• 民法総則ー1.民法の概要
  • 3.民法の原則
  • 民法の原則
  • Sec.1

1民法の原則

堀川 寿和2021/12/22 14:09

民法の解釈基準

民法は、個人の尊厳と両性の本質的平等を旨として、解釈しなければならない(2条)。

民法の基本原則

 私権の行使は、次のような原則により制約される。


(1) 公共の福祉の原則

 私権(私法上の権利)は、公共の福祉に適合しなければならない(1条1項)。これは、私権の内容や行使方法は、社会全体の利益に反してはならないということである。


(2) 信義誠実の原則(信義則)

 権利の行使および義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない(1条2項)。これは、権利者といえども権利を自由に行使できるわけではなく、お互いに取引の相手方の信頼を裏切らないように行動しなければならないということである。


Point 信義誠実の原則は、権利の行使または義務の履行だけでなく、契約の趣旨を解釈する基準にもなる(最判昭32.7.5)。


信義誠実の原則から、具体的に以下の派生原理が生まれる。

1.禁反言の法理

 自らの行為と矛盾した態度を取ることは許されない。

2.クリーンハンズの原則

 法に救済を求めるものは、自ら法を犯していてはならない。

(3) 権利の濫用の禁止

 権利の濫用は、これを許さない(1条3項)。これは、権利者といえども自由に権利を行使できるわけではなく、社会的に許容できる範囲を超えた方法による権利行使は許されないということである。


判例宇奈月温泉事件(大判昭10.10.5)
源泉から温泉を引いていたAの引湯管がBの土地を承諾なく通っていた。Cがこの土地を買い取り、Aに対して、自分の土地から引湯管を撤去しろと要求した。一見すると純然たる権利行使だが、金銭目的の不当な要求であった。


《争点》一見純然たる所有権の行使にあたる請求でも、権利の濫用にあたるのではないか?
《判旨》所有権の侵害があっても、それによる損失の程度がいうに足りないほど軽微であり、しかもこれを除去するのに莫大な費用を要する場合に、土地の所有者が不当な利得を得る目的で、その除去を求めることは、権利の濫用にあたり許されない。




cf. このほか、かつての鉄道院(現在の国土交通省)が、鉄道の敷設に適当な注意を払わなかったために、由緒ある松の木を蒸気機関車の煤煙で枯死させてしまった事件において、正当な権利行使を逸脱した権利行使であり、違法性を帯びるとして、松の木の所有者に損害賠償を命じた判決がある(信玄公旗掛松事件、大判大8.3.3)。