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1婚姻の解消

堀川 寿和2022/01/05 11:17

婚姻の解消の意義

(1) 意義

「婚姻の解消」とは、有効に成立した婚姻が、その後に生じた事由により将来に向かって消滅することをいう。


(2) 婚姻解消の事由

 配偶者の死亡と離婚とがある。




当事者の死亡

(1) 死亡による婚姻の解消

 婚姻は夫婦の一方の死亡によって解消する。


(2) 死亡解消の効果

① 夫婦間の法律関係

 同居・協力・扶助義務、貞操義務、夫婦間の契約取消権、夫婦財産契約等はすべて消滅する。


② 財産上の効果

 生存配偶者は、死亡した配偶者の相続人になる(民法890条)。


③ 離婚による解消との差異

(イ) 復氏

 夫婦の一方が死亡したときは、生存配偶者は婚姻前の氏に復することができる(民法751条)。婚姻によって氏を改めた配偶者が復氏するかどうか、姻族関係を終了させるかどうかは、生存配偶者の意思に委ねられる。一方配偶者の死亡によって当然に婚姻前の氏に復するわけではなく、戸籍法の定めるところによって届け出ることによって復氏するのである。


(ロ) 姻族関係の終了

 生存配偶者と死亡した配偶者の親族との間の姻族関係は、生存配偶者が姻族関係を終了させる意思表示をした場合にのみ終了する(728条2項)。(イ)と(ロ)はまったく別個のものであるため、氏は婚姻前の氏のままで、姻族関係を終了させることもできるし、逆に復氏して姻族関係だけを維持することも可能である。


離婚

(1) 意義

 離婚とは、有効に成立した婚姻を当事者の意思に基づいて解消することをいう。離婚には、協議離婚と裁判上の離婚がある。


(2) 協議離婚

 夫婦は、その協議で、離婚することができる(民法763条)。


① 協議離婚の成立要件




(イ) 実質的要件

夫婦間に離婚意思の合致があることが必要である。

a) 実質的意思説と形式的意思説

 ここでいう「離婚意思」とは、夫婦関係を永久に解消させる意思(実質的意思説)か、単に離婚届出をする意思(形式的意思説)かについて争いがある。判例(最判昭38.11.28)は離婚の場合は、婚姻や縁組の場合と異なり、形式的意思説に立つとする。したがって、夫婦の一方に対する強制執行を免れるために仮装の協議上の離婚届を提出した場合(最判昭44.11.14)や、生活保護の受給を継続するため仮装の協議上の離婚届を提出した場合(最判昭57.3.26)など、他の目的を達成するために方便としてされた離婚届も有効となる。逆に実質的意思説の場合、これらの理由で離婚届を出しても離婚は無効ということになる。


b) 協議離婚をなしうる能力

 協議離婚のもつ意味を判断する能力があれば足りる。

成年被後見人でも本心に復していれば後見人の同意なくして離婚できる(民法764条→738条)。成年後見人や後見監督人が代理して協議離婚することはできない。


c) 離婚意思の存在時期

 離婚意思は、離婚届作成時だけでなく、届出受理の時点において存在することが必要なので、離婚届を作成した後、離婚意思を翻意し、その旨を相手方に通知したにもかかわらず、届出がされた場合には、離婚は無効である(最判昭34.8.7)。

(ロ) 形式的要件

a) 離婚の届出

協議離婚は、戸籍法の定めるところによりこれを届け出ることによって成立する(民法764条→739条)。

b) 届出の方法

この届出は当事者双方および成年の証人2人以上から口頭または署名した書面でなされなければならない(民法764条→739条)。


② 協議上の離婚の取消し

(イ) 協議離婚の取消し

詐欺または強迫によって離婚した者は、その離婚の取消しを裁判所に請求することができる(民法764条→747条1項)。詐欺または強迫を受けた者に限られるため、妻の親族が妻をだまして夫と協議上の離婚をさせた場合、離婚の取消請求ができるのは妻のみであって夫からはできない。この取消権は、当事者が、詐欺を発見し、もしくは強迫を免れた後3か月を経過し、または追認したときは、消滅する(民法764条→747条2項)。

(ロ) 協議離婚の取消しの効果

 離婚の取消しの効力は、婚姻の取消しの場合と異なり、離婚届提出の時まで遡るため、離婚が当初から存在しなかったものとして、婚姻は継続していたことになる。cf.婚姻の取消し


