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1簿記

堀川 寿和2021/12/17 12:38


簿記

(1) 簿記

 簿記とは、決算時に、「収支報告書」や「貸借対照表」などの計算書類を作成するために、取引によって生じる「収入・支出」や「資産・負債の増減」を帳簿に記録することである。誰が行っても記録が同じになるように、簿記には一定のルールがある。


(2) 勘定科目

 簿記では、取引を「勘定科目」と「金額」を使って記録していく。簿記とは、取引によって生じる「収入・支出」〔収支報告書作成のため〕や「資産・負債の増減」〔貸借対照表作成のため〕を帳簿に記録することなので、勘定科目は、「収入科目」「支出科目」「資産科目」「負債科目」の4つに区分される。勘定科目の種別ごとのおもな勘定科目名は、以下のとおり。



収支報告書貸借対照表
支出科目収入科目資産科目負債科目
管理委託費
水道光熱費(水道料・電気料・ガス料)
損害保険料(掛捨部分)
支払利息
通信費
清掃費
特別清掃費
修繕費
小修繕費
固定資産除却損
管理費収入
修繕積立金収入
駐車場使用料収入
専用庭使用料収入
敷金収入
受取利息
配当
雑収入
現金
普通預金
定期預金
積立保険料(積立部分)
預け金
未収入金
前払金
建物付属設備
什器備品
構築物
借入金
預り金
未払金
前受金




Point 請負は工事の完了により支払義務が確定するので、工事等の費用は、工事完了時に計上する。



仕訳

(1) 仕訳

 取引が行われた場合、発生主義の原則によって、これによって生じる「収入・支出」や「資産・負債の増減」を帳簿に記録していく。

 複式簿記では、すべての取引を2つ以上の「取引の要素」の結びつきととらえて、その要素ごとに「勘定科目」と「金額」を確定し、これをルールに従って「借方」と「貸方」に振り分け、帳簿に記録していく。この作業を仕訳(しわけ)という。

 「取引の要素」は、下記の6つであり、それぞれの要素により「借方」「貸方」のどちらに記録するのかが決定される。なお、「借方」は側、「貸方」は側と決まっている。




借方(左)に記録する要素貸方(右)に記録する要素
資産資産の増加資産の減少
負債負債の減少負債の増加
収入収入の発生
支出支出の発生


(2) 取引の要素の結合関係

 上記のように、すべての取引は、2つ以上の取引の要素の結びつきである。その結びつきの基本的なパターンは、以下の8つである。




借方(左)貸方(右)具体例
1資産の増加資産の減少防犯カメラを設置して(資産の増加)、その費用を当月に普通預金から支払った(資産の減少)
2資産の増加負債の増加防犯カメラを設置して(資産の増加)、その費用を翌月支払うことにした(負債の増加)
3資産の増加収入の発生当月分の管理費が(収入の発生)、普通預金口座に入金された(資産の増加)
4負債の減少資産の減少普通預金からお金を引き出して(資産の減少)、銀行からの借入金を返済した(負債の減少)
5負債の減少負債の増加銀行から借りたお金で(負債の増加)、未払いとなっていたエレベーターの修繕費を支払った(負債の減少)
6負債の減少収入の発生当月分の管理費に(収入の発生)、前払いしてもらっていたお金〔前受金〕をあてた(負債の減少)。
7支出の発生資産の減少エレベーターの修繕費を(支出の発生)、当月に普通預金から支払った(資産の減少)
8支出の発生負債の増加外壁タイルの補修工事費を(支出の発生)、銀行からの借入金で支払った(負債の増加)


このように、1つの取引における取引の要素は、必ず「借方」と「貸方」の双方に振り分けられる。なお「借方」・「貸方」の要素が2つ以上になることもある。たとえば、防犯カメラを設置して(資産の増加)、その費用の一部を当月に現金で支払い(資産の減少)、残りを翌月に支払うことにする(負債の増加)場合は、「貸方」の要素は2つになる。


(3) 貸借平均の原則

 上記のように、1つの取引における取引の要素は、必ず「借方」の要素と「貸方」の要素で構成される。貸借平均の原則とは、「借方」に記入された金額の合計と、「貸方」に記入された金額の合計は、必ず同じ金額になるということである。


(4) 仕訳の実際

 以上のルールに基づいて、仕訳を実際に行ってみる。


【事例①】

当月分の管理費100万円が、普通預金口座に入金された。


(a) この取引を構成する2つ以上の要素を見つけ、要素ごとに「勘定科目」と「金額」を確定する。

ⅰ)当月の管理費収入100万円があった
→ 「収入の発生」 → 収入「管理費収入」が「100万円」発生
ⅱ)当月に管理費100万円が普通預金口座に入金された
→ 「資産の増加」 → 資産「普通預金」が「100万円」増加


(b) 要素の種類から、「勘定科目」・「金額」を「借方」と「貸方」のどちらに記録するかを決定する。


(c) 「借方」および「貸方」に記載された金額が同じになっているか確認する。

ⅰ)「借方」の合計 → 100万円
ⅱ)「貸方」の合計 → 100万円


【事例②】

マンションのエントランスに防犯カメラ(80万円)を設置して、その費用の一部30万円を当月に現金で支払い、残り50万円を翌月に支払うことにした。


(a) この取引を構成する2つ以上の要素を見つけ、要素ごとに「勘定科目」と「金額」を確定する。

ⅰ)当月に80万円の防犯カメラを設置した
→ 「資産の増加」 → 資産「什器備品」が「80万円」増加
ⅱ)当月に設置費用30万円を支払った
→ 「資産の減少」 → 資産「現金」が「30万円」減少
ⅲ)翌月に設置費用50万円を支払うことにした
→ 「負債の増加」 → 負債「未払金」が「50万円」増加


