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1婚姻の成立

堀川 寿和2022/01/05 10:59

婚姻の意義

 婚姻とは、当事者が終生の共同生活をすることを目的とする男女の法的結合関係をいう。

 婚姻は、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その効力を生じる(民法739条1項)。


婚姻の要件

婚姻が有効に成立するためには、実質的要件として、①婚姻意思の合致があること、②婚姻障害事由のないこと、また形式的要件として③婚姻の届出があることが必要である。



(1) 実質的要件

① 婚姻意思の合致

 婚姻も契約であるから、当事者間に意思の合致が必要である。

 成年被後見人であっても、本人が婚姻について判断する能力を回復していれば、成年後見人の同意を得ることなく、単独で有効に婚姻をすることができる(民法738条)。


② 婚姻障害のないこと

 婚姻の成立には、(イ)婚姻適齢、(ロ)重婚の禁止、(ハ)再婚禁止期間、(ニ)近親婚の禁止、の実質的要件を満たす必要があり、(イ)~(ニ)の要件を欠くときは、後述のとおり婚姻は取り消すことができるものとなる。

(イ) 婚姻適齢に達していること

 婚姻は、18歳にならなければ、することができない(民法731条)。


(ロ) 重婚の禁止

 配偶者のある者は、重ねて婚姻をすることはできない(民法732条)。 


(ハ) 再婚禁止期間

 女は、前婚の解消または取消しの日から100日を経過した後でなければ再婚することができない(民法733条1項)。前夫の子か後夫の子か不明になるのを避ける趣旨である。よって、父性推定重複のおそれがない以下のような場合には再婚禁止期間内でも再婚が許される。

a) 女が前婚の解消または取消しの時に懐胎していなかった場合(同条2項1号)

b) 女が前婚の解消または取消しの後に出産した場合(同条2項2号)

c) 離婚した夫と再婚する場合

d) 夫の3年以上生死不明を理由とする離婚後再婚する場合


(ニ) 近親婚の禁止

a) 直系血族または3親等内の傍系血族(叔父と姪など)は、互いに婚姻をすることができない(民法734条1項本文)。ただし、養子と養方の傍系血族(養子と養親の兄弟姉妹、子、孫など)との間では、婚姻することができる(同ただし書)。

b) 特別養子縁組によって、養子と実方の父母およびその血族との親族関係が終了した後も、互いに婚姻をすることができない(民法734条2項)。

c) 直系姻族間

直系姻族の間では、婚姻をすることができない(民法735条本文)。例えば、舅と嫁のような直系姻族の間では、婚姻をすることができない。離婚ないし配偶者の死亡または特別養子縁組により養子と実方の父母およびその血族との姻族関係が終了した後も、同様である(同条ただし書)。社会倫理に反することになるからである。

d) 養親子関係者間

養子もしくはその配偶者または養子の直系卑属もしくはその配偶者と養親またはその直系尊属との間では、離縁により親族関係が終了した後でも、婚姻をすることができない(民法736条)。

(2) 形式的要件

① 婚姻の届出

 婚姻は戸籍法の定めるところにより届け出ることによって成立する(民法739条1項)。


② 届出の方法

 届出は当事者双方および成年の証人2人以上が署名した書面で、またはこれらの者から口頭でしなければならない(民法739条2項)。


③ 婚姻届出の受理

 婚姻の届出を受けた戸籍事務担当者(市町村長)は、届出書、添付書類等から、形式的に婚姻の実質的要件および形式的要件が具備しているかを審査する。そして、これらの要件の存在を確認し、法令に違反しないことを認めた後でなければ、これを受理することができない(民法740条)。

婚姻の届出は、受理によって完了し、何らかの理由で戸籍に記載がされなくても婚姻は成立する(大判昭16.7.29)。


(3) 実質的意思説と形式的意思説

 婚姻が有効に成立するためには、先述のとおり当事者間の婚姻意思の合致が必要である。では、何をもって婚姻意思の合致と考えるのかについて、実質的意思説(判例)と形式的意思説がある。


