• 民法親族・相続ー4.親権
  • 2.親権の効力
  • 親権の効力
  • Sec.1

1親権の効力

堀川 寿和2022/01/05 14:43

子の身上監護権

親権を行う者は、子の利益のために子を監護、教育する権利を有し義務を負う(民法820条)。

民法では、この監護教育権の具体的な内容として、居所指定権(民法821条)、懲戒権(民法822条)、職業許可権(民法823条1項)を規定している。

① 居所指定権

子は、親権を行う者が指定した場所に、その居所を定めなければならない(民法821条)。

② 懲戒権

親権を行う者は、第820条の規定による監護および教育に必要な範囲内でその子を懲戒することができる(民法822条)。

③ 職業許可権

子は、親権を行う者の許可を得なければ、職業を営むことができない(民法823条1項)。

親権を行う者は、未成年の子にその営業に耐えることができない事由がある場合(民法6条2項)は、前項の許可を取り消し、またはこれを制限することができる(民法823条2項)。


子の財産管理権

(1) 財産管理権

① 意義

 親権を行う者は、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表する(民法824条本文)。

ただし、その子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には、本人の同意を得なければならない(民法824条ただし書)。よって、例えば、子が他人に雇われて労務を供給する契約をするような場合には、その子の同意を得る必要があることになる。ここでいう「代表」とは、代理と同義である。


② 注意義務

自己のためにするのと同一の注意義務をもってすればよいとされる(民法827条)。親権者とその親権に服する子は、親子という特別の関係にあるため、委任の際の善良な管理者の注意義務(善管注意義務)を軽減している。cf.後見人の注意義務は善管注意義務である点とも比較。


③ 財産管理の計算義務

子が成年に達したときは、親権を行った者は、遅滞なくその管理の計算をしなければならない(民法828条本文)。ただし、その子の養育および財産の管理の費用は、その子の財産の収益と相殺したものとみなす(同条ただし書)。


(2) 代理権

 前述のとおり、親権を行う者は、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表するため、親権者は子を代理する権限を有する。


(3) 同意権

 親権者は、子が自ら財産上の法律行為を行うにつき同意を与える権利を有する。


(4) 子の親権の代行

 未成年者は親権行使ができないため、親権を行う者は、その親権に服する子に代わって親権を行う(民法833条)。

親権の代行は未成年の子が非嫡出子を有する場合の問題である。例えば、父母の親権に服している未成年の娘が子を産んだ場合、娘が成年に達するまで、父母が娘に代わって親権を行使する。

未成年後見人も被後見人たる未成年者に子がいる場合には、未成年被後見人に代わって親権を行うことになる(民法867条1項)。



利益相反

(1) 意義

 利益相反行為とは、親権者に利益となるが未成年者のために不利益な行為または親権に服する子の一方のために利益であって他方のために不利益な行為をいう。親権を行う父または母とその子との利益が相反する行為については、その範囲で代理権や同意権が制限され、特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。


(2) 利益相反の効果

① 親権の制限

 利益相反行為に該当する場合、親権を行う父または母は自ら代理または同意ができなくなる。


② 特別代理人の選任

 この場合、親権を行う者の請求により家庭裁判所が子のために特別代理人を選任し、この特別代理人が利益相反行為について親権者に代わって代理または同意を与えることになる(民法826条1項)。




a) 親権者の一方のみと利益相反関係となる場合

 例えば、親権を行う父と子の利益が相反するが、親権を行う母と子の利益は相反しない場合には、特別代理人と利益相反関係にない母が共同して、未成年の子を代理することになる。




b) 同一人の親権に服する数人の子相互間の利益相反

 親権を行う者が数人の子に対して親権を行う場合において、その1人と他の子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その一方のために、特別代理人を選任することを家庭裁利所に請求しなければならない(民法826条2項)。



(3) 利益相反行為の判断基準

具体的にどのような行為が利益相反行為に該当するかの判断基準をめぐっては、形式的判断説と実質的判断説がある。判例は形式的判断説を採用している。

形式的判断説(判例)

利益相反行為にあたるか否かは専ら行為の外形で決すべきであって、親権者の意図や実質的効果から判断すべきではないと考える説である。

実質的判断説

行為の動機、目的、効果などの一切の事情を考慮して判断すべきであると考える説である。


(4) 具体的事例(形式的判断説による)

① 利益相反に当たる場合

a) 親権者と子の直接取引

ⅰ) 親子間の売買、債権譲渡等



ⅱ) 親子間の贈与

親が子に贈与する場合には、原則として利益相反とはならないが、負担付贈与の場合には利益相反となる。



ⅲ) 親権者と子の間の遺産分割協議



b) 親権者と子の間接取引

子と第三者との取引であっても、それが実質的に親権者と子との間で利益相反をもたらす場合にも利益相反となる。



ⅰ) 親権者の債務の担保として、子を代理して子の不動産等に担保を設定する行為

ⅱ) 親権者の債務の担保として、子を代理して親権者と子の共有不動産に担保を設定する行為

ⅲ) 親権者の債務のために、子を代理して子を連帯債務者(または保証人)とする行為

iv) 親権者の債務のために、子を代理して子の財産をもって代物弁済契約を締結する行為

v) 第三者の債務について、親権者が自ら連帯保証している場合、子を代理して子も連帯保証人とする行為


c) 相手方のない単独行為

親権者が子を代理して相続放棄をすること。ただし、親権者も共に相続放棄する場合には利益相反とはならない。


② 利益相反に当たらない場合

ⅰ) 第三者の債務につき、子を代理して子所有の不動産に抵当権を設定する行為

ⅱ) 親権者を代表者とする会社の債務を担保するために子所有の不動産に抵当権を設定する行為

ⅲ) 子名義で借財し、子の所有不動産に抵当権を設定する行為

親権者が、自己の営業資金に充てる意図で、未成年者の子を代理して他人から金銭を借り受け、その債務の担保のために子の所有不動産に抵当権を設定する行為であっても、利益相反取引に当たらない(大判昭9.12.21)。判例は形式的判断説に立っており、このような場合も、親権者の意図や動機は考慮せず、行為の外形から客観的に判断するからである。

iv) 親権者が連帯保証人になって、子を代理して第三者から金銭を借り入れる行為


(5) 利益相反行為がなされた場合の効果

① 親権者が、利益相反行為について、子を代理してした行為は、無権代理行為となり、子が成年に達した後は、これを追認することができる(大判昭11.8.7、最判昭46.4.20)。


② 特別代理人の同意を得ることなく、親権者が同意を与え、これに基づいて子が自ら利益相反行為をした場合は、適法な同意がなかったものとして取り消すことのできる法律行為となる(大昭9.5.2)。