- 民法担保物権ー2.抵当権
- 7.抵当権の実行
- 抵当権の実行
- Sec.1
1抵当権の実行
■抵当権の実行方法
ある特定の債権を担保するために抵当権が設定された後、債務者が債務不履行の状態になったときは、抵当権者は抵当権を実行し、自己の債権について他の債権者に優先して弁済を受けることができる。抵当権の実行方法は、次の2つの方法がある。①の方法によることがほとんどである。
① 担保不動産の競売 | 抵当権の目的不動産を差押え、競売し、その売却代金から抵当権者が優先弁済を受ける方法。 |
② 担保不動産収益執行 | 抵当不動産を競売するのではなく、その不動産を裁判所選任の管理人に管理させ、その収益から抵当権者が優先弁済を受ける方法。 |
■担保不動産の競売
(1) 担保不動産の競売申立て
抵当権を実行し、担保不動産競売の方法で優先弁済権を実現するためには、まず、抵当権者が、担保不動産の所在地を管轄する地方裁判所に担保不動産の競売の申立てをする。
抵当権の実行をするのに、抵当不動産の所有者に対し、抵当権実行の通知等をする必要はない。
(2) 競売開始決定と差押え
抵当権者から担保不動産競売の申立てがされ、それが適法であるときは、裁判所は競売手続の開始の決定をする。そして、債権者のために不動産を差し押さえる旨を宣言する(民執188条→45条1項)。この決定は、債務者および抵当不動産の所有者に送達される(民執188条→45条4項)。そして、裁判所書記官の嘱託により、抵当不動産に差押えの登記がなされる(民執188条→48条)。差押えの効力は、競売開始決定が債務者に送達された時または抵当不動産に差押えの登記がされた時のいずれか早い時に生ずる(民執188条→46条1項)。
(3) 売却の実施
不動産の売却は、裁判所書記官が定める方法により行う。入札、競売りが原則である(民執188条→64条1項2項)。複数人から買受けの申し出があった場合、一番高値を付けた者に裁判所が売却許可をを出すことになり、同時に代金納付期日を定め、その期日までに代金を納付すれば所有権が買受人に移転する。原則として買受人は何の負担も付かない所有権を取得することになる。
(4) 売却代金の配当
買受人が納付した代金のうち、必要経費を差し引いた額については債権者に配当されることになる。抵当権者は、他の債権者に優先して配当を受けることができるが、その不動産に複数の抵当権者がいる場合には、その順位に従って配当がなされる。
(5) 買受人の制限
債務者は、抵当不動産の競売において買受人となることはできない(民執68条)。
それに対して、これ以外に買受人については制限がないので、抵当不動産の第三取得者や(民法390条)物上保証人は、買受人になることができる。
(6) 抵当不動産の第三取得者による費用の償還請求
抵当不動産の第三取得者は、抵当不動産について必要費または有益費を支出したときは、196条に従って、抵当不動産の代価から、他の債権者より先にその償還を受けることができる(民法391条)。
判例 | (最S48.7.12) |
抵当不動産の第三取得者が、抵当不動産につき必要費または有益費を支出して民法391条にもとづく優先償還請求権を有しているにもかかわらず、抵当不動産の競売代金が抵当権者に交付されたため、第三取得者が優先償還を受けられなかったときは、第三取得者は抵当権者に対し民法703条にもとづく不当利得返還請求権を有するものと解するのが相当である。 |
■担保不動産収益執行
(1) 意義
抵当権を実行する場合、抵当不動産を競売するのではなく、裁判所選任の管理人に抵当不動産を管理させ、その収益(賃料等)から優先弁済を受けることもできる。これが担保不動産収益執行である。
(2) 手続き
担保不動産収益執行も、抵当権の実行方法の1つであるから、その手続は担保不動産の競売の場合と同じような流れになる。
抵当権者から担保不動産収益執行の申立てがされ、それが適法であるときは、裁判所は担保不動産収益執行の開始決定をし、不動産を差し押さえる旨を宣言する。また、不動産の所有者に対し、収益(賃料等)の処分を禁止するとともに、賃借人に対し、以後は賃料を管理人に支払うべきことを命ずる(民執188条→93条1項)。執行裁判所は、開始決定と同時に管理人を選任する(民執188条→94条1項)。管理人が、賃借人から賃料を受け取ったときは、これを抵当権者に配当する(民執107条)。