- 不動産登記法ー2.所有権に関する登記
- 3.(相続以外の原因による)所有権移転登記
- (相続以外の原因による)所有権移転登記
- Sec.1
1(相続以外の原因による)所有権移転登記
■売買、贈与等による所有権移転登記
平成○○年7月1日にAからBに土地を贈与し、所有者をAからBに変更する場合の登記の申込書(登記申請情報という)の記載例である。(司法書士甲による代理申請)
(*1)具体的には、A・B間の贈与契約書もしくは贈与契約の内容を記載した報告的書面を提供する。
(*2)登記義務者Aが所有権取得の際に登記所から通知を受けた登記識別情報(登記済証)を提供する。
(*3)登記義務者Aの市区町村長作成の実印の印鑑証明書を提供する。
(*4)具体的には、登記権利者Bの住民票の写しを提供する。
(*5)具体的には、登記義務者A及び登記権利者Bの司法書士甲に対する委任状を提供する。
・登記権利者が複数の場合
平成○○年7月1日にAからB・C(持分各2分の1ずつ)に土地の売買をし、所有者をAからB・Cに変更する場合の登記の申込書(登記申請情報という)の記載例である。
・法人が申請人の場合
平成○○年7月1日に株式会社A(代表取締役甲)から株式会社B(代表取締役乙)に土地を売買し、所有者を株式会社Aから株式会社Bに変更する場合の登記の申込書(登記申請情報という)の記載例である。
(*1)法人が登記申請人の場合、その法人の代表者から司法書士に登記申請を依頼することなるため、申請人欄には代表者の資格と氏名を記載することになる。
(*2)法人が登記義務者の場合、代表者の印鑑証明書を提供することになるが、この場合は市区町村長作成のものではなく、当該法人の代表者が主たる事務所(本店)所在地の登記所に届け出ている代表者としての印鑑についての、登記所作成の印鑑証明書を提供することになる。
(*3)法人が所有権の登記権利者となる場合、その法人の主たる事務所(本店)を証する法人の登記事項証明書を添付するが、申請人欄(権利者・義務者)に会社法人等番号を提供すれば省略することができる。
(*4)代表者の資格を証するために添付書面として資格証明情報(具体的には作成後1か月以内の申請会社の登記事項証明書)を提供する必要があるが、申請人欄に会社法人等番号を記載しておけば、登記官が法務局内部で確認するため、省略できる扱いとなっている。
・第三者の許可、同意、承諾を証する情報の提供が必要となる場合
(農地の登記記録)
平成○○年7月1日にAがBに上記の登記記録記載の農地(畑や田)を売却し、その後同年8月15日に都道府県知事の許可書が到達し、その登記申請を司法書士甲に依頼した場合の所有権移転登記申請書記載例
(*1)通常の宅地等の売買の場合は、売買契約締結の日が登記原因の日付となるが、農地の取引の
場合には例外的に、農地の売買契約締結日と都道府県知事の許可書の到達日のいずれか遅い
日が原因日付となる。
(*2)農地法の許可書を添付する。
平成○○年7月1日に株式会社Aから同社の代表取締役Aに土地を贈与し、所有者を株式会社Aから代表取締役A個人名義に変更する場合の登記の申込書の記載例である。
(*1)会社の承認は原因日付に影響を及ぼさず、仮に贈与契約後に株式会社Aの取締役会(株主総
会)の承認が得られた場合であっても、原因日付は当初の贈与契約の締結日となる。農地の売買における農地法の許可の場合と比較。
(*2)会社とその(代表)取締役との間で売買等の取引をする場合には、(代表)取締役が自己の
利益を図るために、会社財産を食い物にするおそれがある。よってそのような利益相反取引に際して会社の(株主総会又は取締役会)の承認を得る必要がある。そして当該登記の申請書の添付情報として、その承認を得たことを証するために、取締役会を設置する株式会社については「取締役会議事録」を、取締役会を設置しない会社においては株主総会議事録が添付書情報となる。
平成○○年7月1日に未成年者A所有不動産をAがBに売買する契約が締結された場合の登記の申込書の記載例である。なおA・Bの売買契約の締結について未成年者Aの親権者の同意は得られているものとする。
(*1)親権者の同意は原因日付に影響を及ぼさず、仮にA・B間の売買契約後にAの親権者の同意
