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1水道法・給水設備

堀川 寿和2021/12/16 15:32

水道法

(1) 水道法の目的

 水道法は、水道の布設および管理を適正かつ合理的ならしめるとともに、水道を計画的に整備し、および水道事業を保護育成することによって、清浄にして豊富低廉な水の供給を図り、もって公衆衛生の向上と生活環境の改善とに寄与することを目的とする。


(2) 水道法の規制対象

 水道法は、安全・衛生的な水を安定して供給するために水道に関して一定の規制を設けており、水道事業や、専用水道・簡易専用水道などに適用される。マンションを含む共同住宅の場合は、専用水道・簡易専用水道にあたる可能性があり、とくに簡易専用水道に該当することが多い。これらに該当する場合は一定の検査や管理などが義務付けられる。そこで、専用水道や簡易専用水道の範囲が問題となる。


① 水道

「水道」とは、導管およびその他の工作物により、水を人の飲用に適する水として供給する施設の総体をいう。ただし、臨時に施設されたものを除く。


② 水道事業

「水道事業」とは、一般の需要に応じて、水道により水を供給する事業をいう。ただし、給水人口が100人以下である水道によるものを除く。

 水道事業のうち、給水人口が100人超5000人以下である水道により、水を供給する水道事業は、「簡易水道事業」という。それに対して、給水人口5000人超である水道により水を供給する水道事業は、上水道事業とよばれることがある。

 水道事業を経営しようとする者は、厚生労働大臣の認可を受けなければならない。水道事業は、原則として市町村が経営するものとされる。この認可を受けて水道事業を経営する者を「水道事業者」という。


③ 専用水道

「専用水道」とは、寄宿舎、社宅、療養所等における自家用の水道その他水道事業の用に供する水道以外の水道であって、次のいずれかに該当するものをいう。
1. 100人を超える者にその居住に必要な水を供給するもの
2. その水道施設の1日最大給水量(1日に給水することができる最大の水量をいう)が政令で定める基準(20㎥)を超えるもの

 専用水道の水源は水道事業者から供給を受けるものだけでなく、地下水なども含まれる。マンションを含む共同住宅も、水道施設がこの要件を満たすときは専用水道となる。



ただし、他の水道から供給を受ける水のみを水源とし、かつ、その水道施設のうち地中または地表に施設されている部分の規模が政令で定める基準以下である水道を除く。
1. 口径25㎜以上の導管の全長が1,500m以下であること
2. 水槽の有効容量の合計が100㎥以下であること

 他の水道(おもに水道事業者の水道)から供給を受ける水のみを水源とするときは、水が新たに汚染される可能性が少ないので、規模が小さい場合には専用水道としての規制を受けない。

 この場合であっても、次の簡易専用水道として水道法の規制を受けることはある。


④ 簡易専用水道

「簡易専用水道」とは、水道事業の用に供する水道および専用水道以外の水道であって、水道事業の用に供する水道から供給を受ける水のみを水源とするものをいう。
ただし、水道事業の用に供する水道から水の供給を受けるために設けられる水槽の有効容量の合計が10㎥以下であるものを除く。

 専用水道に該当しなくても、この要件を満たす場合は、簡易専用水道として水道法の規制を受ける。


⑤ 貯水槽水道

「貯水槽水道」とは、水道事業の用に供する水道および専用水道以外の水道であって、水道事業の用に供する水道から供給を受ける水のみを水源とするものをいう。

 したがって、上記の簡易専用水道は、すべて貯水槽水道である。簡易専用水道に該当しない貯水槽水道(水道事業の用に供する水道から水の供給を受けるために設けられる水槽の有効容量の合計が10㎥以下であるもの)は、小規模貯水槽水道などと呼ばれることがある。

 なお、水槽を設置していても、工業用水や消防用水など飲用に用いないもの、地下水などは貯水槽水道ではない。


⑥ 給水装置

「給水装置」とは、需要者に水を供給するために水道事業者の施設した配水管から分岐して設けられた給水管およびこれに直結する給水用具をいう。

  給水装置としては、給水管のほかに、たとえば、止水栓、水道メーター、蛇口などがある。


Point マンションで、水道水をいったん受水槽に受けてから給水する受水槽方式の場合は、配水管から受水槽の注入口までが給水装置であるので、受水槽に至るまでの敷地内配管は、水道法による給水装置の適用を受ける。なお、受水槽以下は給水装置には該当しない。




