• 民法親族・相続ー10.相続の承認および放棄
  • 3.限定承認
  • 限定承認
  • Sec.1

1限定承認

堀川 寿和2022/01/06 14:00

限定承認の意義

 限定承認とは、相続によって得た財産の限度においてのみ、被相続人の債務や遺贈を弁済するということを留保して、相続の承認をすることである(民法922条)。相続財産に負債が多ければ相続人は相続放棄によって債務を免れればよいが、プラスとマイナスいずれが多いか不明な場合に限定承認が利用されることがある。

 例えば、Aが死亡しAの相続財産中プラスの財産の合計額が1000万円の場合、相続開始後にAの負債がそれ以上であることが判明しても、限定承認しておけば、相続人はプラスの財産である1000万円を限度に責任を負えば足りることになる。


限定承認の手続き

(1) 共同相続の場合

 相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができる(民法923条)。したがって、相続人のうち1人でも単純承認がされた場合には、もはや限定承認することができないことになる。一方、共同相続人の一部の者が相続放棄をした場合には、その者は初めから相続人でなかったことになるため、他の共同相続人の全員一致で限定承認ができる。


(2) 限定承認の方式

 相続人は、限定承認をしようとするときは、3か月の熟慮期間内に、相続財産の目録を作成して家庭裁判所に提出し、限定承認をする旨を申述しなければならない(民法924条)。限定承認の場合も、熟慮期間内であっても、既にした限定承認を撤回することはできない(民法919条1項)。


限定承認の効果

(1) 効果

 限定承認がされた場合、相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務や遺贈を弁済する責任を負う(民法922条)。相続人が限定承認したとしても、相続によって承継した債務の全部または一部を免れるものではなく、その責任の範囲が相続財産の存する限度に制限されるにすぎない(大判大13.5.19)。よって、限定承認をしても債務自体は消滅しない以上、相統人がすすんで自己の固有財産で弁済したときは民法705条の非債弁済とはならず、有効な弁済となり、不当利得返還請求はできないことになる。


(2) 相続人の固有財産との分離

 限定承認がなされると相続財産と相続人の固有財産とは分離され、相続財産のみを独立して清算することになるので、相続人が被相続人に対して有していた債権・債務は混同によって消滅しない(民法925条)。


(3) 相続財産の管理と清算

① 相続財産の管理

(イ) 限定承認をした場合、限定承認をした相続人はその「固有財産におけると同一の注意」をもって相続財産の管理を継続しなければならない(民法926条1項)。この場合は委任に関する規定が準用される(同条2項)。

(ロ) 相続人が数人あるときは、家庭裁判所は職権で相続人の中から相続財産の管理人を選任しなければならない(民法936条1項)。


② 清算手続き

(イ) 除斥公告

限定承認者は、限定承認をした後5日以内に、すべての相続債権者および受遺者に対し、限定承認をしたことおよび2か月を下らない期間を定めて債権の申出をなすべき旨を官報で公告しなければならない(民法927条1項)。この公告には債権者が期間内に申出をなさざる時はその債権は清算より除斥されるべき旨を付記しなければならず、かつ知れている債権者には各別に申出を催告しなければならない。これら知れている債権者、受遺者は申出がなくても清算から除斥することはできない(民法927条2項、3項)。

(ロ) 弁済拒絶権

限定承認者は、上記(イ)の公告で定めた申出期間満了前は、相続債権者、受遺者に対して弁済を拒むことができる(民法928条)。

(ハ) 弁済

公告期間満了後、申し出た債権者および知れたる債権者は、「優先権をもつ債権者」⇒「一般債権者」⇒「受遺者」の順に弁済を受ける(民法929条、931条)。