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1管理組合の予算・決算

堀川 寿和2021/12/17 12:20


管理組合の予算

 予算は、原則として、管理組合の総会の決議で承認される。この総会は、次期会計年度開始後に開催される通常総会であることが一般的である。

 なお、不測の事態によって予算を変更せざるを得ない場合も、原則として、総会の承認が必要となる。


管理組合の決算

(1) 会計処理の原則

 管理組合会計の会計処理については「企業会計原則」に基づき処理される。つまり複式簿記原則による。1つの取引を「収入・支出」のみで記録するのが単式簿記原則であるが、複式簿記原則では1つの取引を「収入・支出」と、「その原因」の2面から記録していく。


① 発生主義の原則

 発生主義の原則とは、「すべての費用および収益は、その支出および収入に基づいて計上し、その発生した期間に正しく割り当てられるように処理しなければならない」とする原則である。

 ようするに、取引によって「入金や出金があった時点」で収入・支出を帳簿に記録するのではなく、取引によって「債権や債務が発生した時点」で収入・支出を帳簿に記録するということである。

 たとえば、「3月分の管理費」が2月に入金されても、2月に「3月分の管理費収入」として計上しない。2月はまだ「3月分の管理費」についての「債権・債務」は発生していないからである。それに対して、「3月分の管理費」が3月に入金されなくても、3月に「3月分の管理費収入」として計上する。3月に「3月分の管理費」についての「債権・債務」が発生したからである。

 「発生主義」に対して、取引によって「入金や出金があった時点」で収入・支出を帳簿に記録するという考え方を「現金主義」という。


② 会計区分

 収支決算案は、会計区分ごとに作成する。

 会計区分は、通常、「一般会計」(管理費会計)と「特別会計」(修繕積立金会計)に区分されている。

(2) 収支報告書

 収支報告書は、企業会計の損益計算書に相当するもので、一会計年度内の収支状況を表すものである。収支報告書は、決算と予算を対比して作成する。決算と予算との差額が少ないほど良いとされる。


【収支報告書の例】

令和○年度一般会計収支報告書

(令和○年4月1日~令和□年3月31日)

○○マンション管理組合                             単位:円


項目決算予算差額備考
【収入の部】
管理費
駐車場使用料
専用庭使用料
雑収入
受取利息




収入の部合計



【支出の部】
管理委託費
水道光熱費
  水道料
  電気料
  ガス料
損害保険料
植栽管理費
清掃業務費
排水管清掃費
修繕費
保守点検費
事務用品費
消耗品費
什器備品費
雑費
予備費




支出の部合計



当期収支差額



前期繰越収支差額



次期繰越収支差額




① 収入科目

 当期会計年度中に発生した収入は、すべて収入として計上する。

 おもな収入科目は、以下のとおり。

(a) 管理費・修繕積立金
(b) 駐車場使用料
(c) 専用庭使用料
(d) 受取利息・配当
(e) 雑収入


Point1 当期会計年度中に発生した収入は、入金の有無にかかわらず、当期の収入として計上する。たとえば、当期会計年度中に組合員が当期の管理費等を滞納していても、滞納分を含めた全額を当期の収入として計上する。


Point2 管理費等は、当期分を当期の収入として計上する。たとえば、3月分の管理費は3月分の収入として計上する。したがって、次期分の管理費が当期に入金されたとしても、当期の収入として計上しない。標準管理規約では、管理費等は、当月分を前月の一定期日までに徴収することになっているが、この場合も同様である。たとえば、会計年度末が3月末となっている管理組合で、次期4月分の管理費が当期3月中に入金されたとしても、当期の収入としては計上しない〔4月分の管理費は、後述する前受金として経理処理する〕。


② 支出科目

 当期会計年度中に発生した費用は、すべて支出として計上する。

 おもな支出科目は、以下のとおり。

(a) 管理委託費
(b) 水道光熱費
(c) 損害保険料
(d) 修繕費
(e) 予備費



Point1 当期会計年度中に発生した費用は、支払いの有無にかかわらず、当期の支出として計上する。


Point2 掛け捨ての損害保険料は、全額が支出(費用)として計上される。掛け捨てでない損害保険料(満期返戻金がある損害保険)は、保険料の全額が支出(費用)として計上されるわけではない〔詳しくは後述〕。


