- 民法物権ー3.占有権
- 3.自主占有と他主占有
- 自主占有と他主占有
- Sec.1
1自主占有と他主占有
■自主占有と他主占有
意 義 | |
自主占有 | 所有の意思をもってする占有 |
他主占有 | 所有の意思のない占有 |
両者の違いは、占有を生じさせた原因たる事実(権原)の性質によって客観的に判断される(最S45.6.18)。したがって、買主・盗人は所有の意思を有し自主占有者とされるが、賃借人、受寄者は常に所有の意思を有しないため他主占有者とされる。権原の性質上、いずれとも判断できないときは、民法186条1項の規定により、占有者は所有の意思をもって占有するもの、つまり自主占有と推定される。
判例 | (最S45.6.18) |
占有における「所有の意思」の有無は、占有取得の原因たる事実ないし権原により外形的客観的に定められる。たとえば物の買受人や盗人などは、そのことだけで自主占有者となり、賃借人や受寄者などの占有代理人は当然に他主占有者となる。これは仮に売買や賃貸借が法律上効力を生じない場合であっても同様である。 |
判例 | (最S60.3.28) |
解除条件付売買契約に基づく買主の占有は自主占有であり、解除条件が成就しても当然に自主占有でなくなるものではない。 |
(1) 自主占有と他主占有の区別の実益
時効取得(民法162条以下)、無主物先占(民法239条)、占有者の責任の区別(民法191条)等において違いが生ずる。
(2) 他主占有から自主占有への転換
次の2つの事由のいずれかがある場合、他主占有は自主占有に変わる。
① 他主占有者が、自己に占有をさせた者に対して「所有の意思があることを表示」したとき(民法185条前段)
たとえば、賃借人が賃貸人に対して、「自分のものだ!」と主張したような場合である。
ただし、現に存在する賃貸借関係の解消という事実が必要であり、自分のものだと言いながら、賃料を払い続けているだけでは足りない。
② 他主占有者が、「新たな権原」により更に所有の意思をもって占有を開始したとき(民法185条後段)
たとえば、賃借人が賃貸人から、賃借物を買い取ったような場合である。買い取ったという行為自体が重要であるため、売買契約が結果的に無効であってもかまわない。占有は事実的支配の問題であり、所有権の移転とは何ら関係がないからである。
判例 | (最S52.3.3) |
農地の賃借人が農地を買い受け、その代金を支払ったときは、農地法所定の許可が得られていなかったとしても、185条後段が適用される。 |
<占有の相続と新権原>
占有も相続により承継される(最S44.10.30)が、相続が185条後段でいう「新たな権原」に当たるか?
つまり被相続人の占有が他主占有であっても、相続人が相続によって取得する占有が自主占有に転換する余地があるか?
A所有の土地を賃借していたBが死亡しCが相続したが、CはこれをB所有の土地であると信じて長年使用を継続した場合、CはA所有の土地を時効取得できるか否かの問題である。
旧判例(大S6.8.7)は、被相続人Bが他主占有である以上、Cが相続により取得する占有も他主占有であるとして自主占有への転換を否定していたが、その後判例(最S46.11.30)はこれを肯定するに至り、相続人が被相続人の死亡により相続財産の占有を承継したばかりでなく、①新たに相続財産を事実上支配することにより占有を開始し、②その占有に所有の意思があると認められる場合には相続人は「新たな権原」により所有の意思のある占有を始めたものであるとした。
所有の意思があると認められ、「新たな権原」となるためには、内心における所有の意思では足りず、目的物の管理使用を専行し、公租公課を自己の名義で負担し、土地所有者がこれに対し何らの異議も述べないなど、外形的客観的に所有の意思の存在が認められることが必要である(最S47.9.8)。
■その他の占有の態様
(1) 善意占有・悪意占有
区別の実益は、取得時効(162条、163条)、占有者の果実取得の可否(189条)、占有者による損害賠償の範囲(191条)、占有者による費用償還請求権(196条)、即時取得(192条)などで現れる。占有者が善意か悪意か不明なときは、186条1項により占有者は善意で占有するものと推定される。
