• 不動産登記法ー2.所有権に関する登記
  • 2.所有権保存登記
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1所有権保存登記

堀川 寿和2022/01/11 11:00

所有権保存登記の意義

 所有権保存とは、その不動産について最初になされる権利に関する登記である。その後に所有権が移転したり、抵当権が設定された場合には、その旨の登記をすることができるが、そのためにはまずその不動産について、所有権保存登記がなされていなければならない。つまり所有権保存登記は、権利に関する登記の起点となる登記である。所有権保存登記がなされたときには、表題部に記録された所有者の氏名、住所は抹消される。(不登規158条)

所有権保存登記の申請適格者(所有権保存登記の申請ができる者)

 所有権保存登記を申請できる者(申請適格者)は、不動産登記法74条で定められている。逆にいうと法74条の申請適格者以外の者は、所有権保存登記を申請することはできないことになる。

不動産登記法74条申 請 適 格 者
(1)1項1号前段表題部所有者
(2)1項1号後段表題部所有者の相続人その他の一般承継人
(3)1項2号所有権を有することが確定判決によって確認された者
(4)1項3号収用によって所有権を取得した者
(5)2項区分建物を表題部所有者から直接取得した者


(1) 表題部所有者名義でする所有権保存登記

 表題部に所有者として記録されている者は、自己名義で所有権の保存の登記を申請することができる。

 なお、表題部所有者から不動産を買い受けた者は、(原則として)自己名義で直接所有権の保存の登記を申請することはできない。一旦表題部所有者名義で所有権保存登記をし、その後に売買を原因とする所有権移転登記をすべきである。


 表題部所有者からの所有権保存登記 申請書 記載例(一部記載省略)

(*1)通常、登記は登記権利者と登記義務者による共同申請によってするのが原則であるが、所有権保存登記には、登記義務者が存在せず、登記名義人による単独申請による。

(*2)具体的には、申請人が自然人の場合にその者の「住民票の写し」を提供する。法人が申請人の場合には、会社法人等番号を申請書に記載すれば、別途提供を要しない。

「申請人 株式会社甲野商事 (会社法人等番号 ○○○○―○○―○○○○○○)

代表取締役 甲野 太郎                        」

(*3)具体的には、申請人甲野太郎から司法書士への委任状を添付する。

(*4)所有権の保存の登記は、法74条の各項各号によってそれぞれ添付情報が異なってくるた

め申請情報の内容としてどの申請適格に基づいて申請するのかを記載する必要がある。

(*5)税率は、課税価格の1000分の4である。

(*6)通常登記の目的の後に「登記原因」を記載するが、所有権保存はその不動産について最初にする権利の登記であり、登記原因は存在しないため記載しない。


 所有権保存登記完了後の建物の表題部の登記例(一部省略)




先例(M32.8.8民刑1311号)
表題部に数名が所有者として記録されている場合、共有者の1人が自己の持分についてのみの所有権の保存の登記を申請することはできない。



先例(M33.12.18民刑1661号)
共有者の1人は、共有物の保存行為(民法252条ただし書)として、共有者全員のために所有権の保存の登記を申請することができる。


(2) 表題部に所有者として記録された者の相続人その他の一般承継人名義でする所有権保存登記

① 表題部所有者の相続人名義での所有権保存登記

 表題部に所有者として記載された者が所有権保存登記をすることなく、死亡した場合には、一旦死亡した表題部所有者名義で所有権保存登記をして、その後に相続人に相続を原因とする所有権移転登記をすべきところであるが、それでは非常に手間がかかるので、不登法74条1項1号後段の規定によって、いきなり表題部所有者の相続人名義で所有権保存登記をすることができる。


表題部所有者の相続人名義での所有権保存登記 申請書 記載例(一部記載省略)

(*1)所有権登記名義人となる相続人乙及び丙の住民票の写しを添付する。

(*2)具体的には、死亡した甲及び相続人乙・丙の戸籍を添付する。

(*3)乙及び丙から司法書士への委任状を添付する。


相続人による被相続人名義での所有権保存登記 申請書 記載例(一部記載省略)