(3) 水質規準

 水道により供給される水(水道水)は、衛生上の基準である水質基準が定められており、これを満たしている必要がある。

具体的な検査項目および基準値は、厚生労働省が定める「水質基準に関する省令」で定められている。「水質基準に関する省令」では、水道水の水質基準として、51の検査項目が示されており、たとえば、検査項目「一般細菌」の基準値は、「1mlの検水で形成される集落数が100以下であること」である。


Point 「水質基準に関する省令」では、塩素は検査項目に含まれていない

(4) 貯水槽水道に関する水道事業者および貯水槽水道の設置者の責任

 水道事業者は、料金、給水装置工事の費用の負担区分その他の供給条件について、供給規程を定めなければならない。供給規定とは、水道事業者と締結する給水契約の内容を示すものである。

 貯水槽水道が設置される場合においては、貯水槽水道に関し、水道事業者および当該貯水槽水道の設置者の責任に関する事項が、適正かつ明確に定められていなければならない。

 定めるべきとされる具体的事項は、次のとおり。

① 水道事業者の責任に関する事項
イ) 貯水槽水道の設置者に対する指導、助言および勧告
ロ) 貯水槽水道の利用者に対する情報提供
② 貯水槽水道の設置者の責任に関する事項
イ) 貯水槽水道の管理責任および管理の基準
ロ) 貯水槽水道の管理の状況に関する検査

 この趣旨は、貯水槽水道の管理の主体と具体の管理のあり方を給水契約により貯水槽水道の設置者に対して明確化させるものであり。水道事業者は、供給規定にもとづき、貯水槽水道の設置者に対して指導・助言・勧告などを行うことが可能となる。しかし、供給規定に管理基準を定めて強制することまでは求められていない。ただし、地方自治体が、貯水槽水道に関して管理基準等を定めて強制することは可能である。その場合は別途条例等の制定が必要になる。なお、貯水槽水道のうち簡易専用水道については水道法の適用も受けるが、水道法の適用を受けない部分について、条例等による地域独自の規制を受ける場合もある。


(5) 情報提供・業務の委託

① 情報提供

 水道事業者は、水道の需要者に対し、水道法の規定による水質検査の結果その他水道事業に関する情報を提供しなければならない。


② 業務の委託

 水道事業者は、水道の管理に関する技術上の業務の全部または一部を他の水道事業者等に委託することができる。


(6) 専用水道の管理等

① 水道技術管理者の設置

 専用水道の設置者は、水道の管理について技術上の業務を担当させるため、水道技術管理者1人を置かなければならない。専用水道の設置者が自ら水道技術管理者となることもできる。

 水道技術管理者は、次に掲げる事項に関する事務に従事する(主なもの)。

1. 給水開始前の水質検査および施設検査
2. 給水開始後の定期・臨時の水質検査
3. 水道管理業務従事者の健康診断
4. 消毒等の衛生上の措置
5. 異常時の給水の緊急停止


② 水質検査・水質検査記録の保存

 専用水道の設置者は、定期および臨時の水質検査を行わなければならない。実際には水道管理技術者がその事務にあたる。

 定期の水質検査は、検査項目ごとに、(イ)1日に1回以上行うもの、(ロ)おおむね1か月に1回以上行うもの、および、(ハ)おおむね3か月に1回以上行うものに分類されている。

 専用水道の設置者は、この水質検査を行ったときは、これに関する記録を作成し、水質検査を行った日から起算して5年間、これを保存しなければならない。


③ 健康診断・健康診断記録の保存

 専用水道の設置者は、水道の管理に関する業務に従事している者について、定期(おおむね6か月ごと)および臨時の健康診断を行わなければならない。

 専用水道の設置者は、この健康診断を行ったときは、これに関する記録を作成し、健康診断を行った日から起算して1年間、これを保存しなければならない。


④ 消毒等の衛生上の措置

 専用水道の設置者は、水道施設の管理および運営に関し、消毒その他衛生上必要な措置を講じなければならない。

 専用水道の設置者が講じなければならない具体的な措置は、次のとおり。

1. 水道施設は、常に清潔にし、水の汚染の防止を充分にすること。
2. 上記1.の施設には、かぎを掛け、さくを設ける等みだりに人畜が施設に立ち入って水が汚染されるのを防止するのに必要な措置を講ずること。
3. 給水栓における水が、遊離残留塩素を0.1mg/l(結合残留塩素の場合は、0.4mg/l)以上保持するように塩素消毒をすること。


