• 不動産登記法ー4.抵当権に関する登記
  • 8.抵当権の抹消登記
  • 抵当権の抹消登記
  • Sec.1

1抵当権の抹消登記

堀川 寿和2022/01/13 15:22

抵当権の消滅原因

(1) 被担保債権が消滅した場合

 抵当権は、特定の債権を担保するものであるため、その被担保債権が消滅すれば当然に抵当権も消滅する。被担保債権の弁済、放棄、免除等が典型である。


(2) 被担保債権とは別に抵当権が消滅した場合

 抵当権が放棄された場合のように被担保債権とは別に抵当権が消滅することもある。

 例えば、抵当権設定契約の解除、抵当権の放棄、抵当権の消滅請求(民法379条)、目的不動産の滅失などがある。

 いずれにせよ、抵当権が消滅すればその抹消登記をすることができる。なお、目的不動産の滅失、被担保債権の消滅、混同による消滅の場合を除いて、抹消登記をしなければ抵当権の消滅を第三者に対抗できない。


登記申請手続

(1) 申請人

① 原則

 抵当権設定者が「登記権利者」、抵当権者が「登記義務者」となって、共同申請による。


登研(質疑登研463号)
共有不動産に設定された抵当権の抹消登記の申請は、共有者全員が申請人となることも、そのうちの1人が保存行為として申請することもできる。


先例(S31.12.24民甲2916号)
後順位抵当権者も、先順位抵当権の抹消につき「登記権利者」として申請人になることができる。



抵当権抹消登記 申請書 記載例


共同抵当権の抹消(設定者が異なる場合)





抹消登記をする前に登記権利者又は登記義務者が死亡した場合(合併により消滅した場合も同様)


先例(S37.2.22民甲321号)
債務の弁済により抵当権が消滅した後、抵当権の抹消登記未了の間に抵当権者が死亡した場合は、抵当権の相続人全員が「登記義務者」、所有者が「登記権利者」となって抹消登記の申請をする。

⇒ 抹消登記の申請義務は相続人全員が連帯して承継するためである。


cf 逆に、登記権利者の側が死亡したときは、相続人の1人が保存行為として抹消登記の申請ができることと比較!(書式精義)


先例(S32.12.27民甲2440号)
抵当権者が死亡し、その後に相続人が債務者から弁済を受けて抵当権が消滅した場合には、抵当権の登記の抹消の前提として、相続による抵当権の移転の登記をすることを要する。

 ⇒ 例えば、抵当権者Aが死亡し、a1とa2が相続した後に、債務者Bがa1とa2に対して被担保債権全額を弁済し抵当権が消滅した場合、抵当権抹消登記の前提として、Aからa1とa2への相続による抵当権移転登記をしなければならない。


② 例外(単独申請による場合)

(イ)混同による抵当権の抹消の場合

 抵当権者Aが抵当権設定後に債務者Bから抵当不動産の所有権を取得した場合、混同の例外に当たる場合を除き、Aの抵当権は「混同」によって消滅し、その抹消登記をすることができる。



混同による抵当権抹消登記 申請書 記載例


(*1)物権混同の場合には「混同」、債権混同の場合は「年月日債権混同」とする。

(*2)抵当権が混同によって消滅したことが明らかにされた情報を提供すべきであるが、抵当権が

混同によって消滅していることが登記記録上から明らかであるときは、登記原因証明情報の提供を省略することができる。(質疑登研690号)

(*3)混同を登記原因として単独で抹消登記を申請する場合でも、登記義務者の抵当権の登記識別情報(登記済証)を提供しなければならない。(H2.4.18民三1494号)


先例(S30.2.4民甲226号)
ただし、混同による抵当権の登記の抹消を申請する前に第三者への所有権の移転の登記がされた場合は、現在の所有権の登記名義人を登記権利者、抵当権の登記名義人を登記義務者として共同で登記の抹消を申請することを要する。


混同の例外に該当する場合(物権混同の場合)




(ロ)権利消滅の定めによる場合

 上記のように、権利消滅の定めがなされてその旨の登記がなされている場合で、その後に抵当権者Aが死亡すれば、「抵当権者Aが死亡したことを証する情報」を提供することによって、設定者が単独で抵当権を抹消することができる。


(ハ)除権決定による抹消の場合

 登記義務者たる抵当権登記名義人が行方不明の場合、共同申請によって抵当権の抹消登記の申請ができないため、登記権利者たる抵当権設定者は裁判所の除権決定を得ることによって単独申請により抵当権を抹消することができる。しかし、除権決定を得るためには時間も手間もかかるため、あまり利用されていない。なお、除権決定による抹消は担保権に限られず、用益権等でも可能である。


(ニ)不動産登記法70条3項による抹消の場合

 上記のとおり、判決や除権決定を得て単独で抹消することも可能であるが、何かと手間とヒマがかかるため、不動産登記法70条3項によって先取特権、質権、抵当権(転抵当、根抵当権を含む)の担保権に限り、より簡易な方法で抹消することが認められる。


