• 民法物権ー4.所有権
  • 2.所有権の取得
  • 所有権の取得
  • Sec.1

1所有権の取得

堀川 寿和2021/12/23 14:14

所有権の取得原因


原始取得

(1) 無主物の帰属(無主物先占)

 所有者のない動産は、所有の意思をもって占有することによって、その所有権を取得する(民法239条1項)。

 

要件は次のとおり。

所有者のない物であること

 たとえば、野生動物、海洋の魚介類、所有者が所有権を放棄した動産などである。

動産であること

 所有者のない不動産は国庫に帰属するため(民法239条2項)、動産に限られる。

所有の意思をもって占有すること


判例(大T14.6.9)
野生のたぬきを追跡して狭い岩穴の中に追い込み石塊でその入口をふさぎ逃げることができないようにしたときは先占が成立する。


(2) 遺失物の拾得

 「遺失物」とは、占有者の意思によらずその所持を離れた物をいう。遺失物を拾得した者は、遺失物法の定めるところに従い公告をした後3か月以内にその所有者が判明しないときは、これを発見した者がその所有権を取得する(民法240条)。遺失物拾得による所有権の取得の規定である。

 要件は次のとおり。

遺失物またはこれに準ずる物であること

拾得すること

 単なる発見では足りず、占有が必要である。先占の場合と違って所有の意思は不要である。

遺失物法の定めるところに従い公告をした後、3か月以内にその所有者が判明しないこと

(3) 埋蔵物発見

 「埋蔵物」とは、土地その他の物(包蔵物)の中に埋蔵されて、その所有権が何人に属するかを判別できない物をいう(最S37.6.1)。発見者は、原則として遺失物と同じ手続により、公告後6か月以内に所有者が判明しないときは、その所有権を取得する(民法241条)。

 要件は次のとおり。

埋蔵物であること

 占有者の意思によらずに占有を離れた物である。盗品は含まれない。

発見したこと

 発見で足り、必ずしも占有を取得することを要しない。

遺失物法の定めるところに従い公告をした後、6か月以内にその所有者が判明しないこと


 上記①~③の要件が備わると、発見者は埋蔵物の所有権を取得する。ただし、他人の所有する物の中から発見された埋蔵物については発見者とその他人が等しい割合でその所有権を取得する(民法241条)。


添付

 今まで存在した物に、所有者を異にする物が加わったり、人の労力が加わったりして新たな物が生じることがある。これを無理に元に戻すことは不可能であったり、壊れてしまったりして不都合である。そこで誰か1人の所有に帰属させて、他の者へは償金を支払うことにしよって公平を図った。これが添付の制度である。新たに生じた物の所有権取得だから、添付による所有権取得は「原始取得」である。添付には、その態様に応じて「付合」、「混和」、「加工」の3つがある。



(1) 付合

 「付合」とは、所有者を異にする2個以上の物が結合して、1つの物になることをいう。

① 付合の態様



② 不動産の付合

(イ) 土地の付合(土地+動産)

 土地に他人の動産が結合して、一体化するか、または仮に分離できたとしても社会経済上、著しく不利益となる程度に結合することである。たとえば、他人の土地に種を蒔いてできた農作物等である。

a) 効果

 原則として、土地の所有者が付合した物(動産)の所有権を取得する。

ただし、他人が権原により動産を附属させたときは、付合せず、附属させた者の所有に留まる(民法242条)。権原とは、地上権、永小作権、賃借権等の法律上正当な原因のことをいう。

b) 償金請求権

 所有権を失った動産所有者は、付合により動産所有権を取得した不動産所有者に対して償金を請求することができる(民法248条)。

(ロ) 建物の付合(建物+動産)

 建物に所有者以外の者が増改築をしたような場合である。

 原則として、建物の所有者が付合した増改築部分の所有権を取得する。

 ただし、1.増改築をした者に権原があり、さらに2.その増改築部分に独立性がある場合には、その増改築者に所有権が留保される。区分建物として構造上、利用上の独立性を備えているような場合には、独立性が認められる。したがって、たとえば建物賃借人が賃借建物にベランダを造り付けたような場合には、独立性を有さず、建物の構成部分になってしまうため、建物所有者にベランダの所有権は帰属することになる。