Point 給水栓における水の遊離残留塩素は、平時で0.1mg/l以上でなければならない。

 なお、遊離残留塩素と結合残留塩素は、ともに残留塩素とよばれる。塩素は殺菌作用があるため水道水の消毒のために使用されるが、殺菌後も水道水の中に残留するのが残留塩素である。遊離残留塩素は塩素が水に溶けて生じるものであり、結合残留塩素は遊離残留塩素が水中のアンモニアなどと結合して生じるものである。残留塩素にも殺菌力があり、遊離残留塩素のほうが殺菌力は強い。水道水を介して伝染病等が発生する危険を予防するため、残留塩素が一定の数値以上保持されることとなっている。


⑤ 給水の停止等

 専用水道の設置者は、その供給する水が人の健康を害するおそれがあることを知ったときは、直ちに給水を停止し、かつ、その水を使用することが危険である旨を関係者に周知させる措置を講じなければならない。


(7) 簡易専用水道の管理等

① 簡易専用水道の管理

 簡易専用水道の設置者は、管理基準に従い、その水道を管理しなければならない。

 簡易専用水道の管理基準は、次のとおり。

1. 水槽の掃除を1年以内ごとに1回、定期に、行うこと。
2. 水槽の点検等有害物、汚水等によって水が汚染されるのを防止するために必要な措置を講ずること。
3. 給水栓における水の色、濁り、臭い、味その他の状態により供給する水に異常を認めたときは、「水質基準に関する省令」に掲げる検査項目のうち必要なものについて検査を行うこと。
4. 供給する水が人の健康を害するおそれがあることを知ったときは、直ちに給水を停止し、かつ、その水を使用することが危険である旨を関係者に周知させる措置を講ずること。


② 簡易専用水道の検査

簡易専用水道の設置者は、簡易専用水道の管理について、定期に(1年以内ごとに1回)、地方公共団体の機関または厚生労働大臣の登録を受けた者の検査を受けなければならない。


③ 専用水道と簡易専用水道の規制の比較

簡易専用水道については、専用水道の場合のように、残留塩素の測定については水道法による規制はない。ただし、地域によっては地方自治体の条例等により規制が行われていることもある。また、簡易専用水道については、水道技術管理者の設置や、健康診断の実施の義務付けも行われていない。


給水設備

(1) 給水方式

 給水方式は、水道事業者が敷設した水道本管から、建物内へ水道水を引きこむのに受水槽を使用するかしないかにより、水道直結方式と受水槽方式の2つに分類することができる。どの方式を用いるかは、建物の大きさや用途、設置にかかる費用などを考慮して選択される。


① 水道直結方式

 水道直結方式とは、途中に貯水槽(受水槽や高置水槽など)を使用することなく、水道本管(配水管)から直接に給水を受ける方式である。そのため、新たに水が汚染されることはほとんどなく、他の方式に比べ安全・衛生的な給水方法であるといえる。貯水槽を必要としないため、これを設置する場所を確保する必要がなく、その清掃や点検など維持管理の必要もない。ただし、貯水機能がないため、水道事業者の水道供給が停止したときは、給水できなくなる。

 水道直結方式は、さらに増圧給水ポンプを使用するかによって、直結直圧方式と直結増圧方式に分類することができる。


イ) 直結直圧方式

 直結直圧方式とは、水道本管(配水管)から給水管を直接分岐して建物内に引き込み、各住戸に直接給水する方式である。増圧給水ポンプなどは使用しない。そのため、設備費用は安く、直圧(配水管の水圧のみ)で給水するので、電気代がかからず、また、停電時であっても給水することができる。しかし、配水管の水圧には限度があるので、この方式を採用できる建物の階高には制限があり、一般には3階建てまでとされる。したがって、この方式はおもに戸建住宅や小規模マンションで採用される。配水管の水圧が高い地域などでは、直圧直結方式で4階以上に給水することが可能なこともある。この方式は、配水管の圧力応じて給水圧力が変動するので、たとえば渇水時などに減圧給水されると、給水圧力も低下する。