ⅰ) 抵当権者の所在が知れず申請情報と併せて被担保債権が消滅したことを証する情報を提供する場合(不登法70条3項前段)

 登記義務者たる抵当権者の所在が知れないため、登記権利者と登記義務者との共同申請により抵当権の抹消登記を申請することができない場合、申請情報と併せて被担保債権の消滅を証する情報を提供したときは、登記権利者が単独で抵当権の抹消登記を申請することができる。具体的には、債権証書、被担保債権及び最後の2年分の利息等の弁済を証する情報及び登記義務者の所在が知れないことを証する情報を提供する。


先例(S63.7.1民三3499号)
供託した日より前に債権の一部を弁済したことを証する受取証書と債権の弁済期から20年経過した後に残余の債権を供託したことを証する書面を併せて添付して、登記の抹消申請があった場合でも、法定の要件に適合した書面が添付されていないから、当該申請を却下すべきである。

 ⇒ つまり一部がすでに弁済済みでも登記されている債権全額を供託する必要がある。


先例(S63.7.1民三3499号)
抵当権の登記に利息、損害金の定めが記録されていないときは、年6分(民事債権の年5分ではだめ!)の割合による利息及び損害金を供託することを要する。

⇒ 債権額に相当する金銭を供託しただけでは足りない。なお、「利息 無利息」と登記されていれば利息分の供託は不要である。


ⅱ) 抵当権者の所在が知れず債権の弁済期より20年を経過した後に債権、利息、損害金の全額を供託した場合(不登法70条3項後段)

 登記義務者たる抵当権者の所在が知れないため、登記権利者と登記義務者の共同申請により抵当権の抹消登記を申請することができない場合に、債権の弁済期より20年を経過した後に債権、利息、損害金の全額に相当する金銭を供託したときは、申請情報と併せてその供託を証する情報を提供して、登記権利者が単独で抵当権の抹消登記を申請することができる。具体的には、①供託したことを証する情報(供託書正本)、②被担保債権の弁済期を証する情報及び③登記義務者の所在が知れないことを証する情報である。①②は登記原因証明情報として、③は所在不明証明情報として提供することになる。


先例(S63.7.1民三3499号)
登記義務者の所在が知れないことを証する情報とは、具体的には登記義務者が登記記録上の住所に居住していないことを証する市区町村長の作成した情報又は登記義務者の登記記録上の住所に宛てた被担保債権の受領催告書が不到達であったことを証する情報等がこれに該当する。


先例(S63.3.28民三3456号)
不動産登記法70条3項後段の規定は、登記義務者が自然人である場合はもちろん、法人である場合にも適用される。

⇒ 法人の行方不明とは当該法人について登記簿に記録がなく、かつ閉鎖登記簿が廃棄済であるため、その存在を確認することができない場合等をいう。


(2) 登記原因

 「弁済」「免除」「放棄」「主債務消滅」等それぞれの抹消原因を記載し原因日付は債権や抵当権の消滅した日である。


① 「主債務消滅」を原因とする抵当権の抹消


 CのBに対する保証委託契約による求償債権を担保するため、抵当権を設定した後に、弁済期にBがAに対して全額弁済した場合、もはや保証人Cが債務者Bに代わってAに立替払いすることはなくなるため、「主債務消滅」を原因として、抵当権を抹消することができる。


② 買戻権行使の効果として抵当権が消滅する場合

 買戻権が行使されると、売買は遡及的に効力を失い、当該不動産は初めから買主に移転しなかったことになる。したがって、買戻特約の登記がされた後、買主が第三者のために抵当権等の権利を設定していた場合には、買戻権の行使によりそれらの権利も効力を失う。なお、買戻権の行使により抵当権が消滅したときは、当事者が共同してその登記の抹消を申請する。登記官が職権で抹消するのではない。


(*1)買戻権行使の意思表示の到達の日を原因日付とする。

(*2)抵当権登記名義人が登記義務者であり所有権登記名義人が義務者になる場合でないため、印鑑証明書の提供は不要である。


③ 代物弁済の効果として抵当権が消滅する場合

 例えばA・B間の1000万円の貸金債権を担保するために債務者B所有の土地に抵当権を設定したが、Bが弁済期に1000万円を弁済できず抵当不動産で代物弁済する場合、代物弁済契約成立日をもって所有権移転登記をするが、抵当権抹消登記の原因日付は所有権移転登記の申請日である。代物弁済は要物契約であるため債務消滅の効果は物の給付の時に生じることになり、登記等の対抗要件を要する場合には対抗要件を備えた日である。すなわち不動産登記では登記申請日になる。



