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1夫婦財産制

堀川 寿和2022/01/05 11:12

夫婦財産制の意義

 夫婦財産制とは、夫婦間の財産関係を規律する制度をいう。民法は、夫婦財産制として、①夫婦財産契約と、②法定財産制の2つを定める。まず、①の夫婦財産契約を定めればそれにより、契約を締結しなければ、民法が定める法定財産制によることになる(民法755条)。

夫婦財産契約

(1) 意義

「夫婦財産契約」とは、婚姻しようとする者が、婚姻の届出前にその財産について法定財産制と異なる契約を締結することをいう(民法755条)。契約内容について特に制限はなく、公序良俗に反しない限り自由に定めることができる。


(2) 契約締結の方式

 夫婦財産契約は、婚姻の届出前に締結しなければならない。さらに婚姻の届出前に戸籍筆頭者の住所地の法務局でその登記(夫婦財産契約登記)をしなければ夫婦の承継人および第三者に対抗することができない(民法756条)。


(3) 契約締結の効果

 夫婦財産契約は婚姻の届出により効力が生じ、婚姻継続中は原則としてこれを変更することができない(民法758条1項)。


法定財産制

(1) 意義

 夫婦が、婚姻の届出前に、その財産について別段の契約をしなかったときは、その財産関係は法定財産制による(民法755条)。


(2) 財産の帰属

 夫婦の一方が婚姻前から有する財産および婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産をいう。)とする(民法762条1項)。これを別産制という。「自己の名で得た財産」とは、それを取得するための対価や出捐を自分が負担し、実質的にも自分のものといえる財産をいう。夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定する(同条2項)。


判例(最判昭34.7.14)
 夫婦の合意で、夫の買い入れた土地の登記簿上の所有名義人を妻としただけでは、右土地を妻の特有財産と解することはできない。


(3) 婚姻費用の分担

 夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する(民法760条)。


① 婚姻費用の意義

 「婚姻から生ずる費用」とは、夫婦が共同生活を営むために必要とする一切の費用をいい、日常の衣食住の生活費はもとより、子の養育費、医療費、交通費等を含む。


② 婚姻関係の破綻、別居の場合

 夫婦が別居、破綻している場合でも、婚姻関係が継続している以上分担義務はなくならない(東京高決昭53.12.14)。よって、婚姻費用を支出すべき者は他方に分担費用を与えなければならない。したがって、婚姻関係が破綻し夫婦が別居状態にあるというだけでは、婚姻費用分担義務は消滅しない(大阪高決昭41.5.9)。


(4) 日常家事債務の連帯責任

 夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う。ただし、第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は、この限りでない(民法761条)。


① 日常家事の意義

 ここでいう「日常の家事」とは、夫婦共同生活に必要とされる一切の事項をいい、食料、衣料、家具等の購入、子の養育・教育費、医療費等がこれにあたる。


② 日常家事債務か否かの判断基準

 日常の家事に関する法律行為の具体的な範囲は、夫婦の内部事情や主観的意思だけではなく、さらにその法律行為の種類、性質といった客観的事情を考慮して判断する(最判昭44.12.18)。


③ 日常家事債務と表見代理の関係

 実際には日常の家事の範囲に属しないが、外見上は日常家事の範囲に見える事項について、夫婦の一方が第三者と法律行為をしたときには、表見代理類似の法理の適用が認められるかが問題となる。

例えば、妻が夫に無断で高級外車を購入したような場合である。

判例は、夫婦の日常の家事に関する代理権の存在を基礎として、民法110条(権限外の行為の表見代理)の規定を適用することは、夫婦の財産的独立を損なうおそれがあることから、原則として認められないとしている。ただし、越権行為の相手方である第三者において、その行為が当該夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内に属すると信ずるにつき正当の理由のあるときには、当該第三者の保護を図るために、民法110条の趣旨を類推適用することができるとする(最判昭44.12.18)。