(*1)具体的には、死亡した甲及び相続人乙・丙の戸籍を添付する。

(*2)所有権登記名義人となる死亡した甲の住民票の除票の写しもしくは戸籍の附票を添付する。

(*3)乙及び丙から司法書士に対する委任状を添付する。


  数次相続人からの所有権保存登記 申請書 記載例

表題部の登記名義人の甲が所有権保存登記をすることなく死亡し、その相続人である乙も死亡したため、乙の相続人である丙が数次相続人として所有権保存登記を申請する場合


先例(S36.9.18民甲2323号回答)

表題部所有者であるA・Bが共に死亡し、a1がAを相続し、b2がBを相続したときは、①A・B名義、②A・b1(もしくはa1・B)名義、③a1・b1名義のいずれの名義でも所有権の保存登記を申請することができる。




先例(登記研究223p67)

表題部所有者から包括遺贈を受けた者は、自己の名義で所有権の保存の登記を申請することはできない。



先例(登記研究399p82)
表題部所有者が死亡したが、その相続人が不存在であるときは、相続財産管理人は、その者の相続財産法人名義とする所有権の保存の登記を申請することができる。


② 表題部所有者の一般承継人名義での所有権保存登記

 例えば、表題部所有者が法人で、合併によって消滅したような場合には、その一般承継人である承継法人名義で所有権保存登記を申請することができる。(不登法74条1項1号後段)




 合併会社による所有権保存登記 申請書 記載例

(*1)合併を証する情報として、株式会社甲が株式会社乙に合併したことを証する株式会社乙の登記事項証明書を提供すべきであるが、株式会社乙の会社法人等番号を記載すれば省略することができる。住所証明情報(本店を証する書面)としても株式会社乙の登記事項証明書を提供すべきところであるが、同じく会社法人等番号を記載していれば省略することができる。


(3) 所有権を有することが確定判決によって確認された者の名義でする所有権の保存の登記

 所有権の登記のない不動産について、所有権を有することが確定判決によって確認された者は、自己の名義で所有権の保存の登記を申請することができる。(不登法74条1項2号)




判決による所有権保存登記 申請書 記載例

(*1)具体的には、「判決正本」と「確定証明書」を添付する。なお、判決正本に代えて判決謄本でもよい。


① 判決の意義

(イ)判決の種類

 判決は確定していることを要する。なお、ここでいう判決は、判決によって所有権が認められていればよく、給付判決のみならず、確認判決、形成判決でも差し支えない。(大T15.6.2)ただし、判決の中で所有者であることが認められているものでなければならず、単に明渡しを命ずる判決では足りない。

(ロ)判決に準ずる場合

 所有権を証するものであれば、確定判決と同一の効力を有する裁判上の和解調書、調停調書、認諾調書などでも差し支えない。

② 表題登記がなされていない場合

 判決による所有権保存登記は、表題登記のない不動産についても申請することができる。この場合は登記官が職権で表題登記をすることになる。


先例(H10.3.20民三552号通達)
表題登記のある不動産については、その判決は表題部所有者全員を被告としたものであることを要する。

→ よって、表題部所有者が死亡している場合は、表題部所有者の相続人全員を被告として訴えた判決でなければならない。


(4) 収用によって所有権を取得した者の名義でする所有権保存登記

 収用によって所有権を取得した者の名義でする所有権の保存の登記について、収用によって所有権を取得した者は、自己名義で所有権保存の登記を申請することができる。(不登法74条1項3号)収用とは、特定の公共の利益となる事業の用に供するため、法律の定める手続きに基づき土地等の所有権を取得することをいう。


(*1)収用によって所有権を取得したことを証する情報を提供する。収用の裁決が効力を失っていないことを証する情報を含むものに限られる。具体的には、収用委員会の裁決書の謄本・補償金受領証(又は補償金の供託書)を提供することになる。


 判決による所有権保存登記の場合と同様、表題登記のない不動産についても申請することができる。登記官が職権で表題登記をすることになる。


区分建物以外の所有権保存登記の申請パターン(不動産登記法74条1項)

(*1)「一般承継証明情報」と記載してもよい。

(*2)具体的には、「判決謄本・確定証明書」を提供する。

(*3)収用による取得及び収用の採決が効力を失っていないことを証する情報を提供する。具体的には、収用委員会の(収用)裁決書謄本及び補償金の受領書(又は補償金供託書)などを提供する。