① 実質的意思説(最判昭44.10.31)

 婚姻意思とは、婚姻の届出をする意思だけでは足りず、社会観念上夫婦共同生活関係を設定する意思でなければならないとする説である。


② 形式的意思説

 婚姻をする意思とは、婚姻を法律上成立させる意思、すなわち婚姻の届出をする意思だけで足りるとする説である。


③ 両説の差異

 例えば、子に嫡出子たる身分を取得させるために仮装婚姻をしたような場合に、実質的意思説によると、婚姻は無効となるが、形式的意思説によると、届出意思の合致がある以上、婚姻は有効となる。


婚姻の無効および取消し

(1)婚姻の無効

① 婚姻の無効原因

 婚姻は、(イ)婚姻意思の不存在、(ロ)婚姻の届出の不存在の2つの場合に限って無効となる。

(イ) 人違いその他の事由によって当事者間に婚姻をする意思がないとき

人違いやその他の事由、例えば当事者の一方または第三者が勝手に婚姻届を提出し、誤って役所が受理してしまった場合のように、当事者間に婚姻をする意思がないとき、婚姻は無効となる。

a) 婚姻意思の存在時期

婚姻意思は、婚姻届の作成時と受理される時の双方に存在することが必要である。

よって、婚姻届を提出する前に婚姻意思を翻意して撤回した場合、相手方あるいは戸籍事務管掌者に翻意の意思表示が明確になされていれば、その婚姻届出がなされても無効である(最判昭34.8.7)。逆に、事実上の夫婦が婚姻意思を有し、それに基づいて婚姻届書を作成した以上、届出当時意識を失っていたとしてもその受理前に翻意したなどの特段の事情のない限り受理によって婚姻は有効に成立する(最判昭44.4.3)。

b) 婚姻意思と意思能力

婚姻は、当事者に意思能力があれば足りる。したがって成年被後見人も意思能力があれば成年後見人の同意なしに自ら婚姻することができる(民法738条)。

(ロ) 婚姻の届出の不存在

当事者が婚姻意思を有し、実際に婚姻生活を継続していても、婚姻の届出がなければ、婚姻は無効となる。ただし、その届出が民法739条2項に定める方式(当事者や証人の署名等)を欠くだけであるときは、婚姻は、そのためにその効力を妨げられない(民法742条)ため、婚姻は有効である。


② 無効な婚姻の効果

 婚姻が無効であるときは、婚姻は初めから存在しなかったことになる(遡及効)。したがって当事者間に生まれた子は嫡出子にならず、非嫡出子とされる。また、配偶者としての相続権も発生しない。


③ 無効な婚姻の追認

 事実上の夫婦の一方が、他方の知らない間に婚姻届を提出した場合には、その婚姻は、婚姻意思を欠くものとして無効となる(民法742条1号)。ただし、他方の配偶者が届出の事実を知った後も、夫婦としての実質的生活関係を継続した場合には、無効な婚姻の追認があったものとして、その婚姻は、届出の当初に遡って有効となる(最判昭47.7.25)。

(2) 婚姻の取消し

① 意義

 婚姻の取消しとは、一度有効に成立した婚姻を、実質的要件を欠くことを理由に、訴えにより将来に向かって消滅させることをいう。婚姻は、民法744条から747条までの規定によらなければ、取り消すことができない(民法743条)。つまりいったん有効に成立した婚姻を取り消すことができる場合が限定されている。


② 婚姻の取消事由


取消事由取消権者の差異
公益上の理由による取消事由1.不適齢婚 2.重婚 3.近親婚4.再婚禁止期間内の婚姻
各当事者、その親族のほか検察官が取消権者に含まれる(*1)
私益上の理由による取消事由1. 詐欺・強迫による婚姻詐欺・強迫を受けた者のみで、その者の親族や検察官は取消権者に含まれない

