• 民法物権ー3.占有権
  • 4.占有の効果
  • 占有の効果
  • Sec.1

1占有の効果

堀川 寿和2021/12/23 13:38

権利の推定

 占有物を占有する者は、占有をなすべき権利(本権)に基づき適法に占有するものと推定される。

(民法188条)

 これを「権利の推定」という。推定される「占有物について行使する権利」とは占有を正当ならしめる権利(本権)のことであり、占有者は本権を有するものと推定される。


(1) 推定が働く時的範囲

 民法188条が適用されるのは現在の占有者についてだけでなく、過去に占有していた者も占有していた間、その占有により推定される権利を適法に有していたものと推定されると解される。


(2) 推定が働く場面

 188条の推定は、権利の存在や帰属について適用されるものであり、権利変動(所有権の取得や地上権・賃借権の設定等)については適用されない(最S35.3.1)。

 よって、動産の占有者が、その動産の所有者である旨を主張する者から所有権に基づいて返還請求された場合、その者から動産所有権を譲り受けた旨の主張をするときは、本条を援用することはできず、売買契約等の存在やその有効性を立証しなければならない。


判例(最S35.3.1)
民法188条の推定は、権利の存在ないし帰属の推定であり、これによって所有権移転等の権利変動が推定されるわけではない。そこで占有者と目的物の所有者であると主張する者との間で譲渡契約の存否や有効性が争われている場合に、占有者が占有していることによって所有権移転という物権変動が生じたことは推定されない。売買等相手方との契約に基づいて権利を有すると主張する者は、その相手方に対しては民法188条の推定規定を援用できず、譲渡による所有権移転を主張するためには、売買契約等の存在や有効性を一般原則に従い立証しなければならない。



善意占有者の果実取得権

(1) 意義と趣旨

 善意の占有者は占有物より生ずる果実を取得する(民法189条)。これを「善意占有者の果実取得権」という。果実を取得する権利がないのにあると誤信して元物を占有している者は、果実を取得して消費するのが普通であり、あとで本権者からその返還ないし代償を請求できるとすれば酷であるところから返還の必要はないとした。たとえば、Aが甲所有の土地を自分の土地だと勘違いして占有していた場合つまり善意占有の場合、Aはその土地の木になったみかんを自分の物にできるということである。本来なら、そのみかんの所有権は真の所有者甲のものであるから、Aは甲に対して不当利得(民法703条)として返還しなければならないはずであるが、さすがにそれではAが気の毒であるので、民法189条に特則を置いた。


(2) 要件

 果実取得の要件は、「善意の占有者」であることである。ここでいう「善意の占有者」とは果実収取権のある本権(ex.所有権、地上権、永小作権、賃借権、不動産質権など)を有すると誤信した占有者を指す。果実を取れない本権(たとえば動産質権、留置権など)があると誤信した者は含まない。これらの者はもともと果実収得権がないのだから、それがあると誤信したとしても189条の適用はなく、果実取得権は認められない。善意の占有者であれば、過失の有無を問わず保護される(大T8.10.13)。


(3) 効果

 善意占有者は「果実を取得する。」取得される果実には「天然果実」のみならず「法定果実」も含む。


悪意占有者の果実返還義務

① 意義と趣旨

 悪意の占有者は、果実を返還し、かつ、既に消費し、過失によって損傷しまたは収取を怠った果実の代価を償還する義務を負う(民法190条)。

② 要件

 「悪意の占有者」であることである。果実収取権のない本権なのにこれがあると誤信した者も悪意占有者と同様に取り扱われる。

③ 効果

悪意占有者は果実を返還しなければならない。消費し、過失により損傷し、収取を怠っていたときはその代価を償還しなければならない。

④ 悪意の擬制

 善意の占有者であっても、本権の訴えにおいて敗訴したときは、その「訴えの提起の時」から悪意の占有者とみなされる(民法189条2項)。

⑤ 強暴・隠避な占有

 暴行もしくは強迫または隠匿によって占有をしている者は保護に値しないから、たとえ善意であっても、果実の取得については悪意の占有者と同じく扱われる(民法190条2項)。