• 民法担保物権ー2.抵当権
  • 3.抵当権の効力
  • 抵当権の効力
  • Sec.1

1抵当権の効力

堀川 寿和2021/12/23 16:07

抵当権の効力が及ぶ目的物の範囲

 抵当権は、抵当地の上に存する建物を除き、その目的である不動産(以下「抵当不動産」という。)に付加して一体となっている物に及ぶ(民法370条)。建物は土地の上にあるが、土地に抵当権を設定しても、建物には抵当権の効力は及ばない。建物に抵当権の効力を及ぼすためには、別途建物を目的として抵当権を設定する必要がある。

 では、民法370条でいう「付加して一体となっている物(付加一体物)」とは何か?この付加一体物に民法242条の付合物が含まれることに争いはないが、民法87条の従物が含まれるか否かについては争いがある。


(1) 付合物(民法242条)

 付合物とは、その不動産に従として付合した物をいう。その不動産の構成部分となって独立性を失っているものである。

 ex.土地の付合物→取外しが困難な庭石、土地に植えられた立木(立木法の適用を受けないもの)

 建物の付合物→雨戸、建物の入り口の戸扉

① 原則

 これらの付合物には、付合の時期を問わず当然に抵当権の効力が及ぶ。建物を目的として抵当権を設定した場合には、その建物の雨戸や戸扉にも抵当権の効力が及ぶ。抵当権を設定した時に既に付合物となっていたものだけでなく、抵当権が設定された後に不動産に付合された物にも、抵当権の効力が及ぶ。

② 例外

 付合物でも以下の場合は抵当権の効力が及ばない。

(イ) 設定契約で別段の定めがあったとき(民法370条ただし書前段)。

(ロ) 抵当権設定者が他の債権者を害することを知りながら付合行為をして、抵当権者もそれについて悪意の場合(民法370条ただし書後段)。

(ハ) 抵当不動産の所有者以外の者が権原によって附属させた物

 たとえば、土地に設定された抵当権は、その土地の地上権者が植栽した樹木には及ばない。

(2) 従物(民法87条)

 従物とは主物の常用に供するために附属させたもので、附属させられても独立性を失わない点において付合物と異なる。

 ex.土地の従物→取外しの容易な庭石、石灯籠、建物の従物→障子、ふすま、畳、クーラー

① 抵当権設定当時の従物

 従物は付加一体物に含まれないが、抵当権設定当時存在する従物は、「従物は主物の処分に従う」とする民法87条2項によって抵当権の効力が及ぶ(大T8.3.15、最H2.4.19)。


判例

(最H2.4.19)

借地上のガソリンスタンドの店舗建物に対する抵当権は、設定当時から存在している地下タンク、洗車機などの従物たる設備に及ぶ。


② 抵当権設定後の従物

 抵当権を設定した後に備え付けられた従物については、かつて、これには抵当権の効力は及ばないとする判例(大T5.12.18)もあったが、その後及ぶとするものも多く、はっきりしない。一方、学説上では、抵当権設定前後を問わず、従物にも抵当権の効力が及ぶことについてほぼ異論はない。


抵当権の効力が及ぶ目的物の範囲 まとめ(判例)


抵当権設定前抵当権設定後
附合物及ぶ及ぶ
従物
及ぶ
(民87②)(大T8.3.15、最H2.4.19)
*(争いあり)


(3) 従たる権利

 抵当権の効力は従たる権利に及ぶ。したがって抵当建物につき競売がなされると、競売の買受人は敷地上の利用権も取得する。


判例(最S40.5.4)
土地賃借人が賃借土地上に所有する建物について抵当権を設定した場合には、特段の事情がない限り、抵当権の効力は建物の所有に必要な賃借権にも及ぶ。


(4) 果実

 抵当権は、その担保する債権について不履行があったときは、その後に生じた抵当不動産の果実に及ぶ(民法371条)。抵当権の被担保債権について債務不履行があるまでは、果実に抵当権の効力は及ばない。この果実には、天然果実と法定果実の双方が含まれる。


抵当権によって担保される債権の範囲 cf.質権

 抵当権者は、利息その他の定期金を請求する権利を有するときは、その満期となった最後の2年分についてのみ、その抵当権を行使することができる(民法375条1項)。

 前項の規定は、抵当権者が債務の不履行によって生じた損害の賠償を請求する権利を有する場合におけるその最後の2年分についても適用する。ただし、利息その他の定期金と通算して2年分を超えることができない(民法375条2項)。


(1) 優先弁済を受ける範囲

① 元本

 全額が担保される。

② 利息・定期金

 利息・定期金については、「満期となった最後の2年分」に限られる。定期金とは、地代・家賃などが挙げられる。地代・家賃債権を被担保債権として抵当権が設定された場合、抵当権者は最後の2年分の地代・家賃につき優先弁済を受けられることになる。