が得られた場合であっても、原因日付は当初の売買契約の日となる。
先の会社と(代表)取締役の利益相反取引の場合と同様である。いずれも、農地の売買にお
ける農地法の許可の場合と比較。
(*2)法定代理人の同意があったことを証するため、具体的には「親権者の同意書」と親権者であることを証する「戸籍謄本」を提供することになる。
所有権の一部(2分の1)をBに売却した場合
Aが持分2分の1全部をCに売却した場合
Bが持分2分の1のうち一部(4分の1)をCに売却した場合
Bが持分2分の1のうち半分をCに売却した場合
(完了後の登記記録)
さらに、同一人が数回にわたって持分を取得している場合に、その持分の一部の移転登記を申請する
ときは、移転する持分を指定することができる。
上記の登記記録の記載によると、Bは現在甲土地全体の3分の2の持分を有するが、このうちの3分
の1の持分をCに移転させる場合には、登記の目的として「B持分一部(順位3番で登記した持分)移転」
又は「B持分一部(順位4番で登記した持分)移転」と記載できる。
共有者全員(A・B)が第三者Cに売却した場合
この場合、A・C間で「A持分全部移転」登記を、B・C間で「B持分全部移転」登記をするのが原則であるが、A・B・C3人の申請によって「共有者全員持分全部移転」登記を一括申請することもできる。
先例 | (S35.5.18民甲1186号) |
数人共有の不動産の所有権を、第三者へ移転した場合の移転登記は、その登記原因が同一である限り一括申請ができる。 |
(完了後の登記記録)
(例外)
共有者のいずれかの持分に第三者の権利の登記や処分制限の登記があるとき
先例 | (S37.1.23民甲112号) |
共有者の持分につき抵当権などの第三者の権利の登記や処分制限の登記があるときは、別件で申請し各別に登記しなければならない。 |
この場合、A・BがCに各持分2分の1を譲渡したとしても一括申請で「共有者全員持分全部移転」登記をすることができない。債権者甲の差押えがなされたB持分と差押えのされていないA持分が甲区4番の1つの枠でCに移転されてしまうことになり以後登記簿上Cの所有権のうち甲の差押えがなされている部分とそうでない部分を区別できなくなるためである。なおB持分(もしくはA持分)のみに抵当権等の担保権が設定されている場合も同様である。
一括申請による「共有者全員持分全部移転」登記ができない以上は、それぞれ次のように「A持分全部移転」「B持分全部移転」登記を各別に申請すべきである。(順不同)
(順不同)
(順不同)
(完了後の登記記録)
共有者が各持分の一部を第三者に売却した場合
A及びBが各持分2分の1のうち、半分の4分の1ずつCに売却
本来であれば、「A持分一部移転」と「B持分一部移転」の各登記を別件で申請すべきところであるが、登記原因が同一であれば、次のとおり一括申請によって1件で申請することができる。以後、A持分4分の1、B持分4分の1、C持分4分の2の共有となる。
一人を除く共有者が第三者に持分全部を売却した場合
この場合も、本来であれば「A持分全部移転」と「B持分全部移転」の各登記を別件で申請すべきところであるが、登記原因が同一であれば、次のとおり一括申請によって1件で申請することができる。
(*1)課税価格に端数が出る場合、下3ケタを切り捨てる。
1000万×3分の2=666万6666円
↓
6000円
(*2)登録免許税額に端数が出る場合には、下2ケタを切り捨てる。
666万6000円×1000分の20=13万3333円
↓
3300円
(1) 登記申請手続
売買や贈与を原因とする相続以外の所有権の移転の登記は、判決等による場合を除き、登記権利者と登記義務者が共同して申請することを要する。(共同申請の原則、不登法60条)
(2) 登記の目的
「所有権移転」「所有権一部移転」「○○持分全部移転」「○○持分一部移転」「共有者持分全部移転」
「○○を除く共有者全員持分全部移転」等、それぞれの類型によって記載する。
(3) 登記原因及び日付
① 登記原因
「売買」「贈与」
② 日付
売買、贈与により所有権が移転した日を記載する。
(イ)原則
通常は、契約が成立した日となる。
(ロ)所有権移転時期の特約がある場合