ロ) 直結増圧方式

 直結増圧方式とは、水道本管から増圧給水ポンプを経て、直接、建物内の必要な個所に給水する方式である。受水槽や高置水槽を必要としないので、スペースを有効利用でき、受水槽方式よりも設備費用を軽減することができる。配水管の圧力と同時に増圧給水ポンプを利用するために、一般に、直圧では給水不可能な高層階への給水が可能となり、おもに中規模までのマンションに採用される。新築だけでなく、既存マンションの改修工事の際に、高置水槽方式からこの方式への変更が多く見られる。

 給水時にポンプが稼働するため電気代はかかるが、水道本管の圧力を利用するので、エネルギー低減のメリットがある。しかし、停電時は直圧による給水が可能な低層階には給水できるが、それ以上の高層階には給水できなくなる。また、受水槽・高置水槽がないため、断水すると水の供給が得られなくなる。

② 受水槽方式

 受水槽方式とは、水道本管(配水管)から分岐して引き込んだ水を、いったん受水槽にため、この水を給水する方式である。この方式をとると、水道直結方式では給水できない高層階への給水が可能となる。また、受水槽に貯水機能があるので、災害や事故で水道事業者からの水道供給が停止しても、受水槽の水がなくなるまでは、これを給水することが可能となる。

 水道直結方式と異なり、受水槽やポンプなどを使用するために、これらを設置するための場所を確保する必要があり、これらの維持管理に要する費用やポンプを稼働させるための電気代などがかかってくる。また、いったん受水槽に水をためるため、水道直結方式に比べると水質の劣化が生じる。

 受水槽方式は、受水槽以降の給水方式の違いから、高置水槽方式、圧力タンク方式、ポンプ直送方式などに分類することができる。


イ) 高置水槽方式

高置水槽方式とは、受水槽に貯めた水を、揚水ポンプでマンションの屋上その他高い場所に設置された高置水槽に揚水し、この水を各階の住戸に重力による水圧によって給水する方式である。これまで、多くのマンションで採用されてきた。この方式の給水圧力は、変動が少なく安定している。しかし、高層階では水圧不足、下層階では過大水圧になりやすいという欠点がある。1つの高置水槽から適当な水圧で給水できる階高は、一般に、10階程度までとされる。

高置水槽方式の揚水ポンプは、通常2台設置して自動交互運転とする。これは、お互いに、一方のポンプが故障したときの予備も兼ねているからである。この方式では、受水槽と高置水槽の2か所で貯水しているため、水道事業者の水道供給が停止した場合であっても、これらの貯水槽の水がなくなるまでは、給水することができる。ただし、停電の場合は揚水ポンプが機能しないので、高置水槽に貯水された水のみが給水可能である。

なお、近年では水道本管から直接引き込んだ水を、増圧給水ポンプで高置水槽まで揚水する方式もある。


ロ) 圧力タンク方式

 圧力タンク方式とは、受水槽にためた水を加圧給水ポンプで密閉された圧力タンクに給水して圧力タンク内の空気を圧縮加圧することで、その空気圧によって各住戸に給水する方式である。低層の建物では高置水槽方式だと十分な給水圧力が得られないために用いられるものであり、おもに小規模なマンションで採用されている。圧力タンク内の水が減少することで空気圧が一定の水準まで低下したことを圧力スイッチが感知すると、加圧ポンプが稼働して圧力タンクに給水するしくみになっているので、ポンプを常に稼働させる必要がなく電気代を抑えることができるが、空気圧の変化に応じて給水圧力は変動するため安定しない。貯水機能があるので水道事業者の水道供給が停止しても、貯水槽の水がなくなるまでは給水が可能であり、停電時であっても、圧力タンクの空気圧がなくなるまでは、圧力タンク内に残っている水の給水が可能である。