③ 協議上の離婚の無効

 当事者の一方または双方に離婚の意思がないときはその協議離婚は当然無効である(最判昭53.3.9)。条文に規定はないが、婚姻に関する民法742条の類推による。無効な離婚届が出された後、届出に沿う事実(離婚の実体)が発生、継続しおよび当事者がそれを追認する意思表示をしたときは、離婚は届出のときに遡って有効となる(最判昭42.12.8)。


(3) 裁判上の離婚

① 意義

 裁判上の離婚とは、夫婦の一方に法律上定める離婚原因がある場合に限り、離婚の訴えを提起し、裁判所が判決によって婚姻を解消させることをいう(民法770条1項)。裁判上の離婚は、離婚を認める判決の確定によって効力が生じ、その効力は第三者にも及ぶ。そして、離婚の判決が確定すると、原告は10日以内に戸籍法の定めるところにより届出をしなければならないが(戸籍法73条1項→63条1項)、これは報告的な届出であって、協議離婚の場合と異なり、届出を欠いても離婚の効力に影響を及ぼさない。


② 調停前置主義

 調停によって成立する離婚を「調停離婚」という。前記の離婚の訴えを提起する前に、まず家庭裁判所に調停の申立をしなければならない決まりになっている(調停前置主義)。もし、いきなり訴えを提起したときは、原則として裁判所は事件を調停に付すことになる。

③ 離婚原因

 裁判離婚が認められるためには、民法770条1項で定める法定の離婚原因がなければならない。離婚原因には、具体的離婚原因(民法770条1項1号~4号)と、抽象的離婚原因(民法770条1項5号)がある


(イ) 不貞行為(1号)

「不貞行為」とは、夫婦間の貞操義務に反する行為をいう。すなわち、配偶者のある者が自由な意思により配偶者以外の異性と性的な関係をもつということである。相手方の自由意思によるか否かを問わないため、夫が強姦により性的関係を結んだ行為(最判昭48.11.5)の場合も不貞行為に当たる。


(ロ) 悪意の遺棄(2号)

「悪意の遺棄」とは、正当な理由がないのに、同居・協力・扶助の義務に違反することをいう。


(ハ) 3年以上の生死不明(3号)

「配偶者の生死が3年以上明らかでないとき」とは、3年以上にわたって配偶者の生存も死亡も確認できない状態が継続していることをいう。単なる居所不明では足りない。


(ニ) 回復の見込みがない強度の精神病(4号)

「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」とは、精神病が強度であって、回復する見込みのないことをいう。


(ホ) その他婚姻を継続し難い重大な事由(5号)

「婚姻を継続し難い重大な事由」とは、婚姻関係が客観的に破綻し、もはや円満な共同生活の回復の見込みがないことをいう(破綻主義)。破綻状態を自ら招いた配偶者(有責配偶者)が、婚姻を継続し難い重大な事由があるとして、離婚の訴えを提起することができるかが問題となるが、旧判例はこれを否定していたが、その後一定の要件を満たすことを条件として有責配偶者からの離婚請求を許容する場合もあり得るとしている。その要件として、(イ)夫婦の別居が両当事者の年齢および同居期間との対比において相当の長期間に及び、(ロ)その間に未成熟の子が存在しない場合には、(ハ)相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状況におかれるなど、離婚請求を認めることが著しく社会正義に反すると認められない限り、有責配偶者からの離婚請求を認めている(最判昭62.9.2)。

 さらにその後の判例は、有責配偶者からされた離婚請求で、その間に未成熟の子がある場合でも、ただその一事をもってその請求を排斥すべきものでなく、有責配偶者の責任の態様・程度、相手方配偶者の婚姻継続の意思などの諸事情を総合的に考慮してその請求が信義誠実の原則に反するとはいえないときには、その請求を認容することができるとして、長期間の別居(13年)等を理由に、未成熟の子(高校生)がいる場合でも、有責配偶者からの離婚請求を認めている(最判平6.2.8)。


判例(最判昭62.9.2)
 離婚請求は信義誠実の原則に照らしても容認され得るものであることを要するのであり、有責配偶者の離婚請求であっても、夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及び、夫婦間に未成熟の子が存在しない場合には、相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて過酷な状態におかれる等、離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情のない限り、当該請求は、有責配偶者からの請求であるとの一事をもって許されないとすることはできない。


