- 民法担保物権ー5.留置権
- 3.留置権の消滅
- 留置権の消滅
- Sec.1
1留置権の消滅
留置権は物権の一般的消滅事由(たとえば、物の滅失・混同)や担保物権の一般的消滅事由(たとえば、弁済・時効消滅などの被担保債権の消滅)によって消滅するが、ここでは「留置権に特有な消滅事由」について取り上げる。
■留置権者の義務違反による消滅請求
留置権者が、民法298条1項の留置物に対する善管注意義務に違反したり、債務者の承諾なく留置物を使用・賃貸・担保に供したとき、債務者は留置権の消滅を請求することができる(民法298条3項)。
判例 | (最S38.5.31) |
留置権者に違反があったときは所有者はその違反行為が終了したか否か損害が発生したか否かを問わず、消滅請求ができる。 |
判例 | (最S40.7.15) |
留置物の第三取得者も消滅請求ができる。 |
判例 | (最H9.7.3) |
留置権者が留置物の使用または賃貸について承諾を受けていたときは、その後その物を譲り受けた新所有者は、留置権の消滅を請求することはできない。 |
■代担保の供与による消滅請求
債務者は、相当の担保を供して、留置権の消滅を請求することができる(民法301条)。
たとえば、30万円の車の修理代金の担保に、1000万円相当の高級外車を取られているような場合、債務者は30万円相当の別の担保を渡して、車を返してくれと請求できるのである。
ただ、代担保の供与により留置権を消滅させるためには留置権者の承諾が必要であるから、担保の提供に留置権者の承諾がない限り結局消滅請求はできないことになる。ただしこの場合でも留置権者が被担保債権の額に相当する担保の提供に応じなければ、債務者は留置権者の承諾に代わる裁判を得て留置権の消滅を請求することができる。
供与する担保は、人的担保でも物的担保でも構わない。
■目的物の喪失による消滅
① 留置権者が留置物の占有を失うと留置権は消滅する(民法302条)。
留置権の対抗要件は占有継続である。占有の喪失によって留置権は消滅するから留置権に基づく返還請求はできない。ただし占有を奪われた場合、占有回収の訴え(民法200条)によって留置物を取り戻せば、その間も占有を継続していたことになり、留置権は消滅しない。
詐取されて引き渡してしまったときは占有回収の訴えもできず、占有も失ってしまったわけだから留置権も消滅する。
② 留置権者が所有者の承諾を得て、留置物を賃貸・質入れしてもなお間接占有を有するので、留置権は消滅しない(民法302条ただし書)。
このように留置物を賃貸・質入れしても、留置権が自動的に消滅することはないが、その際に留置権者が債務者の承諾を得ていない場合は、債務者から留置権の消滅を請求される場合がある(民法298条3項 留置権者の義務違反による消滅請求)。