- 設備・会計ー6.管理組合の会計
- 3.仕訳
- 簿記
- Sec.1
1簿記
■簿記
(1) 簿記
簿記とは、決算時に、「収支報告書」や「貸借対照表」などの計算書類を作成するために、取引によって生じる「収入・支出」や「資産・負債の増減」を帳簿に記録することである。誰が行っても記録が同じになるように、簿記には一定のルールがある。
(2) 勘定科目
簿記では、取引を「勘定科目」と「金額」を使って記録していく。簿記とは、取引によって生じる「収入・支出」〔収支報告書作成のため〕や「資産・負債の増減」〔貸借対照表作成のため〕を帳簿に記録することなので、勘定科目は、「収入科目」「支出科目」「資産科目」「負債科目」の4つに区分される。勘定科目の種別ごとのおもな勘定科目名は、以下のとおり。
収支報告書 | 貸借対照表 | ||
支出科目 | 収入科目 | 資産科目 | 負債科目 |
管理委託費
水道光熱費(水道料・電気料・ガス料) 損害保険料(掛捨部分) 支払利息 通信費 清掃費 特別清掃費 修繕費 小修繕費 固定資産除却損 | 管理費収入
修繕積立金収入 駐車場使用料収入 専用庭使用料収入 敷金収入 受取利息 配当 雑収入 | 現金
普通預金 定期預金 積立保険料(積立部分) 預け金 未収入金 前払金 建物付属設備 什器備品 構築物 | 借入金
預り金 未払金 前受金 |
Point 請負は工事の完了により支払義務が確定するので、工事等の費用は、工事完了時に計上する。
■仕訳
(1) 仕訳
取引が行われた場合、発生主義の原則によって、これによって生じる「収入・支出」や「資産・負債の増減」を帳簿に記録していく。
複式簿記では、すべての取引を2つ以上の「取引の要素」の結びつきととらえて、その要素ごとに「勘定科目」と「金額」を確定し、これをルールに従って「借方」と「貸方」に振り分け、帳簿に記録していく。この作業を仕訳(しわけ)という。
「取引の要素」は、下記の6つであり、それぞれの要素により「借方」「貸方」のどちらに記録するのかが決定される。なお、「借方」は左側、「貸方」は右側と決まっている。
借方(左)に記録する要素 | 貸方(右)に記録する要素 | |
資産 | 資産の増加 | 資産の減少 |
負債 | 負債の減少 | 負債の増加 |
収入 | ― | 収入の発生 |
支出 | 支出の発生 | ― |
(2) 取引の要素の結合関係
上記のように、すべての取引は、2つ以上の取引の要素の結びつきである。その結びつきの基本的なパターンは、以下の8つである。
借方(左) | 貸方(右) | 具体例 | |
1 | 資産の増加 | 資産の減少 | 防犯カメラを設置して(資産の増加)、その費用を当月に普通預金から支払った(資産の減少) |
2 | 資産の増加 | 負債の増加 | 防犯カメラを設置して(資産の増加)、その費用を翌月支払うことにした(負債の増加) |
3 | 資産の増加 | 収入の発生 | 当月分の管理費が(収入の発生)、普通預金口座に入金された(資産の増加) |
4 | 負債の減少 | 資産の減少 | 普通預金からお金を引き出して(資産の減少)、銀行からの借入金を返済した(負債の減少) |
5 | 負債の減少 | 負債の増加 | 銀行から借りたお金で(負債の増加)、未払いとなっていたエレベーターの修繕費を支払った(負債の減少) |
6 | 負債の減少 | 収入の発生 | 当月分の管理費に(収入の発生)、前払いしてもらっていたお金〔前受金〕をあてた(負債の減少)。 |
7 | 支出の発生 | 資産の減少 | エレベーターの修繕費を(支出の発生)、当月に普通預金から支払った(資産の減少) |
8 | 支出の発生 | 負債の増加 | 外壁タイルの補修工事費を(支出の発生)、銀行からの借入金で支払った(負債の増加) |