ハ) ポンプ直送方式

 ポンプ直送方式は、受水槽の水を給水ポンプにより建物内の必要な個所へ直送する方式である。この方式は、大規模な団地や中層から超高層マンションに採用されている。

 この方式では、ポンプは常に稼働しており、配管内の流量や圧力を感知することで、給水量がポンプにより制御されているため、給水圧力は一定である。なお、小流量時はポンプの起動・停止が頻繁になるので、一般に、小流量時の給水用として小型の圧力タンクを設け、この間はポンプを停止させる仕組みになっている。貯水機能があるので水道事業者の水道供給が停止しても、貯水槽の水がなくなるまでは給水が可能であるが、給水にポンプを使用するため、停電時には給水することができなくなる。

 給水量を制御するために、ポンプの稼働台数を制御する方式を定速ポンプ方式、ポンプの回転数を制御する方式を変速ポンプ方式という。たとえば、給水量が減少すると、低速ポンプ方式では、ポンプの回転数は一定のままポンプの稼働台数を減らし、変速ポンプ方式では、ポンプの稼働台数は一定のままポンプの回転数を減らす。変速ポンプ方式には、吐出圧力に応じて回転数を制御する吐出圧力一定制御と、使用水量の変化に応じて回転数を制御する推定末端圧力一定制御がある。

 ポンプ直送方式は、タンクレスブースター方式、タンクレス方式、加圧給水方式などとも呼ばれる。


ニ) 高層マンションのゾーンニング

 高層マンションでは、一般に貯水槽方式が用いられる。しかし、高層になると下層階ほど給水圧力が高まる。この圧力が適正圧力を超えると給水設備の使用上、不都合が生じるので、一般にゾーニングによって給水圧力の調整が行われる。ゾーニングとは、上層階・中層階・下層階など10階程度で階層区域(ゾーン)を区切り、このゾーンごとに中間水槽を設置したり、低層階に減圧弁を設けたりするなどして、給水圧力を調整するものである。


【給水方式(まとめ)】


水道直結方式直結直圧方式水道本管 → 各住戸
直結増圧方式水道本管 → 増圧給水ポンプ → 各住戸
貯水槽方式高置水槽方式水道本管 → 受水槽 → 揚水ポンプ → 高置水槽 → 各住戸
圧力タンク方式水道本管 → 受水槽 → 加圧給水ポンプ → 圧力タンク → 各住戸
ポンプ直送方式水道本管 → 受水槽 → 給水ポンプ → 各住戸


(2) 飲料用水槽

① 飲料用水槽(給水タンクおよび貯水タンク)の設置および構造の基準

 給水タンクおよび貯水タンクを建築物の内部、屋上または最下階の床下に設ける場合においては、次の基準によらなければならない。

イ) 外部から給水タンクまたは貯水タンク(以下「給水タンク等」という)の天井、底または周壁の保守点検を容易かつ安全に行うことができるように設けること。
水槽の形状が直方体である場合、6面全ての表面と建築物の他の部分との間に、上部を100㎝以上、その他は60㎝以上の空間を確保すること。
 ロ) 給水タンク等の天井、底または周壁は、建築物の他の部分と兼用しないこと。
ハ) 内部には、飲料水の配管設備以外の配管設備を設けないこと。
ニ) 内部の保守点検を容易かつ安全に行うことができる位置に、次に定める構造としたマンホールを設けること。ただし、給水タンク等の天井がふたを兼ねる場合においては、この限りでない。
(い) 内部が常時加圧される構造の給水タンク等(以下「圧力タンク等」という)に設ける場合を除き、ほこりその他衛生上有害なものが入らないように有効に立ち上げること。
(ろ) 直径60㎝以上の円が内接することができるものとすること。ただし、外部から内部の保守点検を容易かつ安全に行うことができる小規模な給水タンク等にあっては、この限りでない。
ホ) ニ)のほか、水抜管を設ける等内部の保守点検を容易に行うことができる構造とすること。
水槽底部には100分の1程度の勾配を設け、最低部に設けたピットまたは溝に水抜管を設置すること。
水抜管は、排水口空間を設け間接排水とすること。

