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1財政理論

堀川 寿和2021/12/08 09:28

 最近の財政に関する出題は、税制を含め、時事的な観点からなされているといえる。特定の分野にヤマを張って正解するのは難しくなってきているので、対策としては、早めに基本的事項をおさえた上で、8月くらいまでの日本の財政に関する特徴的な事項についてまとめておくことが必要となる。


財政の意義と機能

(1) 財政とは

 国や地方公共団体等、公権力を有している組織の行う活動のうち、その経済的側面をとらえたものである。財政は、その活動主体によって、国の活動である「国家財政」と地方公共団体の活動である「地方財政」に分けることができる。


(2) 財政の機能

① 資源配分の適正化

 資本主義経済においては、資源配分は基本的には市場機構を通じて行われる。しかし、利潤追求を目的とする民間の経済活動によっては、公共的な財貨・サービスは、充分に供給されない。

そこで、政府は、自らがこれらの財貨・サービスを供給することにより、適正な資源配分を行う。例えば、政府が供給する財貨・サービスとしては、外交・国防・司法・警察・教育・道路・港湾が挙げられる。

② 所得再分配

 市場機構を通じて行われる所得配分では、格差が生じてしまう。そこで、政府がこの格差を是正することが求められる。具体的には、歳入面では、所得税等の累進税率によって高所得者には高い税負担を求め、歳出面では、低所得者に社会保障給付を行う等の政策がとられる。

③ 景気の安定化

 景気変動によって、失業やインフレを招く等のおそれがある。このような景気変動の波をできるだけ小さくして、完全雇用を達成し、物価の安定を図ることが財政の役割の1つである。

この財政の景気安定化の手段として、自動的に景気を安定させる機能であるビルトイン・スタビライザー(自動安定化装置)と、意図的に景気を安定させる機能があるフィスカル・ポリシー(意図的政策)がある。


財政理論

(1) 古典派の財政理論

 アダム=スミスを創始者とする古典派経済学では、政府が民間経済に介入するべきではないとされている。スミスは、自己完結的な経済秩序の下での政府の介入は、経済の「自然秩序」を混乱させる原因となると主張した。このように、古典派の主張は、おおむね経済に関しては自由放任の政策をとるべきであり、政府は、国防や治安維持等、必要最小限度の役割を果たすべきであるというものである。


(2) ケインズの財政理論

 1930年代の世界恐慌は、大量の失業者を発生させ、深刻な不況を引き起こしたが、従来の古典派の財政理論では恐慌を克服することができなかった。そこで、ケインズは、財政・金融政策を通じて総需要を管理することが、不況の克服には必要であると主張した。そして、第2次世界大戦後、世界の先進資本主義国は、ケインズの主張に沿った政策をとるようになった。また、財政・金融政策による不況対策に加えて、社会保障制度の拡充や経済計画の作成等、さまざまな面で政府の介入が行われるようになり、政府の役割は以前とは比較にならないほど大きくなった。


(3) マネタリズム

 ケインズの主張に沿った政策は、1970年代の石油危機とその後のスタグフレーションの中で、多くの批判を受けるようになった。すなわち、総需要政策は、物価上昇や財政赤字をもたらすだけでなく、「大きな政府」を生み出すことになりがちである。この結果、行政機構が肥大化し、効率的な経済運営を行うことが困難な状況も生じた。このため、フリードマンらは、財政規模の縮小、規制緩和等による競争の回復を目指した「小さな政府」を提唱し、これがアメリカのレーガン政権等で採り入れられた。これらフリードマンらの主張を、マネタリズムと呼んでいる。マネタリズムでは、市場に供給される通貨量のコントロールが重視される。


【用語チェック】 スタグフレーション

不況下で商品や労働力の供給過剰が生じているにもかかわらず、物価が上昇する状態のこと。



財政による景気の安定化

(1) ビルト・イン・スタビライザー

① ビルト・イン・スタビライザーとは

 景気を自動的に安定化させる機能を備えた財政上の仕組みのことで、財政の中に制度的に組み込まれているものである。

② 好況時

 好況時には、国民所得が増加し、累進税率をとる所得税を中心に実質的な増税となり、民間の資金を政府が吸い上げるので、民間需要が抑制される。また、好況時には、失業率が低下し、失業保険給付や生活保護費等の社会保障関係費の支出が減少して、その分、需要が抑制される。これらにより、過熱した景気が抑制される。

③ 不況時

 不況時には、国民所得が減少し、所得税を中心に実質的な減税となり、その分、民間の手元に資金が残るので、それだけ需要の落ち込みが緩和される。また、不況時には、失業率が上昇し、失業保険給付や生活保護費等の社会保障関係費の支出が増加して、その分、需要が促進される。これらにより、落ち込んだ景気が刺激される。




好況時不況時
歳入増加減少
歳出減少
(社会保障関係費の支出が減少するから)
増加
(社会保障関係費の支出の増加)


(2) フィスカル・ポリシー

① フィスカル・ポリシーとは

 増税・減税、財政支出の抑制・促進等、意図的に財政の内容や規模を操作することによって、景気を安定化させることをいう。これらの政策は、政府が景気の動向を判断しながら適切な時期に行う。

② 好況時

 好況時には、増税により、民間の資金を吸い上げ、また、公共投資等の財政支出を減らして、需要を抑制する。これらの政策により、過熱した景気が抑制される。

③ 不況時

 不況時には、減税により民間の手元に残る資金を多くすることにより、需要の落ち込みを緩和することができる。また、公共投資等の財政支出を増やして、需要を増大させる。これらの政策により、落ち込んだ景気が刺激される。




好況時不況時
歳入増加(増税のため)減少(減税のため
歳出減少(財政支出を抑制するため)増加(財政支出を促進するため)