このように、1つの取引における取引の要素は、必ず「借方」と「貸方」の双方に振り分けられる。なお「借方」・「貸方」の要素が2つ以上になることもある。たとえば、防犯カメラを設置して(資産の増加)、その費用の一部を当月に現金で支払い(資産の減少)、残りを翌月に支払うことにする(負債の増加)場合は、「貸方」の要素は2つになる。
(3) 貸借平均の原則
上記のように、1つの取引における取引の要素は、必ず「借方」の要素と「貸方」の要素で構成される。貸借平均の原則とは、「借方」に記入された金額の合計と、「貸方」に記入された金額の合計は、必ず同じ金額になるということである。
(4) 仕訳の実際
以上のルールに基づいて、仕訳を実際に行ってみる。
【事例①】
当月分の管理費100万円が、普通預金口座に入金された。 |
(a) この取引を構成する2つ以上の要素を見つけ、要素ごとに「勘定科目」と「金額」を確定する。
ⅰ)当月の管理費収入100万円があった
→ 「収入の発生」 → 収入「管理費収入」が「100万円」発生 ⅱ)当月に管理費100万円が普通預金口座に入金された → 「資産の増加」 → 資産「普通預金」が「100万円」増加 |
(b) 要素の種類から、「勘定科目」・「金額」を「借方」と「貸方」のどちらに記録するかを決定する。
(c) 「借方」および「貸方」に記載された金額が同じになっているか確認する。
ⅰ)「借方」の合計 → 100万円
ⅱ)「貸方」の合計 → 100万円 |
【事例②】
マンションのエントランスに防犯カメラ(80万円)を設置して、その費用の一部30万円を当月に現金で支払い、残り50万円を翌月に支払うことにした。 |
(a) この取引を構成する2つ以上の要素を見つけ、要素ごとに「勘定科目」と「金額」を確定する。
ⅰ)当月に80万円の防犯カメラを設置した
→ 「資産の増加」 → 資産「什器備品」が「80万円」増加 ⅱ)当月に設置費用30万円を支払った → 「資産の減少」 → 資産「現金」が「30万円」減少 ⅲ)翌月に設置費用50万円を支払うことにした → 「負債の増加」 → 負債「未払金」が「50万円」増加 |
(b) 要素の種類から、「勘定科目」・「金額」を「借方」と「貸方」のどちらに記録するかを決定する。
(c) 「借方」および「貸方」に記載された金額が同じになっているか確認する。
ⅰ)「借方」の合計 → 80万円
ⅱ)「貸方」の合計 → 80万円 |
【事例③】
未払いとなっていたエレベーターの修繕費700万円のうち500万円を普通預金から支払い、残りの200万円は銀行からの借入金で支払った。 |
(a) この取引を構成する2つ以上の要素を見つけ、要素ごとに「勘定科目」と「金額」を確定する。
ⅰ)未払いとなっていたエレベーターの修繕費700万円を支払った
→ 「負債の減少」 → 負債「未払金」が「700万円」減少 ⅱ)エレベーターの修繕費500万円を、普通預金から支払った → 「資産の減少」 → 資産「普通預金」が「500万円」減少 ⅲ)エレベーターの修繕費200万円を銀行から借り入れた → 「負債の増加」 → 負債「借入金」が「200万円」増加 |
(b) 要素の種類から、「勘定科目」・「金額」を「借方」と「貸方」のどちらに記録するかを決定する。
(c) 「借方」および「貸方」に記載された金額が同じになっているか確認する。
ⅰ)「借方」の合計 → 700万円
ⅱ)「貸方」の合計 → 700万円 |
(5) 仕訳の具体例
① 当月分の管理費100万円、修繕積立金20万円が、全額管理組合の普通預金口座に入金された場合
② 当月分の管理費100万円、修繕積立金20万円のうち、管理費100万円は管理組合の普通預金口座に入金されたが、修繕積立金20万円が滞納となった場合