判例(最S38.5.31)
増築部分が建物と別個独立の存在を有せず、その構成部分となっている場合には、その増築部分は当該建物の所有者に帰属する。
 
判例(最S44.7.25)
建物賃借人が賃貸人の承諾を得て賃借建物の上に新たな建物を自己の費用で増築したが、当該増築部分へは外部から直接の出入りが困難なときは、当該増築部分は構造上の独立性を有さず、区分所有権の対象とならないから民法242条ただし書の適用はなく、増築部分の所有権は建物所有者に属する。

③ 動産の付合(動産+動産)

 「動産の付合」とは、所有者を異にする数個の動産が結合して、損傷しなければ分離することができないか、または分離するのに過分の費用を要する場合をいう。

(イ) 付合した動産に主従の区別ができるとき

 主たる動産の所有者が合成物の所有権を取得する(民法243条)。

 所有権を失った動産所有者は、所有権を取得した者に対して償金を請求することができる(民法248条)。

 動産の付合の場合は、不動産の付合の場合のような権原のある者が付属させた物の所有権がその者に留保されるといった特例はない。主たる動産の所有者に帰属する。

(ロ) 主従の区別ができないとき

 各動産の所有者は、その付合の時における価格の割合に応じてその合成物を共有する(民法244条)。

(2) 混和

 「混和」(混合・融和)とは、各別の所有者に属する物が混じり合って識別することができなくなることをいう。混合は、米、穀物などの固形物が、融和とは、酒、醤油、ガソリンなどの流動物が混ざった場合をさす。

① 要件

 所有者を異にする物が混和して、識別することができなくなること。


② 効果

 混和は動産の付合の一種であるため、動産の付合と同じく扱う。

(イ) 混和した物に主従の区別ができるとき

 主たる混和物の所有者が所有権を取得する(民法245条→243条)。

所有権を失った混和物の所有者は、所有権を取得した者に対して償金を請求することができる(民法248条)。

(ロ) 主従の区別ができないとき

 混和したの時における価格の割合に応じてその混和物を共有する(民法245条→244条)。


(3) 加工

 「加工」とは、他人の動産に工作を加え、材料と同一性のない別の新たな物を作り出すことをいう。有名デザイナーが他人の所有する布で洋服を仕立てたような場合である。

① 要件

(イ) 他人の動産に工作を加えること

 加工の規定(民法246条)は、動産の加工のみである。不動産に加工した場合には246条の適用はなく、加工物は243条によって常に不動産所有者に帰属する。したがって、他人所有の未だ不動産となる前の建物(建前)に加工して建物に仕上げた場合には、243条ではなく、加工に関する246条2項によって所有権の帰属が決まる(最S54.1.25)。

(ロ) (イ)によって新たな物が生じたこと

 新たな物としなければ加工とはいえないため、貴金属品の原形を変じて金塊とした場合には加工には当たらない(大T4.6.2)。


② 効果

(イ) 原則

 加工物の所有権は材料の所有者に帰属する(民法246条1項)。

(ロ) 例外

 次の2つの場合は、加工者が加工物の所有権を取得する。

a) 工作によって生じた物の価格が材料の価格を著しく超えるとき(246条1項ただし書)

 加工物の所有権は加工者に帰属する。たとえば、有名料理人が他人の食材で豪華な懐石料理を作ったような場合である。

b) 加工者も材料の一部を供したとき

 加工者の供した材料の価格+工作によって生じた価格が、他人の材料の価格を超えるとき(単に超えればよく、著しく超えることは要しない!)(246条2項)

③ 償金請求権

 所有権を取得した材料の所有者または加工者は、他方に対し、償金を支払わなければならない(民法248条)。


(4) 付合、混和、加工と第三者

① 付合、混和、加工の規定により、従たる動産の所有権が失われると、従たる動産の上に成立していた第三者権利も消滅する(民法247条1項)。その代わり、第三者は従たる動産の所有者が取得する償金に権利を及ぼしてゆくことができる。

② 合成物、混和物または加工物の単独所有者となったときは、第三者の権利はその物の上に存続し、共有者となったときは、共有持分の上に存続する。