ヘ) 圧力タンク等を除き、ほこりその他衛生上有害なものが入らない構造のオーバーフロー管を有効に設けること。
オーバーフロー管は、排水口空間を設け間接排水とするとともに、その管端開口部には防虫網を設けること。
給水管の流入口には、吐水口空間を設けること。

 ト) 最下階の床下その他浸水によりオーバーフロー管から水が逆流するおそれのある場所に給水タンク等を設置する場合にあっては、浸水を容易に覚知することができるよう浸水を検知し警報する装置の設置その他の措置を講ずること。
チ) 圧力タンク等を除き、ほこりその他衛生上有害なものが入らない構造の通気のための装置を有効に設けること。ただし、有効容量が2㎥未満の給水タンク等については、この限りでない。
通気管の管端開口部には、防虫網を設けること。

リ) 給水タンク等の上にポンプ、ボイラー、空気調和機等の機器を設ける場合においては、飲料水を汚染することのないように衛生上必要な措置を講ずること。


Point1 受水槽を壁面や床面に接して設置することは禁止されている。


Point2 受水槽の吐水口空間とは、給水管の流入口端とオーバーフロー管の下端の垂直距離である。吐水口空間を設ける、つまり、オーバーフロー管の下端を、給水管の流入口端より下方に設けることにより、受水槽内の水が給水管に逆流するのを防ぐためである。


【飲料用水槽の構造】


② 受水槽の有効容量

断水などを考慮して、望ましいとされる受水槽の有効容量は次の通り。

1. 受水槽 …… 1日予想給水量の2分の1
2. 高置水槽 … 1日予想給水量の10分の1

 マンションでの1日の1人あたりの水の使用量は200から350ℓとされている。


③ 受水槽の水位制御方式

 受水槽の水位は、水道から受水槽への給水系統に主弁と副弁で構成される定水位弁を設けて制御する。主弁は受水槽の外部に、副弁は受水槽の内部に設置されており、これらは連動して開閉する。水位が下がると副弁が開き、これに連動して主弁が給水を開始する。水位が上がってくると副弁が閉じ、これに連動して主弁が給水を停止する。

④ 断水せずに清掃等をするための措置

 マンションの給水タンクは、清掃・保守・点検時にも断水が生じないようにするには、中間仕切り方式にすることが望ましい。給水タンクを中間で仕切ることで、清掃・保守・点検時にもその半分を使用することができ、断水を防ぐことができる。


⑤ 飲料用水槽の耐震および地震対策

イ) 飲料用水槽の耐震設計

 飲料用水槽など一定の建築設備機器には、その設置方法などについて指針(建築設備耐震設計・施工指針)が定められており、これにより一定の耐震性能が求められる。耐震クラスは、一般に、性能の高いほうから順にS、A、Bの3つに分けられるが、マンションでは、最も性能の低いBクラスが標準として採用されている。

 建築設備耐震設計・施工指針による「局部震度法による建築設備機器の設計用標準震度」は次の通り。




建築設備機器の耐震クラス
上階層・屋上・塔屋2.01.51.0
中間階1.51.00.6
地階・1階1.0(1.5)0.6(1.0)0.4(0.6)
( )内の値は、地階および1階(地表)に設置する水槽の場合に適用する。


Point 一般的な耐震設計法(局部震度法)で使用される標準設計震度は、地震力が直接作用する1階および地階よりも揺れが大きくなる上層階、屋上および塔屋で最も大きいものとなっている。


ロ) スロッシング対策

 スロッシングとは、水槽に周期的な振動が加わった際に生じる水面が大きくうねる現象をいい、この現象による水圧や負荷によって、場合によっては水槽が内部から破壊されることがある。

 平成7年の阪神・淡路大震災では、飲料用水槽などにスロッシングによる被害が発生したために、その後に行われた水槽の耐震設計基準見直しにより、スロッシング対策を施すこととなった。


ハ) 地震時における飲料用水槽の給水機能確保

 地震時における飲料用水槽の給水機能確保対策として、まず、飲料用水槽への緊急遮断弁の設置がある。緊急遮断弁は、地震の揺れを感知して弁が閉じる仕組みになっており、地震発生時に配管が破損しても、飲料用水槽内の水が流出してしまわないよう、受水槽の出口側給水口端に緊急遮断弁を設けておくことが望ましい。

