• 民法物権ー2.物権の変動
  • 4.明認方法
  • 明認方法
  • Sec.1

1明認方法

堀川 寿和2021/12/23 11:26

明認方法の意義

「明認方法」とは、立木やみかん、桑葉、稲立毛などの未分離果実が土地とは独立して取引された場合に、その所有権取得を第三者に対抗するために判例によって認められた特殊な公示方法をいう。

 本来、土地が譲渡されれば、土地上の立木等も土地の一部として、土地所有権の移転登記によって公示される。しかし、それらが、土地とは独立した物として取引された場合には、土地の登記とは別の対抗要件が必要となり、それが「明認方法」である。


明認方法の態様

(1) 立木の明認方法

 判例上認められた立木の明認方法としては、

① 立木の皮を削り所有者名を墨書または焼印する(大T10.4.14)

② 樹木に極印を打ち込み標札を立てる(大T3.8.1)

③ 薪炭用立木の買主が山林内に薪炭製造設備を設けて製炭業に従事する(大T4.12.8)

などがある。

 単に伐採に着手するだけ(大T8.5.26)、立木の引渡しをするだけ(大M38.2.13)では足りない。


(2) 未分離の果実の明認方法

 取得者の氏名を表示した立札を立てることが通常行われる方法である。


明認方法の対抗力

(1) 明認方法で公示される物権の種類

 明認方法のような不完全な公示方法によって複雑な権利関係は公示できないので、明認方法によって公示できる物権は所有権に限られる。


(2) 明認方法の対抗力

 明認方法は登記と同等の対抗力をもつ。したがって明認方法を施しておけば登記をした権利者にも対抗できることになる。ただし、明認方法によって対抗力が得られるのは、土地と立木が別々に処分された場合である。土地と立木共に処分した場合は、原則通り土地の登記が立木についても対抗要件となる。よって明認方法は、土地だけ処分した場合または立木だけ処分した場合の対抗要件ということになる(cf.(2)⑤の場合)。

① 立木の二重譲渡の場合、先に明認方法を施した方が勝つ(大T10.4.14)。どちらも明認方法を施していない場合は互いに優先を主張することができない。



② 土地の所有者Aが立木のみをBに譲渡し、土地と共に立木もCに譲渡した場合、立木については二重譲渡があったことになり、Bの明認とCの登記の早い方が勝つ。



③ 逆に、AがBに土地と立木を共に譲渡したが未登記であった場合、AがCに土地と立木を共に譲渡して登記を備えたときはBが仮に立木につき明認を施していても立木所有権をCに対抗できない(大S9.12.28)。土地と共に立木が処分された場合は土地についての対抗要件(登記)で決着をつけるべきである。


④ Aが立木所有権を留保して土地のみをBに譲渡し、Bが立木を含めて土地をCに譲渡した場合、Aが立木所有権をCに対抗するには明認方法が必要である(最S34.8.7)。



⑤ 土地を譲り受けて所有権移転登記を具備していない者が立木を植栽したが、その後に当該立木および土地を二重に譲り受け土地について登記を具備した者に対して立木の所有権を対抗するためには、その登記の前に立木につき明認方法を施すことが必要である(最S35.3.1)。この者は土地と立木をセットで取得したわけではないので、立木については明認方法で対抗力が得られるのである。



(3) 明認方法の存続の必要性

 明認方法は第三者が現れたときも存続していなければならない(最S36.5.4)。したがって墨書が風雨により消えてしまったような場合は対抗力も失われる。


判例(最S36.5.4)
AからBへの立木の売買により、Bが一旦明認方法を施したが、その明認が消滅した後、CがAから当該立木を買受けて明認を施した場合、Cの立木所有権がBに優先する。