代物弁済による抵当権抹消登記 申請書 記載例


(*1)抵当権抹消登記の原因日付は代物弁済を原因とする所有権移転登記の申請日である。代物弁

済は要物契約であるため債務消滅の効果は物の給付の時に生じることになり、登記等の対抗

要件を要する場合には対抗要件を備えた日である。すなわち不動産登記では登記申請日にな

る。

(*2)混同による抵当権の抹消の場合と異なり、

「登記原因証明情報(登記事項証明書)省略」とすることはできない。


④ 免責的債務引受(又は債務者の交替による更改)によって物上保証人所有の不動産上の抵当権が消滅する場合

 例えば、AのBに対する債権を担保するために物上保証人C所有の不動産に抵当権が設定されている場合に、債務者をBからDに免責的に変更する場合(債務者をBからDに更改する場合も同じ)、物上保証人Cの承諾がなければ抵当権は消滅することになる。この場合「抵当権消滅」を登記原因として抵当権を抹消する。





(*1)債務引受(更改)契約成立日を原因日付とする。


⑤ 第三者が抵当不動産を時効取得したことによって抵当権が消滅する場合



 例えば、Aのために抵当権が設定されたB所有の土地をCが時効取得した場合、時効取得を原因とするBからCへの所有権移転登記をした後に、時効取得者Cと抵当権者Aの共同申請により「所有権の時効取得」を登記原因として抵当権の抹消登記をすることになる。時効取得は原始取得であるためCは抵当権の負担のない土地の所有権を取得することになるから。



  抵当権移転登記がなされた後の抵当権の抹消

 Bに対して債務全額の弁済がなされた場合の抵当権の抹消登記は、「1番抵当権抹消」とすれば足り、1番付記1号の移転登記を併せて提供する必要はない。登記権利者は所有者、登記義務者はBである。また弁済を受けるBのみが登記義務者であるため、抵当権移転の登記識別情報(又は登記済証)を提供すれば足り、Aの抵当権設定の際のものは不要である。(登研154号)なお、抹消登記の実行に際し、登記官が付記1号の移転登記もあわせて抹消するため、移転登記の抹消登記の申請は必要ない。


(3) 添付情報

① 登記原因証明情報

② 登記識別情報(登記済証)

③ 代理権限証明情報

④ 承諾証明情報

 抵当権の登記の抹消を申請する場合に、登記上の利害関係を有する第三者が存在するときは、申請情報と併せて、その者が作成した承諾を証する情報又はその者に対抗することができる裁判があったことを証する情報を提供することを要する。(不登令別表26添付情報蘭ヘ)


先例(S37.8.1民甲2206号)
後順位抵当権のために順位譲渡の登記がなされている先順位抵当権を抹消する場合、後順位抵当権者は抹消についての利害関係人となる。

⇒ 順位1番でAの抵当権、順位2番でBの抵当権の設定の登記がされており、Aの1番抵当権の順位をBの2番抵当権のために順位を譲渡する登記がされている場合において、Aの1番抵当権の登記の抹消を申請するときは、2番抵当権者Bは登記上の利害関係を有する第三者に該当する。この場合は、Aの1番抵当権が抹消されれば、Bが実質的に順位1番の抵当権者となるため、一見するとBは登記上の利害関係を有する第三者に該当しないようにも思える。しかし、後述の登記研究405号記載のとおり、租税債権との絡みで,Bは不利益受ける可能性があるため、登記上の利害関係人とするのが実務の扱いである。


cf

登研(質疑登研301号)

1番抵当権と2番抵当権の順位を変更した後に1番抵当権を抹消するときは、2番抵当権者は利害関係人には該当しない。


登研(質疑登研405号)
国税債権は納税者の総財産について、原則としてすべての公課その他の債権に先立って徴収するが、納税者が国税の法定納付期限以前にその財産上に抵当権を設定しているときは、その国税はその換価代金につきその抵当権によって担保される債権に次いで徴収すると定められている(国徴16)。つまり、国税債権は登記なくして法定納付期限後に登記を受けた抵当権者に対抗することができる。そこで、Aの1番抵当権の設定登記は法定納付期限より前にされているが、Bの2番抵当権の設定登記は法定納付期限より後になされている場合であっても、1番抵当権から2番抵当権への順位の譲渡がされているときは、BはAの1番抵当権の債権額を限度として国税債権に優先する。これに対して、Aの1番抵当権が抹消されると順位譲渡の効力も消滅し、Bは完全に国税債権に劣後することになる。よってBの承諾を証する情報の提供を要する。なおBの承諾を証する情報が提供され、Aの1番抵当権の抹消の登記をするときは、順位の譲渡の登記は登記官の職権によって抹消される。


(4) 登録免許税

 不動産1個につき1000円である。ただし、20個以上の不動産につき同一申請情報で申請する場合は2万円で足りる。(登録免許税法別表一、一、(十五))



(*1)不動産1個につき1000円であるため、同一不動産上の2つ以上の抵当権を一括申請で抹消しても、1000円である。