• 民法親族・相続ー10.相続の承認および放棄
  • 2.相続の承認
  • 相続の承認
  • Sec.1

1相続の承認

堀川 寿和2022/01/06 13:56

単純承認

 単純承認とは、相続人が、無制限・無条件に被相続人の権利・義務を承継することを承認することをいう。相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する(民法920条)。

 その結果、被相続人の生前の債務についても、相続人のポケットマネーから弁済しなければならなくなる。


法定単純承認

 相続人が熟慮期間内に積極的に単純承認の意思表示をしなくても、民法921条で定める事由が発生した場合には、相続人は単純承認をしたものとみなされる。これが「法定単純承認」である。


(1) 相続財産の処分

 相続人が相続財産の全部または一部を処分したときは、単純承認をしたものとみなされる(民法921条1号)。

a) ここでいう「処分」とは、相続財産を第三者に売り渡すといったような法律上の処分のほか、相続財産に属する物を故意に毀損したような場合も含まれる。相続人が相続開始の事実を知らずに相続財産に属する財産を処分した場合や過失による毀損は含まれない。

例えば、相続人の1人が、放火により相続財産中の建物を焼失させた場合は、単純承認をしたものとみなされる。それに対して、失火により相続財産中の建物を焼失させた場合は、単純承認をしたものとはみなされない。

b) 相続財産について保存行為をした場合や、民法602条に定める期間を超えない賃貸をした場合は、単純承認をしたものとはみなされない(民法921条1号ただし書)。

例えば、相続人が、相続財産である建物の不法占有者に対して明渡しを求めることや、相続財産である不動産の不実の登記名義人に対し、持分権に基づく当該登記の抹消手続請求訴訟を提起することは、保存行為に該当するため、単純承認をしたものとはみなされない。

また、民法602条に定める期間は、土地の賃貸借は5年、建物の賃貸借は3年、動産の賃貸借は6か月である(民法602条2号、3号、4号)。

c) 相続財産である建物の賃借人に対して賃料の支払いを求めることもここで言う処分に当たる(最判昭37.6.21)。

d) 相続人が未成年者である場合は、その法定代理人が未成年者に代わって、相続財産の処分をしたときは、その未成年者は単純承認をしたものとみなされる(大判大9.12.17)。


(2) 熟慮期間の徒過

 相続人が熟慮期間内に限定承認も放棄もしなければ単純承認をしたものとみなされる(民法921条2号)。

 熟慮期間である3か月の期間は、「自己のために相続の開始があったことを知った時」から起算する(民法915条1項)。したがって、相続の開始のときから3か月が経過しても、相続人が自己のために相続の開始があったことを知らなければ、単純承認をしたものとはみなされない。 


(3) 限定承認または相続放棄後の相続財産の隠匿、消費、目録への不記載

① 原則

 相続人が、限定承認または相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部もしくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、または悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったときも単純承認をしたものとみなす(民法921条3号本文)。


② 例外

 ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、これらの行為があっても、単純承認をしたものとはみなされない(民法921条3号ただし書)。


単純承認の効果

単純承認によって相続人は被相続人の一身専属権を除くは相続人の固有財産と完全に融合する。