- 民法担保物権ー2.抵当権
- 6.抵当不動産の第三取得者との関係
- 抵当不動産の第三取得者との関係
- Sec.1
1抵当不動産の第三取得者との関係
不動産に抵当権を設定した後でも、設定者は抵当不動産を第三者に譲渡したり、また第三者のために用益権を設定することもできる。しかし、その後に抵当権が実行されて、抵当不動産が競売されると、第三取得者は所有権を失い、また利用権者もその権利を失うことになる。
そこで、抵当権者の権利を不当に害さない範囲内で、抵当不動産の第三取得者や用益権者を保護するために、いくつかの規定が設けられた。
■代価弁済
(1) 意義
「代価弁済」とは、抵当不動産につき、所有権や地上権を買い受けた者がある場合に、抵当権者がその者に対し、売主に支払うべき売買代金を自己に支払えと請求し、第三取得者がそれに応じて代金を抵当権者に支払うと抵当権は消滅するという制度をいう(民法378条)。
代価弁済の規定は、不動産質権・不動産先取特権にも準用されている。
(2) 要件
① 第三者が抵当不動産について所有権または地上権を「買い受けた」こと
代価弁済できるのは、抵当不動産の所有権を買い受けた者(贈与は含まず!)と、抵当不動産上に地上権の設定を受けて、その期間の地代を最初に一括で支払う者である。定期に地代を支払う地上権者は地上権を買い受けたことにはならず、対価弁済することはできない。永小作権者や賃借権者は定期に地代を支払う必要があるため、代価弁済できない。
② 抵当権者からの請求があること
③ 所有権または地上権を買い受けた者が抵当権者の請求に応じて代価弁済すること
(3) 効果
抵当権は、その第三者のために消滅する(民法378条)。
① 所有権を買い受けた者が代価弁済した場合
抵当権は消滅する。よって抵当権者は抵当権を実行して競売することはできなくなる。
② 地上権を買い受けた者が代価弁済した場合
抵当権自体は消滅しないが、地上権は抵当権に対抗できる地上権となる。つまり、抵当権者は代価弁済後も抵当権を実行して競売することができるが、地上権は抵当権実行による競売がなされても消滅せず、存続することになる。
■抵当権消滅請求
(1) 意義
「抵当権消滅請求」とは、抵当不動産の第三取得者が当該不動産取得の対価または特に指定した金額の弁済または供託をすることによって抵当権を消滅させる制度である(民法379条)。
第三取得者からの請求による点で代価弁済と異なる。
(2) 抵当権消滅請求権者
① 消滅請求ができる者
(イ) 抵当不動産の所有権取得者
抵当権消滅請求ができるのは「抵当不動産の第三取得者」である(民法379条)。
ここでいう第三取得者とは、抵当不動産の所有権を取得した者に限られる。代価弁済の場合のように、有償取得である必要はないため、贈与によって抵当不動産を取得した者も消滅請求することができる。
抵当不動産の第三取得者に限られるため、地上権を取得した者から消滅請求することはできない点に注意。cf.代価弁済
同様の理由で、抵当不動産に賃借権の設定を受けた者も、消滅請求をすることはできない。
(ロ) 解除条件付・終期付所有権取得者
消滅請求できる。条件付、終期付であっても消滅請求時点で所有権を有する以上、認められる。民法381条の反対解釈。
② 消滅請求ができない者
(イ) 主たる債務者、保証人とこれらの者の承継人(相続人、債務引受人)
これらの者は全額弁済義務があり、第三取得者となっても消滅請求できない(民法380条)。
cf.代価弁済の場合は、保証人が第三取得者となった場合は可能である!