(5) 区分建物の表題部所有者から所有権を取得した者による所有権保存登記

 区分建物の表題部所有者(原始取得者)から直接所有権を取得した者は、所有権保存登記を申請することができる。(不登法74条2項)例えば、マンション分譲業者からマンションの一室を買い受けた場合、本来ならば表題部所有者である分譲業者名義で一旦所有権保存登記をして、その後に買受人に売買を原因とする所有権移転登記をすべきであるが、便宜上直接の買受人名義で所有権保存登記をすることができるのである。



① 直接取得者の意義

 ここでいう、表題部所有者からの直接取得者とは、表題部所有者から直接所有権を取得した者に限られ、その後の転得者は含まれない。よって、上記の事例で、Aから転売を受けたBがいてもいきなりB名義での所有権保存登記をすることはできず、一旦A名義で所有権保存登記をした上で、AからBへ売買を原因とする所有権移転登記をすべきである。また、Aが所有権保存登記をすることなく死亡した場合でも、その相続人であるa1名義で所有権保存登記をすることもできない。

cf 通常の所有権保存登記の場合は、74条1項1号後段でいきなり表題部所有者の相続人名義で所有権保存登記が可能である。



② 区分建物

(イ)意義

 区分建物とは、一棟の建物に構造上利用上区分された数個の部分で独立して住居、店舗、事務所又は倉庫、その他の建物としての用途に供することができる状態にある建物をいう。(区分所有法1条)この場合、その各部分を独立の所有権の対象にすることができる。マンションが典型である。

(ロ)区分建物の登記記録

 区分建物は、法律上1つの建物であるため、区分建物ごとに登記記録が編成される。例えば、マンションの101号室につき1つの登記記録が、201号室につき1つの登記記録が作られることになる。しかし、区分建物は、通常の建物と異なり、外から見ると1つの建物の中に、各専有部分が存在するため、各専有部分の登記記録の表題部には、専有部分についての事項だけではなく、1棟の建物全体についての表示に関する事項も記載される。




(ハ)専有部分と共用部分

(a) 専有部分

 区分所有権の目的たる建物の部分を専有部分という。

(b) 共用部分

i) 共用部分の意義

 専有部分以外の建物の部分、例えば廊下、階段、エレベータ等を共用部分という。

ii) 共用部分の持分割合

 共用部分は、区分所有者全員の共有に属する。共有部分に関する各共有者の持分は、規約に別段の定めがある場合を除き、その有する専有部分の床面積の割合による。

iii) 共有部分の処分

 原則として専有部分と分離して共用部分の自己の持分のみを処分することはできない。つまり、専有部分を処分すれば、共用部分の持分もあわせて処分したことになる。そして専有部分の登記記録に権利変動の登記がなされれば、共用部分の持分についても対抗力が備わることになる。

(ニ)敷地利用権と敷地権

(a) 敷地利用権

 区分建物の専有部分を所有するための建物の敷地に関する権利を敷地利用権という。敷地利用権となり得る権利として、「所有権」「地上権」「賃借権」「使用借権」がある。

(b) 敷地権

 上記の敷地利用権について、土地の登記記録に登記されていて、専有部分と分離して処分することができないものを敷地権という。敷地権となり得るのは、上記敷地利用権のうち登記できるものであるため、「所有権」「地上権」「永小作権」がこれに当たり、登記できない使用借権は敷地権とはなり得ない。

(ホ)敷地権の表示の登記

 区分建物に敷地権があるときは、区分建物の登記記録中の表題部に敷地権の表示を登記することを要する。(不登法44条1項9号)具体的には、「敷地権が発生した日付」、「敷地権の目的である土地の所在事項」、「敷地権の種類」、「敷地権の割合」などが登記される。(不登規118条)

(ヘ)敷地権である旨の登記

 区分建物の登記記録の表題部に敷地権の表示が登記されたときは、登記官は職権で、敷地権の目的である土地の登記記録に、その土地の権利が敷地権の目的となった旨を登記する。(不登法46条)


所有権が敷地権となった場合の土地の登記記録例(敷地権である旨の登記)


地上権が敷地権となった場合の土地の登記記録例(敷地権である旨の登記)


