- 民法担保物権ー3.根抵当権
- 5.共同根抵当権
- 共同根抵当権
- Sec.1
1共同根抵当権
一口に共同根抵当権といっても、①狭義の「共同根抵当権」と、②「累積根抵当権」の2つの種類があり、その性質は大きく異なっている。一般的に共同根抵当権というと、①の狭義の「共同根抵当権」のことをさす。
■共同根抵当権
(1) 意義
「同一の債権の担保」として数個の不動産の上に根抵当権を設定する場合に、これを「共同抵当」の場合と同じく扱われるものとすることができる。これを「共同根抵当」という。共同根抵当権は、抵当権に関する民法392条および393条の規定が適用される(民法398条の16)。つまり、同時配当の際には不動産価格に応じて割付けがなされ、異時配当がおこなわれた際には、後順位抵当権者は次順位の代位をすることができる。
(2) 要件
次の2つの要件を具備した場合に限り共同根抵当となり、民法392条および393条が適用される。この要件を満たさなければ、次の「累積根抵当権」と扱われる。
① 同一の債権の担保として数個の不動産上に根抵当権が設定されたこと
すべての不動産上の根抵当権について、「債権の範囲」「債務者」「極度額」が同じでなければならない。
② 設定と同時に共同担保である旨の登記がされること
仮にすべての不動産の「債権の範囲」「債務者」「極度額」であっても、共同担保である旨の登記がなされなければ、共同根抵当権とはならず、次の累積根抵当権とされてしまう。「共同根抵当権」として、甲土地乙土地に根抵当権設定登記を申請する必要がある。
設定と同時に共同担保である旨の登記をしなければならないが、いったん単独の根抵当権を設定した後にそれと同一の債権を担保するために他の不動産に根抵当権を追加的に設定し、共同担保の関係にすることもできる。その場合、追加設定の際に共同担保である旨の登記をする。
(3) 登記
登記は、共同根抵当権を成立させるための要件であり、対抗要件ではない。
(4) 共同根抵当権が成立した場合の効果
複数の不動産を目的として共同根抵当権が成立したら、普通抵当の場合と同じく、すべての不動産を合わせて極度額を限度として優先弁済が受けられる。
前頁の事例でいうと、根抵当権者X銀行は、甲土地乙土地の競売代金から極度額1000万円を限度として優先弁済が受けられる。甲土地乙土地からそれぞれ1000万円の優先弁済を受けられるわけではない点に注意!
(5) 共同根抵当権の変更
共同根抵当権の担保すべき「債権の範囲」、「債務者」、「極度額」の変更またはその「全部譲渡」、「一部譲渡」は、その設定されているすべての不動産について登記をしなければ、その効力を生じない(民法398条の17第1項)。
■累積根抵当権
(1) 意義
複数の不動産に根抵当権を設定しても、「債権の範囲」「債務者」「極度額」の一部が異なっていたり、同一でも設定と同時に共同担保である旨の登記がなされなかった場合には、「共同根抵当権」とはならず、「累積根抵当権」となる(民法398条の18)。累積抵当権には抵当権に関する民法392条と393条は適用されないため、同時配当の際に割付けはなされず、異時配当がなされても後順位抵当権者は次順位の代位をすることもできない。累積根抵当権は、それぞれの不動産に別個独立の複数の根抵当権が設定されただけある。
(2) 累積根抵当権が成立した場合の効果
前頁の事例でいうと、根抵当権者X銀行は、甲土地乙土地の競売代金からそれぞれから極度額1000万円ずつ優先弁済を受けることができる。すなわち、「各不動産の代価について、各極度額に至るまで優先権を行使することができる。