 また、飲料用水槽には、直接水を採取できる弁(水栓)を設けておくことが望ましい。

(3) 給水ポンプ

① 材質

 給水ポンプ本体に使用される主な材質としては、鋳鉄製とステンレス鋼製のものがある。従来は鋳鉄製のものが主流であったが、最近ではステンレス鋼製のものが普及している。


② 給水ポンプの耐震対策

 給水ポンプから発生する振動が建物に伝わるのを防ぐために防振架台が用いられることがあるが、給水ポンプを防振架台上に設置する場合、耐震ストッパを設けなければならない。地震時にポンプが防振架台から脱落しないようにするためである。


(4) 給水管

 給水管とは、各住戸に水を供給するために、水道事業者が設置した水道本管(配水管)から分岐して設けられた配管である。

① 給水管の材料

 給水管の材料にはいくつかの種類があるが、それぞれの特徴を考慮して選択する必要がある。


イ) 亜鉛めっき鋼管

 亜鉛めっき鋼管は、給水管として多用されてきたが、現在では給水用にはほとんど用いられていない。給水管に使用されている鋼管が、経年劣化で腐食すると、赤水が発生しやすくなるからである。赤水とは、鋼管の内部が酸化して赤錆が発生し、この赤錆が給水とともに流出するものである。


ロ) 硬質塩化ビニルライニング鋼管

 硬質塩化ビニルライニング鋼管は、錆の発生を防止するために、鋼管の内部に硬質塩化ビニル管が挿入されたもので、塩化ビニルの耐食性と鋼管の剛性との長所をあわせ持っており、給水用として現在最も用いられている。ただし、ライニング部分が熱に弱いという弱点がある。


ハ) ステンレス鋼管

 ステンレス鋼管は、硬質塩化ビニルライニング鋼管よりも耐久性が高いため、マンションでも用いられている。耐食性に優れている。


ニ) 耐熱性硬質塩化ビニル管

 耐熱性硬質塩化ビニル管は、硬質塩化ビニル管を耐熱用に改良したもので、温度が90度まで使用することができ、耐食性にも優れ、接着接合で施工が容易であるが、直射日光(紫外線)、衝撃、凍結に弱いため、露出配管には向いていない。

ホ) 水道用ポリブテン管・水道用架橋ポリエチレン管

 水道用ポリブテン管、水道用架橋ポリエチレン管は、いずれも樹脂管であるが、耐熱性に優れており、比較的高温にも耐えられるため、給湯用配管に用いられることが多い。


② 給水管の設置および構造の基準

給水管の設置および構造は、次の基準によらなければならない。

イ) 構造耐力上主要な部分を貫通して配管する場合においては、建築物の構造耐力上支障を生じないようにすること。
ロ) ウォーターハンマーが生ずるおそれがある場合においては、エアチャンバーを設ける等有効なウォーターハンマー防止のための措置を講ずること。
ハ) 給水立て主管からの各階への分岐管等主要な分岐管には、分岐点に近接した部分で、かつ、操作を容易に行うことができる部分に止水弁を設けること。


③ 赤水発生防止対策

 給水管の経年劣化のほかに、赤水の発生原因としては、給水設備の管理不十分などがある。

 赤水が発生した場合は、水源や貯水槽の水質検査などを実施し、汚染原因を正しく把握した上で適切な対策を講じなければならない。赤水発生の原因が、給水設備の管理不十分である場合には給水設備の清掃などを行う必要があり、給水管の経年劣化の場合には給水管の劣化防止が必要となる。

 給水管の劣化防止策としては、新規配管工事、ライニング更生工事などがある。

新規配管工事は、既設の配管はそのまま残し、別に新規配管を施工する工事をいう。新規配管に接続するまでに比較的短時間の断水で済むが、新規配管を設置する空間が必要となり、これが確保できない場合は露出配管となる。

 ライニング更生工事とは、建物内の給水管を更生する工事であり、給水管を設置したまま行う。給水管の種類に応じて様々な工法があるが、その1つにAS工法がある。AS工法とは、研磨剤を混入した高圧気流を吹き付けることで管内面の錆や付着物を除去(クリーニング)したあとに、防錆を兼ねてエポキシ樹脂塗料を管内面に塗布(ライニング)する手法である。