判例(最判平6.2.8)
 未成熟子がいる場合であっても、別居期間が13年に及び、子も高校卒業の年齢に達し、夫が別居後も子の監護に意を尽くし、妻への財産分与も期待できる事実関係のもとでは離婚も容認することができる。


④ 離婚請求の棄却

 裁判所は、民法770条1項1号から4号の具体的離婚原因があるときでも、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは離婚の請求を棄却することができる(民法770条2項)。離婚請求を認めるか否かの裁量権を裁判所に与えたものである。


(4) 離婚の効果

 離婚が成立すると、婚姻によって生じた当事者間の身分上、財産上の効果が将来に向かって消滅する。


① 身分上の効果

 離婚によって婚姻関係は終了し、婚姻の存続を前提とする一切の権利義務(ex.貞操義務、日常家事債務の連帯責任、同居・協力・扶助義務等)は将来に向って消滅する。

(イ) 再婚の自由

 当事者間の配偶者関係は消滅し、原則として再婚が自由となる。

(ロ) 姻族関係の終了

 姻族関係も当然消滅する(民法728条1項)。死亡による解消の場合と異なり、姻族関係終了の意思表示を要しない。

(ハ) 復氏

 婚姻により氏を改めた夫または妻は、離婚によって婚姻前の氏に復するが、離婚後3か月以内に戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、離婚の際に称していた氏を称することができる(民法767条)。

(ニ) 祭祀(さいし)財産の承継

 婚姻によって氏を改めた夫または妻が祭祀財産を承継したのち離婚したときは、当事者その他の関係人の協議または家庭裁判所の審判によりその承継者を定めなければならない(民法769条、771条)。


② 子の親権と監護

(イ) 離婚後の子の身分

 夫婦間に生まれた子は、父母が離婚しても嫡出子たる身分に影響はない。しかし、子が未成年者である場合、親権を共同で行使することはできなくなるため、どちらか一方の単独親権となる。したがって離婚の際にいずれか一方を親権者と定める必要がある。

(ロ) 親権者の決定

a) 協議離婚する夫婦間に未成年の子があるときは、その協議で父母の一方を子の単独親権者と定めなければならない(民法819条1項)。親権者の指定のない協議離婚届が誤って受理されたときは、親権者の指定がされるまでの間、子は父母の共同親権に服する。協議が調わないとき、または協議ができないときは家庭裁判所がこれを定める(民法819条5項)。

b) 裁判離婚の場合は、裁判所が父母の一方を親権者と定める(民法819条2項)。

c) 子の出生前に父母が離婚したときは、親権は母がこれを行う(民法819条3項)。

(ハ) 子の監護に関する事項の定め等

 父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父または母と子との面会およびその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について   必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない(民法766条1項)。これらの協議が調わないとき、または協議をすることができないときは、家庭裁判所が、これらを定める(同条2項)。

(ニ) 監護者の決定の要否

 離婚に際して、必ずしも監護者を置く必要はないが、必要に応じて置くことになる。また親権者と異なり、監護者については、親権者と異なり父母に限らず、第三者がなることもできる。


③ 財産上の効果

(イ) 意義

協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる(民法768条1項)。この請求権が財産分与請求権である。

(ロ) 財産分与の額・方法

財産分与のその額や方法については、まず当事者間の協議で定めるが、当事者間に協議が調わないとき、または協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる(民法768条2項)。

(ハ) 財産分与請求権の行使期間

裁判所に財産分与の請求ができるのは、離婚の時から2年に限られる(民法768条2項ただし書)。

(ニ) 財産分与と慰謝料の関係

財産分与請求者が、離婚により精神的苦痛を被った場合には、財産分与とは別に相手方に対して慰謝料を請求することができるが、慰謝料と財産分与とは密接な関係にあるから、財産分与の額および方法を定める際に、慰謝料支払義務の発生原因である事情も斟酌することができる(最判昭31.2.21)。

ただし、財産分与がされても、それが慰謝料的要素を含めた趣旨と解されないか、または、その額および方法が、分与請求者の精神的苦痛を慰謝するに足りないと認められるものであるときは、財産分与とは別に慰謝料を請求することができる(最判昭46.7.23)。