特約によって所有権が移転した日である。通常、売買の場合には、代金全額を支払った日に所有権が移転するとするものが多い。
(ハ)第三者の許可、同意、承諾等により所有権が移転する場合
第三者の許可等が到達した日である。許可後に売買や贈与等の契約をした場合には、契約の日が原因日付となる。
(4) 移転する持分(一部移転や数人が権利者となる場合)
所有権又は共有持分の一部を移転する場合や数人が権利者となる場合には、権利者の氏名と併せて取得する持分も記載する。
(5) 権利の消滅に関する定めがある場合
権利の消滅に関する定めとして、所有権移転失効の定めがあるときには、その定めが申請情報の内容となる。(ex 買主が死亡したときは、所有権移転が失効する。)
「権利消滅の定め」がある所有権移転登記 申請書 記載例
(6) 添付情報(添付書類)
① 登記原因証明情報
売買や贈与によって所有権が移転した旨が明らかにされた情報を提供する。
② 登記識別情報(又は登記済証)
登記義務者が所有権を取得した際に法務局から通知を受けた登記識別情報(又は登記済証)を提供する。
③ 印鑑証明書
書面申請の場合で、所有権登記名義人が登記義務者となる場合に、その登記義務者の印鑑証明書を提供することを要する。申請書又は委任状に押印された印影と照合することによって、登記義務者本人が登記申請に関与しているかどうか確認するものである。所有権は、その他の権利よりもより重要度が高いため、登記義務者に登記識別情報と印鑑証明書を二重に提供させることによって、登記申請の真正担保を図っているのである。
④ 住所証明情報
架空人名義で所有権の登記がなされることを防止するため、登記権利者の実在性を証明させるために提供する。自然人については住民票の写しを、法人については登記事項証明書を提供させるが、会社法人等番号を記載すれば、登記事項証明書の提供は省略できる扱いとなっている。
⑤ 第三者の許可、同意、承諾を証する情報
登記原因について、第三者の許可、同意又は承諾を要するときは、当該第三者が許可し、同意し、又は承諾したことを証する情報を提供することを要する。前述のとおり、第三者の許可、同意又は承諾が原因日付に影響する場合と、しない場合がある。
⑥ 代理権限証明情報
申請人が司法書士に対して、登記の手続きについて代理することを依頼したときは、申請人から司法書士への委任状を代理権限証明情報として提供する。また、未成年者の法定代理人が未成年者に代わって登記の申請をする場合には、法定代理権を証するため、親権者と未成年の親子関係が記載された戸籍謄本等を提供する。
(7) 登録免許税
売買や贈与を原因とする所有権移転登記の登録免許税は、不動産価格(課税価格)の1000分の20である。(登録免許税法別表)
■交換による所有権移転登記
A所有の甲土地とB所有の乙土地を、A・Bで交換した場合、甲土地についてはAからBに、乙土地については、BからAにそれぞれ「交換」を原因として所有権移転登記を申請することになる。
基本的な登記手続きは、売買による所有権移転登記と同じである。農地の交換の場合は、第三者の許可等を証する情報として「農地法の許可書」の提供を要する点も同様である。
甲土地
(*1)交換の合意の日(交換契約の日)を記載する。
乙土地
(*1)交換の合意の日(交換契約の日)を記載する。
■財産分与による所有権移転登記
離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる(民法768条1項)ため、財産分与によって不動産を取得したときは、財産分与を原因とする所有権移転登記をすることになる。
(*1)離婚の成立後に財産分与の協議が成立した場合⇒協議が成立した日
離婚前に協議が成立した場合⇒離婚届の日
調停又は審判による離婚の場合⇒調停成立日又は審判の確定した日
がそれぞれ原因日付となる。
(*2)協議による離婚の場合には、離婚の協議書等が登記原因証明情報となる。
審判による離婚の場合には、審判書正本と確定証明書が登記原因証明情報となり、判決による登記として登記権利者の単独申請によって登記することができる。よってこの場合、登記義務者の登記識別情報(登記済証)や印鑑証明書の提供は不要である。(詳しくは、判決による登記の箇所にて!)