(ロ) 停止条件付・始期付第三取得者
抵当不動産の停止条件付第三取得者は、その停止条件の成否が未定である間は、抵当権消滅請求ができない(民法381条)。まだ確定的に権利を取得していないからである。
始期付第三取得者も同様と解される。
(ハ) 譲渡担保権者
譲渡担保権者は、譲渡担保権を実行して確定的にその不動産の所有者となった後でなければ、抵当権消滅請求をすることができない(最H7.11.10)。
(ニ) 抵当不動産の共有持分を取得した者
1個の不動産全体を目的として抵当権が設定されている場合に、その不動産の共有持分を取得した者は、自己の持分についての抵当権消滅請求をすることはできない(最H9.6.5)。
たとえば、Aが所有する甲土地を目的として、Cの抵当権が設定されている。その後、甲土地の所有権の一部2分の1をBが取得した場合、Bは自分が取得した持分について抵当権消滅請求をすることはできない。
(3) 抵当権消滅請求をすることができる時期
抵当不動産の第三取得者は、抵当権の実行としての競売による差押えの効力が発生する前に、抵当権消滅請求をしなければならない(民法382条)。
したがって、抵当権者が競売を申し立てた後、目的不動産を取得した第三取得者であっても、抵当権の実行としての競売開始決定による差押えの効力発生前までであれば抵当権消滅請求をすることができる。
(4) 抵当権消滅請求の手続き
抵当不動産の第三取得者が抵当権消滅請求をする場合、登記(仮登記を含む)をしたすべての債権者(抵当権者・不動産質権者・先取特権者)に対し、一定の内容を記載した書面を送付することを要する(民法383条)。
① 通知の相手方
登記をした各債権者、つまり登記を有するすべての債権者(抵当権のほか質権者等その他担保権者も含む)に対して通知をすることを要する。抵当権消滅請求の目的不動産の第三取得者は、目的不動産に複数の抵当権があるときに、その一部についてのみ抵当権消滅請求をすることはできない。
② 通知の内容
通知書に記載すべき事項は民法383条1号から3号までの事項であるが、その中で重要なのは、第三取得者が抵当権者に支払う金額(3号)である。
③ 抵当権消滅請求後の流れ
(イ) 登記した債権者が承諾しないとき
第三取得者が提示した金額に不満のある債権者は、上記の通知から2か月以内に競売の申立てをすることができ、いずれかの債権者が競売申立てをしたときは、抵当権消滅の効果は生じない。債権者がこの競売申立てをするときは、通知を受けた日から2か月以内に債務者および抵当不動産の譲渡人にその旨を通知しなければならない(民法385条)。
(ロ) 登記したすべての債権者が第三取得者の提供した代価または金額を承諾するとき
第三取得者が各債権者に対して、承諾を得た金額を払い渡しまたは供託をしたときは、各抵当権は消滅する。
(ハ) 承諾の擬制
抵当権者が抵当権消滅誚求の通知を受けた後、下記の事由がある場合は、第三取得者の提示した金額を承諾したものとみなされる(民法384条)。
(ⅰ) 抵当権者が抵当権消滅請求後2か月以内に抵当権を実行して競売の申立てをしないとき(1号)
(ⅱ) 競売申立てが取り下げられたとき(2号)
(ⅲ) 競売申立ての却下決定が確定したとき(3号)
(ⅳ) 競売手続きの取消決定が確定したとき(4号)(4号には一部例外あり!)
(5) 抵当権消滅請求の効果
登記をしたすベての債権者が抵当不動産の第三取得者の提供した代価または金額を承諾し、かつ、抵当不動産の第三取得者がその承諾を得た代価または金額を払い渡しまたは供託したときは、抵当権は消滅する(民法386条)。
判例 | (大S14.12.21) |
抵当権の消滅請求をしようとする抵当不動産の第三取得者が抵当権者に対して金銭債権を有する場合において、他に抵当権者がいないときは、第三取得者は、その金銭債権をもって消滅請求の代価の支払い債務と相殺することにより、消滅請求の代価の払渡し又は供託義務を免れることができる。 |
(6) 抵当権等の登記がある場合の買主による代金の支払の拒絶
買い受けた不動産について契約の内容に適合しない抵当権の登記があるときは、買主は、抵当権消滅請求の手続が終わるまで、その代金の支払を拒むことができる(民法577条1項前段)。この場合において、売主は、買主に対し、遅滞なく抵当権消滅請求をすべき旨を請求することができる(同後段)。
■抵当権に劣後する賃借権の地位
抵当権設定後に設定された貨借権は対抗要件を備えていても、その期間の長短を問わず、抵当権者および買受人に対抗できない。抵当権の実行に際してはそのような賃借権は存在しないものとして扱われ、買受人は賃借人に明渡しを求めることができる。しかし、抵当権の実行によって直ちに明渡しを求められることは賃借人にとって酷であることから、法は次の2つの賃借人保護規定を置いた。
Aが抵当権を実行し競売された場合、Bの賃借権は競落人乙に対抗できず、競売によって消滅することになる。Bの賃借権はAの抵当権に劣後するものであるからである。
