• 民法物権ー2.物権の変動
  • 5.動産物権変動
  • 動産物権変動
  • Sec.1

1動産物権変動

堀川 寿和2021/12/23 11:32

動産物権変動の意義

 動産の物権変動も、不動産の物権変動と同様に「意思表示」のみによってその効力が生ずる(民法176条)。

動産物権変動の対抗要件

 動産に関する物権の譲渡は、その「引渡し」がなければ、第三者に対抗することができない(民法178条)。なお、「動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律」により、法人の動産譲渡について一定の範囲で動産譲渡登記ファイルへの譲渡の登記による対抗要件の具備が認められ、当該登記がなされると民法178条の引渡しがあったものとみなされる。




引渡しの態様

(1) 引渡しの態様

 民法178条の引渡しには、次の4つの態様がある。



① 現実の引渡し

 占有物を現実に引き渡すことによってなされる占有の移転である。



② 簡易の引渡し(民法182条2項)

 BがAから借りていたり預かっていた物を買い取る場合のように、譲受人Bがすでに目的物を所持するときは、A・B間で占有移転の意思表示(合意)をするだけでBは引渡しを受けたことになり、対抗要件を備える。



③ 占有改定(民法183条)

 AがBに売った物を、Bから借りておく場合のように、Aが譲渡後も譲受人Bの占有代理人として目的物の所持を続けるときは、以後Bのためにその占有代理人として占有する旨のAの意思表示のみにより、Bは引渡しを受けたことになり、対抗要件を備える。



④ 指図による占有移転(民法184条)

 AがCに預けてある物を、Cに預けたままの状態でBに売った場合のように、Aが占有代理人Cによって占有する物をBに譲渡した場合は、AがCに以後はBのために占有すべき旨を命じ、Bがそれを承諾することによってBは引渡しを受けたことになり、対抗要件を備える。なお、この場合Cの承諾は不要である。



(2) 引渡しを必要としない動産

 次の物は動産であっても引渡しを対抗要件としない。

① 船舶、自動車、航空機

 船舶については登記、自動車、航空機については登録をもって対抗要件とする。重要な動産であって、登記・登録制度があるものについては、引渡しは対抗要件とならない(未登録自動車については引渡しが対抗要件となる。)。

② 金銭

 金銭については、判例上、占有の移転に伴って金銭の所有権も移転する(最S29.11.5)とされていることから、引渡しは対抗要件ではなく、譲渡の効力発生要件となる。

③ 不動産の従物である動産

 不動産の従物である動産(ex.灯籠、取外しのできる庭石、畳・建具等)は、主物である不動産につき登記があれば、引渡しなくして対抗要件を備える。


(3) 引渡しを対抗要件とする物権

 引渡しを対抗要件とする動産上の物権は「所有権」に限られる。動産上に成立し得る物権は所有権以外に「占有権」「留置権」「先取特権」「質権」があるが、そのうち占有権、留置権、質権は引渡しが効力発生要件であり、動産先取特権は引渡し(占有)の有無と対抗要件は無関係である。


(4) 引渡しを必要とする物権変動

 引渡しを必要とする動産物権変動は、動産所有権の「譲渡」と、それと同視すべき取消し・解除などによる所有権の復帰に限る(大T10.5.17)。たとえば、AがBに自転車を譲渡して引き渡した後に、強迫を理由に取り消した場合、BからAへの所有権復帰を第三者に対抗するためには、AはBから当該自転車の引渡しを受けておかなければならない。