Point3 請負の支払義務が確定するのは、工事完了時である。したがって、修繕費の発生時期は、工事完了時である。たとえば、当期会計年度中に外壁補修工事に着手していても、工事完了が次期会計年度中となるのであれば、まだ修繕費は発生していないので、その費用の一部が当期会計年度中に手付金や中間金として支払われていたとしても、当期の修繕費としては計上しない〔手付金や中間金は、後述する前払金として経理処理する〕。 


(3) 貸借対照表

 貸借対照表は、会計年度末における財産状況(資産および負債の状況)を表すものである。

 「資産の部」の合計金額と「負債・正味財産の部」の合計金額は、必ず一致する。


【貸借対照表の例】


令和○年度一般会計貸借対照表

(令和□年3月31日現在)

○○マンション管理組合                             単位:円

資産の部負債・正味財産の部
科目金額科目金額

現金・預金
 現金
 普通預金
 定期預金


預け金
 □□管理会社


未収入金
 管理費
 駐車場使用料


前払金
 管理委託費
 損害保険料


未払金
 清掃費


前受金
 管理費
 駐車場使用料
 専用庭使用料


正味財産
合計
合計


① 資産科目

(a) 現金

 現金の年度末残高を現金として資産に計上する。


(b) 普通預金・定期預金

 預金には普通預金と定期預金があり、それぞれの預金の年度末残高を普通預金または定期預金として資産に計上する。


(c) 積立保険料

 火災保険などの損害保険に満期返戻金がある場合は、当期会計年度中に支払った保険料のうち満期返戻金に相当する金額を、積立保険料として資産に計上する。


【積立型損害保険の保険料を一括で支払った場合の経理処理】

 積立保険料の経理処理は、上記のとおり。保険料のうち積立保険料以外の掛捨部分は「危険保険料」と呼ばれ、危険保険料は一括して支出として計上するのではなく、危険保険料を保険期間で月割し、全保険期間にわたって支出に計上していく。保険期間が複数年度にわたる場合は、当期会計年度中に相当する期間の保険料は「当期損害保険料」として支出(費用)に計上されるが、それ以外の部分は、前払保険料として資産に計上される。




(d) 預け金

 当期会計年度内に収入として計上すべき金額を第三者に一時的に預けている場合に、その金額を預け金として資産に計上する。

 たとえば、管理費の徴収を管理会社に委託している場合に、当期会計年度内の収入となるべき管理費はすでに組合員から徴収されているが、当期会計年度末時点でまだ管理会社名義で保管されており、管理組合の預金口座に入金されていないようなときは、その金額は預け金として計上される。


(e) 未収入金

 当期会計年度の収入として計上すべき金額で、当期会計年度中に支払われていないものを、未収入金として資産に計上する。

 たとえば、当期会計年度の収入となるべき管理費が、当期会計年度中に支払われなかった場合は、その金額は未収入金として計上される。


(f) 前払金

 次期会計年度の支出として計上すべき金額で、当期会計年度中に支払ったものを、前払金として資産に計上する。

 たとえば、次期会計年度の支出となるべき管理委託費用を当期会計年度中に支払った場合、その金額は前払金として計上される。


② 負債科目

(a) 借入金

 借入金(元本部分)の年度末残高を借入金として計上する。

 たとえば、銀行からの借入金があれば、その年度末残高が借入金として計上される。


(b) 預り金

 将来返金することが確定している金額の年度末残高を預り金として計上する。

 たとえば、敷金は将来返金しなければならないのが通常であるので、管理組合が駐車場の敷金を受け取っている場合は、その年度末残高が預り金として計上される。


(c) 前受金

 次期会計年度に収入として計上すべき金額で、当期会計年度内に支払われたものを前受金として計上する。

 たとえば、次期会計年度の収入となるべき管理費を、当期会計年度内に受け取った場合は、その金額は管理費収入ではなく、前受金として計上される。


(d) 未払金

 当期会計年度内に支出として計上すべき金額で、当期会計年度内に支払われていないものを未払金として計上する。

 たとえば、当期会計年度内に外壁補修工事が完了したが、その修繕費の支払は次期会計年度となる場合は、その金額が未払金として計上される。


③ 正味財産(繰越金・剰余金)

 資産科目の合計金額から負債科目の合計金額を差し引いたものが、正味財産(繰越金・剰余金)である。