(*1)これらに加えて、2.重婚の場合は、「当事者の配偶者」、4.再婚禁止期間中の婚姻の場合は、「前配偶者」も取消権者となる。


(イ) 公益上の理由による取消事由

a) 不適齢婚

婚姻は18歳にならなければすることができない(民法731条)ため、不適齢者が婚姻しようとしても本来ならば婚姻届は受理されないはずであるが、誤って役所が受理してしまったような場合、婚姻の取消しの請求ができる。ただ、不適齢者が適齢に達したときは、取消しを請求することはできなくなる(民法745条1項)。ただ、不適齢者自ら取り消す場合は適齢に達した後3か月間はなお、取消しの請求ができる。ただし適齢に達した後に追認したときは、この限りでない(同条2項)。

b) 重婚

配偶者のある者は重ねて婚姻することはできない(民法732条)はずであるが、誤って役所が受理してしまったような場合、重婚状態にある間はいつでも取消しの請求ができる。ただ重婚関係にある後婚が離婚によって解消したときは、特段の事情のない限り、重婚を理由とする後婚の取消しを請求することはできない(最判昭57.9.28)。

c) 近親婚

直系血族または3親等内の傍系血族(叔父と姪など)は、互いに婚姻をすることができない(民法734条1項)にもかかわらず、誤って役所が受理してしまったような場合にも、婚姻の取消請求ができる。 

d) 再婚禁止期間内の婚姻

女は前婚の解消または取消しの日から起算して100日を経過した後でなければ、再婚することができない(民法733条1項)にもかかわらず、誤って役所が婚姻届出を受理してしまったような場合にも、婚姻の取消請求ができる。ただ、前婚の解消もしくは取消しの日から起算して100日を経過し、または女が再婚後に出産したときは、その取消しを請求することはできない(民法746条)。

(ロ) 私益上の理由による取消事由

詐欺または強迫によって婚姻した当事者は、婚姻の取消しを裁判所に請求することができる(民法747条1項)。ただ、当事者が詐欺を発見し、もしくは強迫を免れた後3か月を経過し、またはその期間内に追認したときには取消権は消滅する(同条2項)。


③ 婚姻の取消しの方法

婚姻の取消しは、必ず家庭裁判所に対して請求しなければならない(民法744条1項、747条1項)。つまり必ず訴えの方法によらなければならない。cf.婚姻の無効


④ 婚姻の取消権者

(イ)公益上の理由による取消事由

各当事者、その親族、検察官が取消権者である。ただし、検察官は当事者の一方が死亡した後は取消しの請求ができない(民法744条1項)。なお、重婚の場合は、当事者の配偶者、再婚禁止期間中の婚姻の場合は、前配偶者も取消権者となる(同条2項)。cf.重婚となる前の配偶者の親族からは取消請求できない。

(ロ)私益上の理由による取消事由

詐欺・強迫を受けた当事者のみが取消権者である(民法747条1項)。


⑤ 婚姻の取消しの効果

(イ)取消しの不遡及

婚姻の取消しは、将来に向かってのみその効力を生ずる(民法748条1項)。したがって、婚姻が取り消されても、子が嫡出子としての身分を失うことはない。

(ロ)財産関係の清算

a) 婚姻の時においてその取消しの原因があることを知らなかった当事者が、婚姻によって財産を得たときは、現に利益を受けている限度において、その返還をしなければならない(民法748条2項)。

b) 婚姻の時においてその取消しの原因のあることを知っていた当事者は、婚姻によって得た利益の全部を返還しなければならない。この場合において、相手方が善意であったときは、これに対して損害を賠償する責任を負う(民法748条3項)。

(ハ) 離婚の規定の準用

前述のとおり婚姻の取消しは将来に向かって解消するので、離婚に準じて扱われることになり、離婚による復氏の規定(民法767条)や財産分与の規定(民法768条)などの離婚に関する規定が準用される(民法749条)。