- 民法親族・相続ー10.相続の承認および放棄
- 4.相続の放棄
- 相続の放棄
- Sec.1
1相続の放棄
■相続放棄の意義
相続の放棄とは、相続の開始によって相続人に生じた相続の効果を相続開始後に拒絶し、初めから相続人でなかったのと同様の効果を生じさせることをいう。相続が開始する前に相続放棄することはできず、また相続放棄に条件や期限を付すことはできない。被相続人が、遺言により相続放棄することを禁止や制限した場合でも、相続人はその意思により相続の放棄をすることができる。
■相続放棄の手続き
(1) 家庭裁判所への申述
相続の放棄をしようとする者は、自己のために相続の開始を知った時から3か月以内に、その旨を家庭裁判所に申述してしなければならない(民法938条)。家庭裁判所に対する申述によらない単なる意思表示のみによる相続放棄は無効である。
(2) 相続放棄できる者
① 相続人またはその法定代理人に限られる。相続放棄は財産上の行為であるから、成年被後見人は意思能力を回復していても自ら放棄できず、成年後見人が代わりにする必要がある。また被保佐人や民法17条の審判を受けた被補助人が自ら相続放棄をするためには保佐人、補助人の同意を要する。
② 相続放棄は、各相続人が単独ですることができる。cf.限定承認
■相続放棄の効果
(1) 相続資格の喪失
相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなされる(民法939条)。その結果、相続放棄があれば、他の相続人の法定相続分が増加することがある。
また、相続放棄によって、放棄者は相続人でなかったことになるため、その者の子は代襲相続できない。例えば、被相続人の子が相続放棄をした場合、放棄者の子は代襲相続人にはならない。
(2) 相続放棄後の相続財産の管理義務
相続の放棄をした場合でも、放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまでは、「自己の財産におけるのと同一の注意」をもってその財産の管理を継続しなければならない(民法940条1項)。
判例 | (最判昭49.9.20) |
相続放棄は、詐害行為取消権の行使の対象とはならない。 |
(3) 相続の放棄と第三者
相続放棄の効力は絶対的で、何人に対しても、登記等なくしてその効力を生ずる(最判昭42.1.20)。
判例 | (最判昭42.1.20) |
相続人は、相続の放棄をした場合には相続開始時にさかのぼって相続開始がなかったと同じ地位に立ち、当該相続放棄の効力は、登記等の有無を問わず、何人に対してもその効力を生ずべきものと解すべきであって、相続の放棄をした相続人の債権者が、相続の放棄後に、相続財産たる未登記の不動産について、右相続人も共同相続したものとして、代位による所有権保存登記をしたうえ、持分に対する仮差押登記を経由しても、その仮差押登記は無効である。 |