- 民法親族・相続ー8.扶養
- 4.相続欠格
- 相続欠格
- Sec.1
■欠格事由
民法は、欠格事由として次の5つの事由を定める(民法891条1号から5号)。
相続欠格の対象は、すべての推定相続人であり、次に掲げる者は、相続人となることができない。
① 故意に被相続人または相続について先順位もしくは同順位にある者を死亡するに至らせ、または至らせようとしたために、刑に処せられた者
② 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、または告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、または殺害者が自己の配偶者もしくは直系血族であったときは、この限りでない。 ③ 詐欺または強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、または変更することを妨げた者 ④ 詐欺または強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、または変更させた者 ⑤ 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、または隠匿した者 |
【被相続人や他の相続人の生命侵害に関する事由】
① 故意に被相続人または相続について先順位もしくは同順位にある者を死亡するに至らせ、または至らせようとしたために、刑に処せられた者
(イ) 「死亡するに至らせ、または至らせようとした」場合であるので、殺人の既遂だけでなく、殺人未遂、殺人予備も含まれる。
(ロ) 「故意に」の場合に限られるので、殺人や殺人未遂等に限られ、過失致死や傷害致死は含まれない。
(ハ) 「刑に処せられた者」とあるので、執行猶予が付され、その猶予期間を無事に終了した場合は含まれない。
(ニ) また、相続について先順位もしくは同順位にある者を殺害し、または殺害しようとしたために刑に処せられた者も、同様である。例えば、AB夫婦の間に実子Cがいたが、Cが父であるAを殺害し、刑に処せられた場合、Cは父であるAの相続だけでなく、母Bの相続についても欠格事由に該当することになる。Bの相続について、AとCは同順位の相続人であり、CがAを殺したことによってBの相続についての自己の相続分が増えることになってしまい不都合だからである。
② 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、または告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、または殺害者が自己の配偶者もしくは直系血族であったときは、この限りでない。
殺害者が自己の兄である場合には、告発または告訴しないと、自らも欠格者となってしまうことになる。
【被相続人の遺言の妨害に関する事由】
下記の③と④は、詐欺または強迫によって、被相続人に相続に関する遺言等をさせたり、あるいは遺言等をすることを妨げた場合である。⑤は、自らの手で遺言の偽造等をした場合である。
③ 詐欺または強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、または変更することを妨げた者
相続に関する遺言以外(ex.未成年後見人や未成年後見監督人の指定に関する遺言)であれば欠格事由に該当しない。
④ 詐欺または強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、または変更させた者
⑤ 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、または隠匿した者
判例 | (最平9.1.28) |
相続人が、被相続人の相続に関する遺言書を破棄し、又は隠匿した場合でも、その行為が相続に関して不当な利益を得ることを目的とするものではなかったときは、相続欠格には当たらない。 |
判例 | (最昭56.4.3) |
被相続人の相続に関する遺言書について、必要な押印がなかったため本来であれば無効である場合に、相続人がこれを有効なものにしようとして、法律上の形式を整える趣旨で押印をした場合、その相続人は相続欠格には該当しない。 |
■欠格の効果
(1) 相続資格の喪失
上記の相続欠格事由のいずれかに該当すると、当然に相続人となる資格を喪失する(民法891条)。後述の廃除の場合と異なり、家庭裁判所の審判を経る必要はない。ただ、前述のとおり被相続人の子が欠格事由に該当しても、その者の子が代襲して相続人となる。
(2) 受遺能力の喪失
相続欠格者は同時に受遺能力も失うため(民法965条→891条)、被相続人となるべき者から遺贈を受けることもできなくなる。
(3) 欠格の効果の相対効
相続欠格の効果は、特定の被相続人との関係においてのみ生ずる。すべての者との間での相続資格を失うわけではない。他の者が死亡した場合は、その相続人となることができる。よって例えば、子を殺害しても、自分の親や兄弟の相続人になることは可能である。
(4) 欠格の宥恕(ゆうじょ)・取消し
「欠格の宥恕(ゆうじょ)」とは、被相続人が欠格者を許し、相続人資格を回復させることをいう。
この点につき、民法に規定はないため、宥恕は認められない(通説)。
また、民法に、相続欠格の効果を取り消す規定もないため、相続欠格を取り消すこともできない。