Point 修繕積立金は、実際には入金されていないが、収入として計上する。その代わりに、未収入金という資産が増加する。
③ 上記②の滞納されていた修繕積立金20万円が、管理組合の普通口座に入金された場合
④ 翌月分の管理費100万円、修繕積立金20万円が、当月に全額管理組合の普通預金口座に入金された場合
⑤ 上記④の後、翌月になった場合
⑥ 管理費、修繕積立金の徴収を集金代行会社に委託している場合に、同会社が徴収した当月分の管理費100万円、修繕積立金20万円がまだ管理組合の普通預金に入金されていない場合
⑦ 当月分の管理委託費等の諸費用〔管理委託費30万円、清掃費10万円〕を、管理組合の普通預金から引き出し支払った場合
⑧ 翌月分の管理委託費30万円を、当月に普通預金から引き出し支払った場合
⑨ 保険期間5年の積立型損害保険に加入し、損害保険料〔積立保険料360万円、危険保険料180万円〕を当月に一括して普通預金から支払った場合
Point 危険保険料については、当月分のみを支出に計上し、残額は前払保険料として資産に計上する。上記の例では、保険期間は5年(60か月)あるので、1か月あたりの危険保険料は3万円である。翌月以降は、毎月分、前払保険料を取り崩して、損害保険料(支出)として計上する。
⑩ 大規模修繕に充てるために、銀行から5,000万円の資金を借り入れ、管理組合の普通預金口座に入金があった場合。
⑪ 敷地内駐車場使用者から敷金5万円が、管理組合の普通預金口座に入金されたとき。
(6) 仕訳の訂正
① 反対仕訳(逆仕訳)
仕訳を間違えたときは、反対仕訳をすることによって、仕訳を取り消すことができる。
【例】次の仕訳を取り消したい場合
これで、上の仕訳を取り消したことになる。
② 仕訳を訂正する場合
仕訳を訂正する場合は、帳簿がわかりにくくならないよう、次の手順で行う。
(a) 反対仕訳をして仕訳を取り消す。
(b) 正しい仕訳を考える。 (c) (a)と(b)の仕訳を合わせたものを帳簿に記録する。 |
【例】翌月分の管理委託費30万円を、当月に普通預金から引き出し支払ったにもかかわらず、当月分の管理委託費30万円を支払ったものとして、仕訳をしてしまったことに気がついた。
この時の仕訳は、次のとおり。
■チェック問 管理組合の会計 問題
管理業務主任者試験【チェック問 管理組合の会計 問題】
管理組合の活動における以下のア〜エの取引に関し、平成31年3月分のア〜エそれぞれの仕訳として、最も適切なものは、次の1〜4のうちのどれか。なお、この管理組合の会計は、企業会計の原則に基づき、毎月厳格な発生主義によって経理しているものとする。
マンション管理士試験【チェック問 管理組合の会計 問題】
甲マンション管理組合の平成30年度(平成30年4月1日から平成31年3月31日まで)の会計に係る次の仕訳のうち、適切なものはどれか。ただし、会計処理は毎月次において発生主義の原則によるものとする。
1. 平成31年3月に、組合員Aから、平成29年10月分から平成31年4月分までの19ヵ月分の管理費総額38万円(月額2万円)が、甲の口座にまとめて入金された。
2. 平成31年3月末の帳簿上のB銀行預金残高よりB銀行発行の預金残高証明書の金額が5万円少なかったため調査したところ、同年3月に支払った損害保険料5万円の処理が計上漏れとなっていたためであることが判明した。このため、必要な仕訳を行った。
3. 平成29年度決算の貸借対照表に修繕工事の着手金60万円が前払金として計上されていたが、その修繕工事が平成30年6月に完了し、総額200万円の工事費の残額140万円を請負業者へ同月に支払った。
4. 平成31年3月に、組合員Cから、3月分管理費2万円と3月分駐車場使用料1万円の合計3万円が甲の口座に入金されたが、誤って全額が管理費として計上されていた。このため、必要な仕訳を行った。