる。(書式精義中)


(3) 利害関係人の承諾(効力要件)

 権利の変更・更正登記については、利害関係人の承諾を得られれば付記登記で、得られなければ主登記で登記をなされるのが原則であるが、根抵当権の極度額の変更・更正登記の場合には、利害関係人が存在するときはその承諾を得ることが民法上要求されている。つまり、利害関係人の承諾が極度額の変更の効力要件ということになる。

① 利害関係人に該当する者

(イ)極度額の増額の場合

・同順位、後順位の担保権者

・後順位の所有権の差押債権者、仮差押債権者

・後順位の所有権仮登記名義人

・極度額を増額する根抵当権のために順位譲渡等をしている先順位担保権者

* 後順位の用益権者は利害関係人にはならない。



(ロ)極度額の減額の場合

・極度額を減額する根抵当権を目的とする転抵当権者等民法376条1項の処分を受けた者

・極度額を減額する根抵当権を目的とした差押え、仮差押債権者

・極度額を減額する根抵当権の移転に関する仮登記名義人



(4) 登記申請手続

① 申請人


登 記 権 利 者登 記 義 務 者
極度額の増額の変更・更正根 抵 当 権 者設 定 者
極度額の減額の変更・更正設 定 者根 抵 当 権 者


② 登記の目的

 「何番根抵当権変更」と記載する。常に付記登記でなされるため、(付記)の記載は要しない。② 登記の目的

なお、共同根抵当権の場合には、「何番共同根抵当権変更」、不動産ごとに順位番号が異なる場合には、「共同根抵当権変更(順位番号後記のとおり)」とし、各不動産の表示の末尾に(順位番号○番)と記載する。




 ③ 登記原因、日付

(イ)日付

 利害関係人の承諾は極度額の変更の効力要件なので、原因日付に影響を及ぼす。

 極度額の変更についての利害関係人が存在しないか又は利害関係人がいる場合でも当事者間の変更契約より前にその承諾が得られているときは、極度額の変更契約の日が、当事者間の変更契約より後に利害関係人の承諾が得られたときは、その承諾の日が原因日付となる。

 共同根抵当権の極度額の変更で登記原因の日付が各不動産ごとに異なる場合でも、原因として「後記のとおり」と記載し、各不動産ごとの原因日付を末尾の不動産の表示に記載することによって一括申請することができる。後述の「債権の範囲の変更」「債務者の変更」の場合も同様である。




(ロ)登記原因

 極度額の変更登記の場合は、「年月日変更」、更正登記の場合には、「錯誤」又は「遺漏」とし日付の記載を要しない。

④ 登録免許税

(イ)極度額の増額の場合

 増額分について設定と同視して、増額分の1000分の4を乗じた額である。(登録免許税法別表一、一、(五))

(ロ)極度額の減額の場合

 不動産1個につき1000円である(登録免許税法別表一、一、(十四))

⑤ 登記の実行

 極度額の変更、更正登記は、利害関係人全員の承諾がなければすることができないため、利害関係人が存在する場合には承諾を証する情報の提供を要し、登記の形式は増額も減額も常に「付記登記」によってなされる。なお、根抵当権の極度額の変更登記の場合には新たな登記識別情報の通知はなされない。

極度額の変更登記 申請書 記載例 (金500万円→1000万円)


(*1)常に付記登記でなされるため、(付記)の記載は要しない。
(*2)更正登記の場合は錯誤又は遺漏と記載する。

 (完了後の登記記録)


     極度額の変更登記 申請書 記載例 (金1000万円→500万円)


(*1)元本確定後の設定者による減額請求の場合には、「年月日減額請求」と記載する。日付は減額請求の意思表示が根抵当権者に到達した日である。


債権の範囲の変更、更正

(1) 意義

 根抵当権者と設定者は、元本確定前において、根抵当権の被担保債権の範囲を変更することができる。(民法398条の4 1項) cf 極度額の変更は元本確定前後を問わず可能であった。


(2) 共同根抵当権の債権の範囲の変更の場合

 共同担保の旨の登記のある共同根抵当権については、全部の根抵当権につき債権の範囲の変更登記がなされたときに変更の効力が生ずる。つまり、1つの根抵当権につきその登記が未了であれば、変更登記のされた根抵当権についても変更の効力が生じないことになる。(書式精義中)


(3) 利害関係人の承諾不要

 根抵当権の債権の範囲の変更・更正登記の場合には、後順位抵当権者その他第三者の承諾を得る必要はない。(民法398の4 2項)


(4) 登記申請手続

① 申請人

 原則として根抵当権者が登記権利者、設定者が義務者になる共同申請であるが、債権の範囲の減縮が明らかな③の場合のみ、設定者が登記権利者となる。


② 登記の目的

 「何番根抵当権変更」と記載する。常に付記登記でなされるため、(付記)の記載は要しない。

 なお、共同根抵当権の場合には、「何番共同根抵当権変更」、不動産ごとに順位番号が異なる場合には、「共同根抵当権変更(順位番号後記のとおり)」とし、各不動産の表示の末尾に(順位番号○番)と記載する。

③ 登記原因、日付

(イ)日付

 根抵当権者と設定者の変更の合意(契約)の日である。共同根抵当権の債権の範囲の変更で登記原因の日付が各不動産ごとに異なる場合でも、原因として「後記のとおり」と記載し、各不動産ごとの原因日付を末尾の不動産の表示に記載することによって一括申請することができる。

(ロ)原因

 登記原因は「変更」、更正登記の場合は「錯誤」又は「遺漏」である。

④ 登録免許税

 変更登記として不動産1個につき1000円である(登録免許税法別表一、一、(十四))

⑤ 登記の実行

 利害関係人の承諾は常に不要であるため、常に付記登記で登記される。


(5) 変更の効果

 債権の範囲が変更されると、変更前の債権の範囲に属する債権については一切担保されなくなる。一方、変更後の債権の範囲に属する債権については、変更前に生じた債権も担保されることになる。例えば、AのBに対する売買取引を担保するために設定された根抵当権の債権の範囲を、売買取引から金銭消費貸借取引に変更すれば、A・B間の売買取引によって生じた債権は変更前に生じたものも含めてまったく担保されなくなる。一方、A・B間で生じた金銭消費貸借取引上の債権は、変更後のものはもちろん変更前に生じた債権も担保されることになる。

(6) 変更の登記

 元本が確定する前に適法に債権の範囲の変更契約がされた場合でも、変更登記をする前に元本が確定してしまったら、その変更をしなかったものとみなされる。(民法398条の4 3項)つまり、元本確定前に変更の登記をしなければ、債権の範囲の効力が生じない。変更登記が事実上の効力発生要件となる。


債権の範囲の変更登記 申請書 記載例

(金銭消費貸借取引の他に手形債権・小切手債権を債権の範囲に追加した場合)


  (完了後の登記記録)


債権の範囲の変更登記 申請書 記載例(減縮が明らかな場合)

(売買取引から電気製品売買取引に変更する場合)