(5) 配管のトラブル防止等

① ウォーターハンマーの防止

イ) ウォーターハンマーとは

  ウォーターハンマーとは、水撃作用ともいい、管内水流を急に締め切ったときに、水流の慣性で管内に衝撃・振動水圧が発生する現象をいう。このとき発生する衝撃音がハンマーでたたいたような音であるため、ウォーターハンマーという。

  マンションなどの高層建築物は、配管内の圧力が高くなりやすいため、とくにウォーターハンマー現象が起こりやすい。ウォーターハンマー現象は騒音や振動を発生させるため隣人とのトラブルになりやすい。また、配管を破裂させたり、配管に接続されている器具や機器に損傷を与えたりもする。したがって、ウォーターハンマー現象が生じないよう措置を講じる必要がある。 


ロ) ウォーターハンマーの防止策

 ウォーターハンマーが生じる原因として、配管内の圧力が高いこと、配管内の流速が早いことなどがあげられる。そこで、対策としては、配管内の圧力を適正なものにすること、配管内の流速を標準的なものにすることなどがある。配管内圧力の適正化について、とくに高層建築物の場合は、ゾーニングを行ってゾーンごとに中間水槽や減圧弁を設けることで配管内の圧力を適正に保つことが必要となる。また、配管内の標準的な流速について、一般に、流速が1.5~2.0m/秒であればウォーターハンマーは生じないとされる。

 また、ウォーターハンマーを防止するためには、エアチャンバー(水撃防止器)を設けることも有効である。エアチャンバーとは、ウォーターハンマーの発生源となる弁や水栓付近の給水配管に取り付けることによって、ウォーターハンマーの圧力波を吸収するものである。


Point ウォーターハンマーを防止するために、各水栓器具に減圧弁を設ける必要はない。


② クロスコネクションの禁止

 クロスコネクションとは、飲料水の配管設備(これと給水系統を同じくする配管設備を含む)とその他(井戸水・消防用水・工業用水・雨水など)の配管設備とを、直接連結させることである。必要に応じて、弁(バルブ)で給水系統をきりかえて使用できる状態であっても、クロスコネクションとなる。


Point 飲料水の給水系統と消防用水の系統は、逆流を防止する装置などを利用しても、直接連結することはできない


 クロスコネクションは、水道水の安全・衛生を確保するために禁止されている。クロスコネクションの状態だと、水道水以外の水が水道事業者の水道本管(配水管)に逆流してしまうおそれがあるからである。たとえ弁が付いていたとしても、弁の誤操作や故障などによる逆流が生じるおそれがあるので、クロスコネクションとなる。

(6) 弁類

 給水設備には種々の弁類(バルブ)が用いられるが、主なものとして仕切弁、逆止弁、減圧弁などがある。配管に設置されて、配管内を流れる水の流量や流れの向き・圧力などを制御する働きがある。


① 仕切弁

 仕切り弁とは、水門のように板状の弁が流路を仕切ることにより流路の開閉を行うものである。ゲートバルブともよばれる。給水を停止するときは弁を閉じ、給水を開始するときは弁を開ける。


② 逆止弁

 逆止弁とは、配管内の水の逆流を防止するものであり、配管内の水が逆流すると弁が閉じる構造になっている。

チャッキバルブ、チェッキバルブともよばれる。


③ 減圧弁

 減圧弁とは、配管内の水圧が高い場合に、これを一定の低い圧力にまで下げるものである。弁内部に圧力を感知する部分があり、圧力の変化に応じて弁の開き具合を調整することで圧力を一定に保つ仕組みになっている。高置水槽方式による下層階への給水などに用いられる。


④ バキュームブレーカ

 バキュームブレーカとは、水使用機器において、吐水した水または使用した水が逆サイフォン作用により、上水系統へ逆流するのを防止するための逆止弁である。大気圧式と圧力式があり、大気圧式は常時圧力のかからない配管部分に設けるもので、圧力式は常時圧力のかかる配管部分に設けるものである。