(ト)分離処分禁止の原則

 区分建物に敷地権があるときは、所有者は、その有する専有部分と敷地利用権を一体として処分しなければならない。(区分所有法22条1項)そのため、専有部分と敷地利用権が一体として処分された場合には、専有部分と敷地利用権について一体として登記がされる。つまり、区分建物の登記記録の表題部に敷地権の表示が登記された後は、専有部分と敷地利用権について一体としてされた権利変動は、区分建物の登記記録にのみに登記がされる。土地の登記記録には何も登記されない。そして、区分建物の登記記録に権利変動の登記がされたときは、その登記は、一部の例外の場合を除き、敷地権についても同様の登記がされた旨の効力を有する。(不登法731条)


③ 敷地権付区分建物の所有権保存登記(不登法74条2項)

 敷地権付きの区分建物について、転得者の名義で所有権の保存の登記をした場合、区分建物についての所有権の保存の登記と、敷地権についての移転の登記としての効力を有する。(不登法731条)

 土地については移転登記の効力を生じるため、通常の74条1項の所有権保存登記と違って登記原因を記載する。また登記原因が存在するため、添付情報として登記原因証明情報の提供も必要となる。


(*1)敷地権付きの区分建物についての不動産登記法74条2項の所有権保存登記は、敷地権の移転登記としての効力を有するが、この保存登記により不利益を受ける敷地権登記名義人を申請人として登記申請に関与させることは所有権保存登記が表題部所有者から所有権を取得した者の単独申請であることから不可能である。そこで登記の真正を担保するため、共同申請に類する形で敷地権登記名義人の承諾を証する情報を提供させることにした。

(*2)区分建物202号室の課税価格 金1000万円、

敷地権(所有権)全体の課税価格 金2000万円、

このうち202号室の有する敷地権の割合100分の25とする。


④ 敷地権のない区分建物についての所有権保存登記

 敷地権のない区分建物について、転得者の名義で所有権の保存の登記をする場合、その登記は区分建物の所有権の保存の登記としての効力のみを有する。敷地利用権と一体化していないため、建物の敷地の移転の登記の効力を有しない。よって、登記手続きについては、法74条1項の所有権保存登記と基本的に同じである。


(*1)建物が敷地権のない区分建物である場合、申請人が表題部所有者から当該区分建物の所有権を取得したことを証する表題部所有者作成の所有権取得証明情報を添付することを要する。表題部所有者は本来、所有権保存登記を受ける権利を有するが、転得者名義での所有権保存登記をすることにより原始取得者の利益を奪うことになる。そこでこのような利益を奪われる原始取得者に転得者が所有権を取得したことを証する情報(書面)を提供させることによって、転得者に所有権保存登記の申請適格を認め、登記の真正を担保するのである。

なお、建物が敷地権付きの区分建物であるときは、所有権取得証明情報の提供は不要である。登記原因証明情報を提供するため原始取得者の意思は当該情報により明らかだからである。

(*2)建物についての所有権保存登記のみであるため、敷地権についての登録免許税は不要である。




登記官の職権による所有権保存登記

(1) 意義

 所有権の登記のない不動産について、所有権に関する処分の制限(差押え・仮差押・処分禁止の仮処分)の登記が嘱託されたときは、登記官が職権で所有権の保存の登記をする。(不登法76条2項)

 差押え等の登記がなされる前提として、少なくとも所有権保存登記までなされていなければならない。しかし、不動産を差し押さえられた人が自らすすんで申請することは期待でないため、登記官が職権でするものとされた。


(2) 所有者への通知

 登記官が職権により所有権の保存の登記をしたときは、所有権の保存の登記がされた旨等を所有者に通知する。(不登規184条1項 )この所有権の保存の登記は当事者が申請したものではないため、所有者に登記識別情報は通知されない。


(3) 職権でなされた所有権保存登記の効力

 登記官の職権によりされた所有権の保存の登記も、通常の所有権の保存の登記と同一の効力を有する。


先例(S38.4.10— 966)
登記官の職権により所有権の保存の登記がされた後、その処分制限の登記(差押えの登記等等)が錯誤等により抹消された場合でも、登記官が職権で所有権の保存の登記を抹消することはできない。