• 民法担保物権ー3.根抵当権
  • 6.根抵当権の確定
  • 根抵当権の確定
  • Sec.1

1根抵当権の確定

堀川 寿和2021/12/27 10:40

元本の確定の意義

 根抵当権の元本の確定とは、根抵当権によって担保されるべき債権が最終的に確定することをいう。元本が確定した後は、その根抵当権の債権の範囲に属する債権が新たに発生した場合でも、その債権は根抵当権によって担保されない。確定した時点で債権の範囲に属していた未弁済の債権のみが担保される。元本の確定によって、根抵当権は特定債権を担保することになり、付従性・随伴性が回復する。しかし、極度額はなお生きており、利息・損害金については確定後に発生するものも極度額までは担保される。

元本確定事由

根抵当権は、民法で定める元本確定事由の発生によって確定することになる。



確定事由確定時期
(1)確定期日の到来確定期日の午前0時
(2)根抵当権者または債務者につき相続が開始した場合において、相続開始後6か月以内に民法398条の8の「合意の登記」をしなかったとき相続開始の時
(民法398条の8第4項)
(3)根抵当権者または債務者に合併があった場合に、設定者が確定請求をしたとき合併の時
(民法398条の9第4項)
(4)根抵当権者または債務者を分割会社とする会社分割があった場合に、設定者が確定請求をしたとき分割の時
(民法398条の10第3項)
(5)設定の時から3年を経過後に、設定者が確定請求をしたとき請求の時から2週間経過した時(民法398条の19第1項)
(6)根抵当権者が確定請求をしたとき請求の時(民法398条の19第2項)
(7)根抵当権者が抵当不動産について競売もしくは担保不動産収益執行または物上代位による差押えの申立てをしたとき申立ての時
(民法398条の20第1項1号)
(8)根抵当権者が抵当不動産に対して滞納処分による差押えをしたとき差押えがされた時
(民法398条の20第1項2号)
(9)第三者の申立てにより、抵当不動産の競売手続の開始または滞納処分による差押えがあったとき根抵当権者がその事実を知った時から2週間経過した時
(民法398条の20第1項3号)
(10)債務者または根抵当権設定者が破産手続開始の決定を受けたとき破産手続開始決定がされた時
(民法398条の20第1項4号)


(1) 確定期日の到来

 定められた確定期日の午前0時に確定する。登記は対抗要件であるため、確定期日の定めの登記がなされていなくても、当事者間では有効であり、元本確定の効力が生じる。


(2) 根抵当権者または債務者につき相続が開始した場合において、相続開始後6か月以内に民法398条の8の「合意の登記」をしなかったとき

 相続開始の時に元本が確定したものとみなされる。なお(債務者でない)設定者の相続は元本確定事由とされていない点に注意!


(3) (4) 根抵当権者または債務者に合併・会社分割があった場合に、設定者が確定請求をしたとき

 設定者たる債務者に合併・会社分割があった場合には確定請求をすることはできない(民法398の9第3項ただし書、398の10第3項)。

 また、設定者が合併・会社分割があったことを知った日から2週間を経過、または合併・会社分割の日から1か月経過したときは確定請求できない(民法398の9第5項、398の10第3項)。


(5) 設定の時から3年を経過後に、設定者が確定請求をしたとき

 根抵当権設定者は、根抵当権を設定した時から3年を経過したときは、根抵当権の元本の確定を請求することができる。この場合は、その請求の時から2週間を経過することによって元本が確定する。元本確定期日の定めがあるときは、この確定請求はできない


(6) 根抵当権者が確定請求をしたとき

 根抵当権者はいつでも根抵当権の元本の確定を請求することができる。設定から3年経過している必要はない。この場合、その請求の時に元本が確定する。元本確定期日の定めがあるときは、この確定請求はできない。


(7) 根抵当権者が抵当不動産について競売もしくは担保不動産収益執行または物上代位による差押えの申立てをしたとき

 ただし、競売手続きもしくは担保不動産収益執行手続きの開始または差押えがあった場合に限られるので、取下げを理由に競売手続もしくは担保不動産収益執行の手続きが開始されずまたは差押えがなされなかったときは、元本は確定しないことになる。これに対し、いったん競売手続きもしくは担保不動産収益執行が開始されまたは差押えがなされて元本が確定した後に、これらが取り消されたり取り下げられても、元本確定の効果は覆らない。つまり元本は確定したままである。


(8) 根抵当権者が抵当不動産に対して滞納処分による差押えをしたとき

 根抵当権者が国または地方公共団体の場合である。それ以外は基本的には(7)と同じ。

(9) 第三者の申立てにより、抵当不動産の競売手続の開始または滞納処分による差押えがあったとき

 根抵当権者以外の第三者の申立てによって抵当不動産に対する競売手続の開始または滞納処分による差押えがされた場合、根抵当権者がこれを知った時から2週間を経過したときに元本が確定する。

 しかし、その後に競売手続の開始や差押えの効力が消滅したときは、元本は確定しなかったものとみなされる(民法398の20第2項)。ただし、元本が確定したものとしてその根抵当権またはこれを目的とする権利を取得した者があるときは、この限りでない。

 つまり根抵当権者以外の第三者が当該不動産に競売手続の開始または滞納処分による差押えをしたことを根抵当権者が知って2週間経過した後に、元本確定後にしかできない処分行為(ex.根抵当権の順位譲渡・順位放棄・譲渡・放棄等)をし、その後に第三者による差押等が取消しや取下げによって失効しても元本確定の効果は覆らない。元本は確定したままである。



(10) 債務者または根抵当権設定者が破産手続開始の決定を受けたとき

 債務者または設定者が破産手続開始の決定を受けたときは、根抵当権の元本は確定する。根抵当権者の破産は元本確定事由とはされていない点に注意。

 その後に破産手続開始決定の効力が消滅したときは、元本は確定しなかったものとみなされる点は(9)の場合と同じである(民法398の20第2項)

 元本が確定したものとして、その根抵当権またはこれを目的とする権利を取得した者があるときは確定の効力がそのまま持続する点も(9)の場合と同じである(2項ただし書)。




確定の登記

 確定事由が生ずれば、元本は確定するが、この確定も一種の物権変動であるため、登記をしないと第三者に対抗できない。つまり登記は第三者対抗要件である。