Aが抵当権を実行し競売された場合、Bの賃借権は競落人乙に対抗でき、競売によって消滅しないことになる。Bの賃借権はAの抵当権に優先するものであるからである。よって競落人乙はBの賃借権の付いた土地の所有権を取得することになる。
(1) 抵当権者の同意による賃借権の存続
抵当権に後れる賃貸借は、抵当権者に対抗することができず、抵当権の実行による競売によって消滅する。しかし、抵当権が実行される前に、その賃貸借に優先する抵当権者全員が、当該賃貸借について抵当権に優先させることに同意し、かつ、その同意の登記をしたときは、当該賃貸借は同意をした抵当権者に対抗することができるとされた(民法387条)。この賃借権は、土地の賃借権、建物の賃借権のいずれも該当する。
上記のとおり登記がなされた後に抵当権者AまたはBが抵当権を実行し競売がなされ乙が買受人となった場合、抵当権に劣後するCの賃借権は競売により消滅することになるのが原則である。しかしあらかじめ抵当権者A、抵当権者B、賃借権者Cとの間で賃借権を抵当権に優先させる同意がなされ、その旨の登記をしておくとCの賃借権はその後の競売によって消滅せず、競落人乙に承継されることになる。つまり乙はCの賃借権の付いた所有権を取得することになる。
① 対抗力を付与するための要件
(イ) 賃借権について登記がされていること
賃借権について登記がされていることが必要である。登記のない賃借権についてはこの規定は適用できない。借地借家法による対抗要件では足りない。
(ロ) 賃借権に優先する抵当権者全員の同意があること
抵当権者がこの同意をするには、その抵当権を目的として権利を有する者など、その同意によって不利益を受ける者の承諾を得なければならない(民法387条2項)。たとえば、上記の図のAの抵当権の転抵当権者やBの抵当権の質権者等がいる場合、その者の承諾が必要である。
(ハ) 同意の登記がなされていること
この登記は単なる対抗要件ではなく、効力発生要件と解される。
② 効果
同意の登記がされたときは、当該賃貸借の賃借人は、自己の賃借権より先に登記された抵当権者に対抗することができる。つまり、抵当権が実行され、競売された場合でも当該賃借権は買受人に引き継がれる。
(2) 建物賃借人の引渡猶予
抵当権が設定された後でも、設定者は抵当不動産を第三者に賃貸し、第三者に抵当不動産を使用させることも問題ない。しかし、抵当権に後れる賃貸借は、抵当権者に対抗することができないので、抵当権が実行されて競売にかけられ、買受人が現れたときは、賃借人は買受人に対して抵当不動産を明け渡さなければならない。そうすると、抵当不動産の賃借人としては、いつ抵当不動産が競売され、追い出されるか分からないこととなり、その地位は極めて不安定といえる。そこで、賃借権者の居住権を保護するため、建物賃貸借の場合に限り、一定期間引渡しを猶予する規定を置いた(民法395条)。
① 引渡しの猶予が認められるための要件
(イ) 抵当権者に対抗することができない賃貸借により抵当権の目的である建物の使用収益をする者であること
抵当権者に対抗できる賃貸借であれば、そもそも引き渡す必要がないからである。
一定期間の居住権の保護が目的であるから、建物の賃借人に限られ、土地賃借人に明渡猶予は認められない。
(ロ) 原則として、競売手続が開始される前から当該建物を使用収益していること
実際には当該建物を使用していない形だけの賃借人には、引渡しの猶予を認めて保護する必要性がない。
このほか、強制管理または担保不動産収益執行の管理人が、競売手続の開始後に賃貸借をしたような場合は、抵当権の実行の妨害のおそれはないので、この賃借人には建物の引渡しの猶予が認められる(民法395条1項2号)。
② 引渡しの猶予の効果
その建物の競売における買受人の買受けの時から6か月を経過するまでは、その建物を買受人に引き渡すことを要しない(民法395条1項)。
「買受けの時」とは、競売における買受人が代金を納付した時をいう。競売による買受人が現れた時点で、当該賃貸借の存続期間がどれだけ残っているかに関係なく、6か月は引渡しが猶予される。また、競売手続の開始後、買受人が現れる前に賃貸借の期間が満了し、賃貸借契約が更新された場合も、6か月の引渡しの猶予が認められる。
③ 引渡猶予が認められない場合
明渡猶予期間中の建物使用の対価(賃貸借は終了しているので賃料とはいわない)につき、買受人が抵当建物使用者(もはや賃借人ではない)に対し、相当の期間を定めて、その1か月分以上の支払を催告し、その期間内に履行なき場合には明渡猶予は認められない(民法395条2項)。この建物使用の対価は不当利得の性質を有するものであり賃料ではなく、抵当目的建物の賃貸人から買受人への賃貸借の承継があるわけでもない。単に抵当建物使用者に買受人に対して一定期間建物引渡しの猶予を主張する権利を与えるにすぎないものである。