- 民法親族・相続ー9.相続の効力
- 1.相続の効力
- 相続の効力
- Sec.1
1相続の効力
■相続の一般的効力
(1) 相続財産の承継
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する(包括承継、民法896条本文)。
一切の権利義務であるから、積極財産はもちろん消極財産も含まれる。仮に相続人が相続開始の事実を知らなくても、当然に承継する。
(2) 相続の対象となる財産
相続財産に属する権利義務は多種多様で、一般に不動産(土地・建物)の所有権やその他の物権(占有権も含む。)、動産、現金、預金、株式、著作権や特許権等の無体財産権、債権、債務などさまざまなものがある。
判例 | (最判昭44.10.30) |
被相続人の事実的支配の中にあった物は、原則として、当然に相続人の支配の中に承継され、その結果占有権も承継されるから、被相続人が死亡して相続が開始するときは、特段の事情のない限り、従前その占有に属したものは、当然相続人の占有に移る。 |
判例 | (最判昭42.11.1) |
不法行為による慰藉料請求権は、被害者が生前に請求の意思を表明しなくても、相続の対象となる。 |
(3) 相続の対象とならない財産
被相続人の一身に専属したものは、相続財産に含まれない(民法896条ただし書)。
① 扶養請求権
扶養請求権は一身専属権であって相続されない(大判大5.9.16)。
② 生活保護法に基づく生活保護受給権
生活保護法に基づく受給権は、受給者の最低限度の生活を維持するために当該個人に与えられた一身専属権であって相続の対象とならない(最昭42.5.24)。
③ 身元保証の債務(大判昭18.9.10)・継続的信用保証債務(最昭37.11.9)
上記のような保証債務は、責任の範囲が非常に広範で当事者の人的な信頼関係を基礎とするものであるため、相続人に承継されない。これに対して、金銭消費貸借や賃貸借に伴う通常の保証債務については、相続人に承継される点と比較!
④ 使用貸借における借主の地位(民法599条)
使用貸借は、借主の死亡によって効力を失う。
cf.使用貸借の貸主の地位は相続される点と比較!
⑤ 委任契約の委任者、受任者の地位
委任契約は当事者間の信頼関係に基づいて締結されるため、当事者の一方が死亡すれば終了することになる。
⑥ 民法上の組合員の地位(民法679条1号)
組合契約で別段の定めがないかぎり、組合員の地位は相続人に承継されない。
■祭祀に関する権利の承継
系譜、祭具および墳墓の所有権は、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する(民法897条1項本文)。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する(同項ただし書)。
祭祀に関する権利は、相続財産とは区別して特別に承継されるということである。
■共同相続の効力
(1) 共同相続の意義
被相続人が死亡した場合に、相続人が数人いる状態を共同相続という。
(2) 相続財産の共有
共同相続の場合には、相続財産は、各共同相続人の共有に属する(民法898条)。
(3) 権利義務の承継
各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する(民法899条)。
① 可分債務
相続開始と同時に法律上当然に分割され、各共同相続人は相続分に応じて責任を負う(大決昭5.12.4)。
その後、各共同相続人中の1人に相続債務の全額を相続させる旨の遺産分割協議がなされた場合も、この合意は共同相続人間では有効であるが、債権者を拘束するものではなく、相続債権者は各共同相続人に対して法定相続分に応じた債務の履行を請求できることになる。
② 連帯債務
連帯債務の相続の場合にも、判例(最昭34.6.19)は上記可分債権についての当然分割の考えを採用し、被相続人の連帯債務は法律上当然に各相続人の相続分に応じて分割され、元の連帯債務者と連帯債務者になるとする。
③ 賃料債権
相続開始から遺産分割までの間に共同相続に係る不動産から生ずる金銭債権たる賃料債権は、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得し、その帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けない(最判平17.9.8)。
④ 不可分債務
各共同相続人にその債務が不可分的に帰属し、各共同相続人はその全部につき履行義務を負う(大判昭10.11.22)。
⑤ 金銭
相続人は、遺産の分割までの間は、相続開始時に存した金銭を相続財産として保管している他の相続人に対して、自己の相続分に相当する金銭の支払を求めることはできない(最判平4.4.10)。