③ 遅延損害金(遅延利息)

 「債務の不履行によって生じた損害の賠償」というのは、遅延損害金のことである。弁済期に弁済できなかったことに対するペナルティーである。遅延損害金も最後の2年分に限定される。しかも②の利息・定期金と合算して2年分に限定される。


(2) 利息の特別登記

 上記のとおり、利息その他の定期金、遅延損害金は、合算して満期となった最後の2年分についてのみ抵当権に基づいて優先弁済を受けることができるのが原則である。

 ただし、満期となった後に特別の登記をしたときは、その額については抵当権に基づいて優先弁済を受けることができる(民法375条1項ただし書)。


(3) 2年分の制限が働かない場合

 民法375条で利息や損害金についての優先弁済の範囲が制限されているのは、後順位抵当権者や一般債権者との利害の調整を図る趣旨である。そのため、後順位抵当権者等がいない場合には、その調整を図る必要もないので、最後の2年分という制限はなくなる。よって抵当権者は、利息や損害金の全額について、抵当権に基づいて優先弁済を受けることができる。


(4) 任意弁済による抵当権消滅の弁済額

 債務者が自分の不動産に抵当権を設定した場合、元本のほか利息や損害金の全額を弁済しなければ、抵当権は消滅しない。

 また物上保証人や抵当不動産の第三取得者との関係でも、利息や損害金の全額の弁済がなければ、抵当権は消滅しない(大T4.9.15)。つまり、元本と最後の2年分の利息・損害金を弁済したから抵当権を消せとは言えないということである。


物上代位

(1) 意義

 「物上代位」とは、担保物権の目的物の売却、賃貸、滅失・損傷により債務者(目的物の所有者)が受け取るべき「金銭その他の物」にも担保物権の効力が及ぶことをいう。先取特権についての規定が抵当権にも準用される(民法372条→304条)。



(2) 物上代位の目的物

① 抵当権の目的物が滅失等した場合の損害賠償債権

 たとえば、AのBに対する1000万円の貸金債権を担保するため、Bの所有する甲建物に抵当権が設定されたが、その後火災により甲建物が焼失してしまった。幸いBは甲建物に火災保険を掛けていたので、保険会社に対して1500万円の保険金請求権がある。

 この場合、抵当権者AはBの保険会社に対する保険金請求権に対して物上代位することができる。

② 売却代金

 ①の例で、Bが抵当建物をCに売却した場合、Aの抵当権は引き続き存続するが、AはBがCから受け取る売買代金に物上代位することもできる。

③ 賃料

 ①の例で、Bが抵当建物をDに賃貸した場合、AはBがDから受け取る賃料に物上代位することもできる(最H1.10.27)。ただし、抵当権はその担保する債権について不履行があった場合に初めて、抵当不動産の果実に効力を及ぼすことができる(民法371条)ため、抵当不動産から生じる賃料に物上代位権を行使するのは、被担保債権に債務不履行が生じた後でなければならない。

< 敷金の交付がある場合 >

 抵当権者が、賃料債権に対して物上代位による差押えをしたが、賃貸借契約が終了し、目的物が賃貸人に明け渡されたときは、残存する賃料債権は敷金が存在する限度において敷金の充当により当然に消滅するのであり、その消滅をもって抵当権者に対抗することができる(最H14.3.28)。つまり、抵当権者は敷金が充当されて消滅してしまった賃料には物上代位できないことになる。

④ 転借料

 さらにDが抵当建物をEに転貸した場合、抵当権者Aは、EがDに支払う転借料に物上代位することは原則としてできない(最決H12.4.14)。

⑤ 買戻代金

 買戻特約のある不動産を目的として抵当権を設定した場合に、後に買戻権が行使されたときは、抵当権者は、買主の売主に対する買戻代金に物上代位をすることができる(最H11.11.30)。

(3) 物上代位権行使の要件

① 差押え

 抵当権者が物上代位権を行使するためには、払渡しまたは引渡しの前に、差し押さえなければならない(民法372条→304条1項ただし書)。抵当権者は、物上代位の目的である債権が第三者に譲渡され、その対抗要件(通知または承諾)が備えられた後であっても、自らその債権を差押えて物上代位権を行使することができる(最H10.1.30)。

② 差押えの意義

 物上代位権を行使するために差押えを要求する趣旨について、「特定性維持説」「優先権保全説」「第三債務者保護説」の3つの説がある。それぞれの説によって、差押えを要求する趣旨や抵当権者自らが差押えをする必要があるか否かなど結論が異なってくる。