(b) 要素の種類から、「勘定科目」・「金額」を「借方」と「貸方」のどちらに記録するかを決定する。


(c) 「借方」および「貸方」に記載された金額が同じになっているか確認する。

ⅰ)「借方」の合計 → 80万円
ⅱ)「貸方」の合計 → 80万円


【事例③】

未払いとなっていたエレベーターの修繕費700万円のうち500万円を普通預金から支払い、残りの200万円は銀行からの借入金で支払った。


(a) この取引を構成する2つ以上の要素を見つけ、要素ごとに「勘定科目」と「金額」を確定する。

ⅰ)未払いとなっていたエレベーターの修繕費700万円を支払った
→ 「負債の減少」 → 負債「未払金」が「700万円」減少
ⅱ)エレベーターの修繕費500万円を、普通預金から支払った
→ 「資産の減少」 → 資産「普通預金」が「500万円」減少
ⅲ)エレベーターの修繕費200万円を銀行から借り入れた
→ 「負債の増加」 → 負債「借入金」が「200万円」増加


(b) 要素の種類から、「勘定科目」・「金額」を「借方」と「貸方」のどちらに記録するかを決定する。


(c) 「借方」および「貸方」に記載された金額が同じになっているか確認する。

ⅰ)「借方」の合計 → 700万円
ⅱ)「貸方」の合計 → 700万円


(5) 仕訳の具体例

① 当月分の管理費100万円、修繕積立金20万円が、全額管理組合の普通預金口座に入金された場合




② 当月分の管理費100万円、修繕積立金20万円のうち、管理費100万円は管理組合の普通預金口座に入金されたが、修繕積立金20万円が滞納となった場合




Point 修繕積立金は、実際には入金されていないが、収入として計上する。その代わりに、未収入金という資産が増加する。


③ 上記②の滞納されていた修繕積立金20万円が、管理組合の普通口座に入金された場合




④ 翌月分の管理費100万円、修繕積立金20万円が、当月に全額管理組合の普通預金口座に入金された場合



⑤ 上記④の後、翌月になった場合



⑥ 管理費、修繕積立金の徴収を集金代行会社に委託している場合に、同会社が徴収した当月分の管理費100万円、修繕積立金20万円がまだ管理組合の普通預金に入金されていない場合



⑦ 当月分の管理委託費等の諸費用〔管理委託費30万円、清掃費10万円〕を、管理組合の普通預金から引き出し支払った場合




⑧ 翌月分の管理委託費30万円を、当月に普通預金から引き出し支払った場合



⑨ 保険期間5年の積立型損害保険に加入し、損害保険料〔積立保険料360万円、危険保険料180万円〕を当月に一括して普通預金から支払った場合



Point 危険保険料については、当月分のみを支出に計上し、残額は前払保険料として資産に計上する。上記の例では、保険期間は5年(60か月)あるので、1か月あたりの危険保険料は3万円である。翌月以降は、毎月分、前払保険料を取り崩して、損害保険料(支出)として計上する。


⑩ 大規模修繕に充てるために、銀行から5,000万円の資金を借り入れ、管理組合の普通預金口座に入金があった場合。




⑪ 敷地内駐車場使用者から敷金5万円が、管理組合の普通預金口座に入金されたとき。




(6) 仕訳の訂正

① 反対仕訳(逆仕訳)

 仕訳を間違えたときは、反対仕訳をすることによって、仕訳を取り消すことができる。


【例】次の仕訳を取り消したい場合



これで、上の仕訳を取り消したことになる。


② 仕訳を訂正する場合

 仕訳を訂正する場合は、帳簿がわかりにくくならないよう、次の手順で行う。

(a) 反対仕訳をして仕訳を取り消す。
(b) 正しい仕訳を考える。
(c) (a)と(b)の仕訳を合わせたものを帳簿に記録する。


【例】翌月分の管理委託費30万円を、当月に普通預金から引き出し支払ったにもかかわらず、当月分の管理委託費30万円を支払ったものとして、仕訳をしてしまったことに気がついた。

この時の仕訳は、次のとおり。




チェック問 管理組合の会計 問題

管理業務主任者試験【チェック問 管理組合の会計 問題】

管理組合の活動における以下のア〜エの取引に関し、平成31年3月分のア〜エそれぞれの仕訳として、最も適切なものは、次の1〜4のうちのどれか。なお、この管理組合の会計は、企業会計の原則に基づき、毎月厳格な発生主義によって経理しているものとする。



マンション管理士試験【チェック問 管理組合の会計 問題】


 甲マンション管理組合の平成30年度(平成30年4月1日から平成31年3月31日まで)の会計に係る次の仕訳のうち、適切なものはどれか。ただし、会計処理は毎月次において発生主義の原則によるものとする。


1. 平成31年3月に、組合員Aから、平成29年10月分から平成31年4月分までの19ヵ月分の管理費総額38万円(月額2万円)が、甲の口座にまとめて入金された。



2. 平成31年3月末の帳簿上のB銀行預金残高よりB銀行発行の預金残高証明書の金額が5万円少なかったため調査したところ、同年3月に支払った損害保険料5万円の処理が計上漏れとなっていたためであることが判明した。このため、必要な仕訳を行った。




3. 平成29年度決算の貸借対照表に修繕工事の着手金60万円が前払金として計上されていたが、その修繕工事が平成30年6月に完了し、総額200万円の工事費の残額140万円を請負業者へ同月に支払った。



4. 平成31年3月に、組合員Cから、3月分管理費2万円と3月分駐車場使用料1万円の合計3万円が甲の口座に入金されたが、誤って全額が管理費として計上されていた。このため、必要な仕訳を行った。