意 義 | |
善意占有 | 占有すべき権利(本権)がないにもかかわらず、本権があると誤信してする占有 |
悪意占有 | 占有すべき権利(本権)がないことを知り、または本権の有無に疑問を持ちながらする占有 |
(2) 過失ある占有・過失なき占有
区別の実益は、取得時効(162条、163条)、即時取得(192条)などで現れる。
意 義 | |
過失ある占有 | 本権があると誤信したことにつき、過失がある占有 |
過失なき占有 | 本権があると誤信したことにつき、過失がない占有 |
判例 | (最S43.3.1) |
登記記録に基づいて実地に調査をすれば容易に知ることができたのに、この調査をしなかったために、他人の土地を自己の所有に属するものと信じて占有を始めたときは、過失ありといえる。 |
(3) 瑕疵ある占有・瑕疵なき占有
区別の実益は、取得時効(187条2項)、即時取得(192条)などで現れる。
意 義 | |
瑕疵なき占有 | 平穏・公然・善意・無過失・継続の占有 |
瑕疵ある占有 | 強暴・隠秘・悪意・有過失・不継続のいずれかの占有 |
(4) 単独占有・共同占有
意 義 | |
単独占有 | 1つの物について1人が占有する場合の占有 |
共同占有 | 1つの物について数人が共同して占有する場合の占有 |
判例 | (最S47.9.8) |
共同相続人の1人が、単独に相続したものと誤信し、相続開始とともに相続財産を占有し、公租公課もその負担において納入し、これについて他の相続人が何ら関心を持たず、異議を唱えた事実もなかった場合には、当該共同相続人の1人はその相続の時から、相続財産について単独所有者としての自主占有を取得する。 |
(5) 自己占有・代理占有
意 義 | |
自己占有 | 占有者本人が自ら物を所持してなす占有 |
代理占有 | 本人が他人(占有代理人)の占有を通じて取得する占有 |
① 代理占有の成立要件
a) 占有代理人が所持を有すること。
b) 占有代理人が本人のためにする意思(占有代理意思)を有すること。
「本人のためにする意思」と「自己のためにする意思」は併存してもよい。
c) 本人と占有代理人との間に「占有代理関係」が存在すること。
賃貸借、使用貸借、寄託、運送契約、質権設定、法定代理(大S6.3.31)などに基づく所持にかかる関係が認められる。この関係はすべて外形的に見るべきだから、賃貸借契約終了後はもちろん、賃貸借契約が初めから無効であっても事実上賃貸借が行われていれば代理占有関係は成立する。
② 代理占有の効果
a) 代理占有の結果、本人が占有権(間接占有権)を取得する。
b) 代理占有(間接占有)において、占有の善意悪意、占有の侵奪の有無等は、一次的には現実に支配する占有代理人について判定すべきである(大T11.11.27)。
ただし、本人が悪意であるときは占有代理人が善意でも本人は善意占有者としての保護は受けられない。かかる本人を保護すべき理由はないからである。
c) 占有代理人に対する第三者の権利行使は、同時に本人に対する権利の行使となる(大T10.11.3)。たとえば、占有代理人に対して時効の完成猶予または更新のための措置をとれば、その効果は本人にも及ぶことになる。
(6) 占有代理人・占有補助者
① 代理占有と占有補助者の差異
意 義 | |
占有代理人 | 独立の占有(所持)を有する |
占有補助者(*1) | 独立の占有(所持)を有しない |
(*1)ex.店員、お手伝いさん、株式会社の代表取締役(会社名義の土地につき)
② 占有補助者の意義
店員等は物を物理的には把持するが、社会観念上独立した支配を有するといえず、それはもっぱら本人である店主等に存する(最S35.4.7)。このような本人の事実的支配の道具ないし機関にすぎないと考える者を「占有補助者」ないし「占有機関」という。占有補助者に占有はなく、占有権もないため民法の占有に関する規定は適用されない。占有代理人と占有補助者の区別の実益は後述する占有回収の訴えの被告になるか否かにある。